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    monarda07

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    monarda07

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    2025年の猫の日記念(まとめました)
    謎の白猫様に振り回される燐兄さんのお話。

    白猫の置き土産指を、動かす。
    ぬるい体液がどろりと管の中を通っていくように、痺れるような感覚と共に指の形が成っていく。
    ゆっくり、ゆっくり。皮膚の下で時間をかけて、それは自らのカタチを作っていった。タールのように粘度を高くした己を練りながら、静かに、静かに……

    「──あっ」

    とまあ、魔神の落胤の深層心理の中に潜んでいるソレが何をしようとしていたかはさておき。誰にでも失敗というものはある。それが初心者であるならなおさら。こんなアクシデントが起きてもちゃんちゃらおかしい話ではないのだ。
    問題はその後の処理。そんなわけで彼が水面下でやらかした前代未聞の珍事が今、開幕する。





    【2/22(にゃんにゃんにゃん)】





    「ぐぇっ!?」

    睡眠時間11時間を記録してなお昼寝をしていた伝説を持つ驚異のロングスリーパーこと奥村燐。そんな彼の本日は、突如無防備な腹を直撃した衝撃によって強制的に始まった。
    すわ襲撃かと慌てて起き上がって一秒。ビスクドールに嵌め込まれたガラスの目のように美しい青と目が合って、ポカンと口を開ける羽目になった。

    「ンァァァアア?」
    「……は?」

    燐の持つ魔神の炎であぶったような薄い青を纏う白の毛皮。しなやかな背骨とやわらかな肉に覆われた胴から生えたスラリと伸びる手足に、しゅるりと鞭のように宙を舞う尻尾。
    猫だ。
    ねこが、いた。
    絵画から飛び出してきたような真っ白でうつくしい猫。一対の大きな三角形を描く耳に、大きな青い目と通った鼻筋。キラキラ輝く白い毛が目にまぶしい。一瞬、そんな現実逃避に走ってしまった。

    「へ? な、なんで? クロの友達……? ってか、どこから入ったんだ?」
    「にゃぁ」

    猫と言えば、燐の使い魔ということになってる猫又のクロ。もしかしたら彼の友達だろうか。しかしいったいどこから侵入したのだろう。寝る前に戸締まりはきっちりしたはずだし、慌てて周囲を見回しても半開きになったドアや窓は見当たらない。

    「にゃぁぁぁぁ」

    白猫はニコニコと笑っている。無邪気に楽しそうに。見る分では悪魔という感じはまったくしなかった。では、いったい何だろう。この猫は。ここまで綺麗な猫なのだ。誰かに飼われているのではないかと思ったが首輪らしきものは着けていない。

    「んにゃぁ」

    どうやら腹に入った重い一発は、この猫が飛び付いてきたときのもの。面積が小さい分、脚の一本にかかる重量は半端ではない。みぞおちに一撃食らって本気で吐くかと思った。
    しかし謎の白猫に他意は無い。ニコニコ機嫌良さげにノスノスと燐の胸の上を歩いて、その鼻先をちょんと燐の鼻先にくっつける。

    「お前……どっから来たんだ?」
    「にょぉん」
    「クロの友達か?」
    「みゃぉん」

    その時、まるで白猫が「お前はバカか」と言わんばかりに口元を意地悪に歪めた。もしもこの猫が人間だったら、まるで……そう、まるでメフィストのように意地の悪い笑みを浮かべていただろうというほどの。

    「まさかメフィストってわけじゃねえよな」
    「かッ」

    メフィストの名前を口にした瞬間、白猫が顔を顰めて痰を吐くような音を出した。俗に言う空気砲というやつである。反応を見るからにはメフィストではなさそうだ。
    では、いったいこの猫はなんなのだろう。猫又のような悪魔……だろうか。それにしては燐が言葉を理解できないのは不自然だ。やはりただの猫なのだろうか。

