文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day02 金魚鉢を模した透明なアクリルの中、赤く透き通った尾鰭を揺らめかせているのは金魚だった。誰も使っていないデスクの上に置かれたアクリルの下に置かれた機械はモバイル端末と繋がれ、草臥れたティーシャツを纏う青年は唸りながらもキーボードを叩く。カチャカチャとプラスチックが擦れあう音を響かせる自身の教え子でもあった青年――汐見の姿を横目で見つつ、吉嗣は訝しげな表情を浮かべながら紙巻きタバコを咥えていた。
「汐見お前、休みだってのにこんな所で何やってんだよ」
「センセにも同じ言葉が返ってくるってわかってます?」
春先に比べれば少し伸びた髪を後ろで括り端末の画面を睨んでいた汐見は、吉嗣が指先で弄んでいたオイルライターから涼しげな金属音が響いたのにジロリと視線を向けたかと思えばすぐに端末へと向き直る。
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