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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2022-08-26/私はこのシーンを書くために13万字書いてきたんですよ。
    明日の更新へ続く!(キートン山田声で)

    ##空閑汐BL
    ##静かな海
    ##デイリー
    #BL

    空閑汐♂デイリー【Memories】26 金属製の床を高らかに鳴らしながら駆けていた。リバーシブルのブルゾンを走りながら裏返し羽織り直せば、背中には軌道警察局のロゴがはためいている筈だ。こうする事で少なくとも自分が職務中の警察官で、目の前を走る男を追っている事が周囲にも分かるだろう。空閑はそんな計算と共に走り続ける。瞬発力はあるのだろう目の前の男は、チラとこちらへと視線を向けてその速度を上げた。
    「――っ! 待て!」
     バディを組んでいる筈のグェーリィンヌは隣には居ない。多分置いてきてしまった。けれど、彼を待っていれば男を見失う。追いつきそうで追いつけない、あと少しで手が届くが――ここで失敗すれば見失うリスクが高い。それだけは避けなければ。
     空閑が付かず離れずといった距離で追い続けた事が功を奏したのか、男はローバー乗り場にもトラムウェイにも目もくれず一目散にノースエリアへと走る。その状況に小さく舌を打った空閑は、無線機に繋がるマイクへ「宇宙港だ!」と男には聞こえないように小さな声を落とした。
     空閑が追っていたのは、過激派テロ組織の一員で。下っ端とは言えその男を取り逃せば、次に何処で何が起こるかなんて考えたくもない。そして空閑にとってはその組織は因縁の相手とも言える組織でもあったのだ。
    「君には関係ないかもしれないけどね! 俺は君たちのせいで進路変更させられてんだよ!」
     文句の一つも言ってやりたかった。今はもう全く問題ない左肩ではあるが、引き攣れた傷跡だけは残っている。そしてその傷は、一度空閑の全てを奪った傷だった。
     空閑の文句には答える事なく男は走り続ける。少しだけ男の姿勢が揺らぐ――持久力は空閑に軍配が上がっているらしい。口元だけで弧を描き、空閑は男を追い続ける。
    「一般の方は避けて下さい! 逃げて!」
     宇宙港に入り込んだ男は、入口に立つ警備員を手に持っていたらしいナイフで切り付けていく。突然の事で男を止める事もままならなかった警備員を横目に、空閑は男の進路に居る宇宙港の利用者へと声を張り上げながら叫ぶ。
     ――いくらオーベルトが狭いと言っても、流石にサウスエリアからノースエリアまでの全力疾走はキツいな。
     上がりはじめた呼吸に再び舌を打ち、離れ始めた男の背中を追う。向かう先は到着ロビー。そこからハイジャックでもしようというのだろうか。到着口からロビーへと向かっていた客は、返り血を浴び血に濡れたナイフを握った男が走り込んでくる様に逃げ惑いはじめる。
     そこに立ち止まっていたのは、筋肉質な男とひょろりとした細身の青年で。かつて存在していたアメリカ航空宇宙局の青々としたワッペンが縫い付けられた黒い野球帽を目深に被り、胸元に鷲の意匠が刺繍されたワッペンが付いている黒いナイロン製のフライトジャケットを羽織ったジーンズ姿の青年は、恐怖か混乱か――兎に角その場に立ち竦んでいて。フライトジャケットの襟元で、きらりと何かが光る。
    「そこの人! 早く逃げて!」
     ラストスパートだと床を蹴った空閑の声に、怯え立ち竦んでいる筈の青年が不思議と小さく笑ったように見えた。
     細い方が御し易いと思ったのだろう男は、青年へと向かい刃物を振りかざす。その右腕を掴んだのは、青年の隣に立つ筋肉質な男ではなく青年その人で。
    「――え、」
     思わず足を止めた空閑の深い海色の瞳には、いとも容易くナイフを持った男の腕を掴み引き寄せ――そのまま綺麗な一本背負いを決める青年の姿が映されていた。
     青年の激しい動きに耐えきれなかったのか、彼が被っていた野球帽が舞う。黒く艶やかな短い髪は、彼に精悍な青年らしさを与えていて。床に打ち付けられた男の肩をそのまま固めた青年は、おおよそ人体から響かせていい音ではないような音を立てて動かなくなってしまった男の背に腰を下ろす。
     一瞬だけ、青年の切れ長な瞳が空閑を捉えた。
    「……おい、ネクタイよこせ」
    「おう……」
     隣に立つ男に手のひらを差し向けた青年は、しゅるりと解かれ渡されたネクタイで男の両手首と足首をひとまとめに縛り上げていく。その手つきには容赦がない。
     覚束ない足元でふらりと一歩だけ足を進めた空閑は、震える声でその名を口にする――それは空閑が愛する男の名前だった。
    「――っ、あま、ね……」
     空閑の記憶より短くなった髪は、今の彼によく似合っていた。端正な相貌はあの頃から変わらず、猛禽類を思わせる切れ長の瞳が再び空閑を捉えて。
     空閑の心臓が、ドクリと跳ねる。
    「やっと会えたな、ヒロミ」
     ふわり、と柔らかな笑みを見せる青年――汐見を視認した空閑は、思わず踵を返し汐見から逃げ出すように一目散に駆け出した。
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