    「しょうがねえな……メフィストに聞いてみるか」
    「うにゃぁぁ」

    先ほどからメフィストの名前を出す度に不服そうな声を出す。人語を解するほど知能が高いのだ。これは増々、ただの毛玉ではない。

    「あ、オスだ」
    「ふぎゃぁっ!」

    ふぐりの存在に気付いてつついたら、白猫から潰れたような悲鳴が上がった。




    【2/23(にゃんにゃんミー🎵)】




    カチャ、カチャ……と食器の音を立てながら朝ごはんを口に放り込む。本日、雪男は泊まりがけの任務にて不在。クロはとっくに朝の見回りに出た後だろう。

    「…………」

    ホッカホカの白ご飯にワカメと豆腐のお味噌汁。ほうれん草のおひたしに香ばしく焼かれた塩鮭。ご機嫌な朝食である。爽やかな一日の始まりに相応しい。至近距離から来る威圧感さえなければ。

    「……なあ」
    「んにゃぁぁ」
    「お前、マジでなんなの……?」

    燐は自分の肩の上に乗って待機する謎の白猫にうんざりしながらひとりごつ。いったい何なのだこの猫は。
    朝食を作っている最中からずっとこれだ。おかげでいつもの倍の時間をかけてしまった。クロでさえ料理中はきちんと距離を置いてくれるというのに、図々しいにも程がある。もしかしたら、もしかして。ふぐりをつついたのを根に持っているのだろうか。だとしたら謝っただろうに。
    いや、違う。燐が口に運ぶ朝食を舌なめずりをしながら見ているではないか。この白猫、明らかに狙っている。塩鮭を。

    「おい、やめろよ……俺用の朝ごはんだぞ……」
    「みぃ〜みいいぃぃ〜」
    「そんなカワイイ声出しても無駄だ。これは塩が多すぎる」
    「みぃぃぃ……」

    あからさまにショボくれる白猫。雨の中で数日飢えてようやくありつけた餌を取り上げられたような声で鳴かれ、思わず顔が引き攣った。これではまるで燐が悪者ではないか。

    「マジでやめろって……」

    静かなる牽制と水面下の攻防が続く。だが朝食とは忙しい朝に適応しており、すぐに食べ終わってしまうもの。あっという間にほうれん草のおひたしと味噌汁を胃に収め、残るは問題の塩鮭とごはんのみ。
    これは困った。非常に困った。塩鮭をこのまま口に運べばこの目ざとい白猫のことだ。確実に箸でつまんだ塩鮭の欠片を横取りしてくるだろう。現に燐が塩鮭を自分の元へ運んでくるのを今か今かと舌なめずりしながら待ち構えている。

    「みぃ、にゃぁん」

    既に食べた気でいるのか、燐の肩の上で何度も何度も口をはぐはぐと動かす白猫。しかし視線はしっかり燐の手元に狙いを定めている。手強い。中々手強い。
    仕方がない。あまり使いたくない手だが背に腹は代えられないだろう。塩鮭の端をほぐし、白米の上に乗せる。その上にさらに周りから崩してきた白米を乗せてサンドした。これなら白猫も手出しはできないだろう。
    などと高を括っていたが甘かった。燐が白米でサンドした塩鮭を改めて口に運ぼうとしたその瞬間。がッ、と。白猫が箸を持つ燐の手に爪を引っ掛けた。そして唖然とする燐が反応できないでいるのを良いことに、猫とは思えぬほどの膂力で無理矢理自身の元へ引き寄せ、はぐり、と白米サンド塩鮭を口に放り込む。
    一瞬、猫に似た別の化生の類かと思った。それくらいに大きな口を開けて中にびっしり生え揃った牙を見せ付けていた。
    しかも、もぐもぐと白米ごと塩鮭を咀嚼しつつも「にたぁ」と邪悪な笑みまで浮かべているではないか。間違いない。この白猫、腹が空いているわけではない。明らかに燐への嫌がらせを主目的として食事を狙っている。

    「みぃ」
    「こ……このヤロウ……」

    と思いきや、天使のような声を上げながら、アーモンド型の大きな目をパチパチ瞬かせて自分の可愛さを全面アピールしだした。これには燐も口元を引きつらせる他ない。

    「おい……そんなこと言っていられるのも今のうちだぞ。後でメフィストんとこ行くからな……」
    「う"う"ぅ"ぅ"ぅ"……」

    やはり白猫は人語を解しているようだ。メフィストの名前を出した途端にあからさまな不機嫌アピールを始めた白猫が、調子に乗って自分の身体を大きく見せようと背中を持ち上げたと同時に燐の肩からずり落ちて行った。間抜けめ。
    それを見て溜飲を下げるように鼻で笑った燐は、白猫が体勢を立て直す前にと急いで塩鮭を口の中に放り込んだ。





    【2/24(にゃんにゃんシャー💢)】





    「うぎゃぁぁあああ!! シャーーーー!!」
    「ってなワケなんだが、こいつのことなんか知らないか?」
    「…………」

    朝食の後、いきり立つ白猫の首根っこを掴んでヨハン・ファウスト邸にやってきた燐。そんな彼だが質問を投げかけている間にも、メフィストを視界に入れた瞬間、狂ったように暴れて襲いかかろうとする白猫を何とか抑え込むので精いっぱいなので本気で余裕がない。本当に困っているのだ。クロが連れ込んだ友達でもなさそうだし、明らかに燐に狙いを定めてちょっかいをかけてきているのだから。さすがにこれ以上のイタズラが続くのは看過できない。たとえそれが猫らしいものであっても、だ。

    「マジで困ってんだよぉ〜! どうにかしてくれよメフィスト〜」
    「フシャーーー!!」

    寮を出る前にも色々あったので勘弁してほしい。わざわざこちらの様子を確認してから机の上に置いていた筆記具をちょいちょいと肉球で押して落とし、かと思えば燐の進行方向にわざわざ飛び出しては足に触れた瞬間大袈裟に倒れ込んで非難がましい目を向ける当たり屋行為に手を染める。
    クロでさえしなかったような、猫がするイタズラ百選を片っ端から実施しようとする白猫のあまりのしつこさに辟易した燐が助けを求めているのに、しかしメフィストは難しい顔をしてだんまりを決め込んでいた。

    「……奥村くん」

    神妙な面持ちで口を開いたメフィスト。どこか緊張感が漂っていて、ただ事ではないと感じた燐が頭を抱えたままピタリと止まって彼を見た。白猫だけが暴れ回って威嚇している。

    「貴方、本当にこの白猫の正体が判らないのですか?」
    「え……いや、全然」

    それが判っていたら苦労はしていない。この言い方だとメフィストは白猫の正体に思い至ったのだろうか。
    メフィストの節くれだった長い指先が、真っ直ぐ燐に向けられる。

    「……ん?」
    「貴方です」

    衝撃のひとことだった。
    メフィストに名指しされた燐が、一瞬誰のことか判らずにキョロキョロと周囲を見回す。当然だがヨハン・ファウスト邸のメフィストの執務室には、部屋の主であるメフィスト以外には訪問者の燐と白猫しかいない。つまり、メフィストが指先で示しているのは間違いなく燐ということになるではないか。

    「その白猫は貴方ですよ、奥村くん。正確に言えば狂暴な方の貴方……の、破片のような存在でしょうか」
    「……マジで?」
    「マジです」
    「シャーーーー!!」

    相変わらず白猫だけがバタバタと暴れてる。信じ難いが、いつになく真剣な眼差しでメフィストが断言するのだから本当の話なのだろう。

    「いったいどういうことなんだよ……」
    「自力で器を作って受肉しようとしたのでしょうね、大方」
    「そんなことできんの……?」
    「できませんよ、普通は。ですがまあ、あれだけハッキリとした自我が存在していてなおかつ魔神の炎を持ってるのならあり得なくはないです」
    「ハァァァッ!!」
    「え、えーっと、つまり……どゆこと?」
    「君の青い炎はエネルギーの塊ですからね。リソースには事欠かないでしょう。後は細胞を少しずつちょろまかして、魔力で捏ねて育てていたというわけです」

    要するに。燐の側面である悪魔としての彼は、自力で燐から独立しようと思ってこんな手を思い付いたらしい。本人の預かり知らない所でまさかこんなことが起きていたとは。

    「ですがまあ……この手の術に雑念が入るとこうなります」
    「こうなるのか」
    「シャァァアアア…………ハーッ!!」
    「どうせ、あともう少しで君から独立できると思って浮かれて意識が疎かになったせいで手が滑ったのでしょう。うっかりさんですねぇ」
    「う"ぅ"ぅ"う"う"う"う"ぅ"……」

    とうとう唸り始めた白猫を前に途方に暮れる燐。白猫の正体と発生した原因は知ったが、だからなんだという話である。

    「え……これ、ホントどうするよ……ってか雪男になんて言えば……それ以前にクロがまた浮気だって騒いで家出しちまうんじゃ……」
    「ああ、ご安心を。受肉は完全に失敗していますし、能力的にはただの猫です」
    「そうなの?」
    「はい☆ ですので青い炎を出して暴れることもなければ、猫以上の身体能力もありません。ついでに、存在の大部分を君に依存しているので遠くに行くこともできないでしょう」

    だからこんなに燐につきまとうのか。合点がいった。意味はイマイチ判らないが、とりあえず遠くの方へ行ってしまわないのだけは理解して安心する。ある意味で燐の一部のような扱いなのだろう。それにしては燐よりメフィストを嫌っているのが気になったが。

    「しかも猫のカタチに引きずられて知能も猫並になってるようですしね。人の言葉も話せないようですし、ただの猫として扱えばよろしいかと」
    「…………え?」

    そんなわけ無いだろう。明らかに猫以上の知能はあったぞと突っ込むか迷った。

    「ですが、しょせんは失敗。大して長くは活動できないでしょう。おそらく明日の朝には消えているかと」
    「えっ」
    「ああご心配なく。それは貴方の一部ですのでね。厳密には消滅するのではなく、貴方に吸収されるだけです。元から無かったことになるのではなく、記録という形では残るでしょう」
    「そっ……か」

    なぜだか悲しくなった。いや、そもそもこの白猫はハプニングによって出現した存在だ。本来は存在してはいけないバグの類であるのは理解しているのだが、それでも納得できるかと言われたら別の話である。

    「それまできちんと面倒を見てあげなさい」
    「……うん」
    「ハーッ……うな?」

    白猫だけが何も判っていない顔をして、燐を見上げながらキョトンとしていた。






    【2/25(にゃんにゃんゴロ……💕)】




    そんなわけで白猫を抱えて帰ってきた燐が、雪男とクロに説明することカクカクシカジカ。明日の朝には消え去るであろう小さな同居人と夜を過ごすことにした。

    《りんとまったく同じにおいがすると思ったんだ》

    意外にもクロは、いきなり現れた白猫に嫉妬していじけたりはしなかった。一応、燐の一部としてカウントされている存在なので、あまり異物感が無いのが理由だろうか。
    雪男は雪男で複雑な表情をしていたが、今日一日だけというメフィストの言葉を一応は信じることにしたらしい。

    「いやぁ、それにしても朝目ぇ覚めたときはびっくりしたよ。こいつに叩き起こされてさー」
    「…………」

    ベッドの中に入った燐の掛け布団の上でゴロゴロ喉を鳴らす白猫を、雪男がドン引きしたような目で見ている。本当にこれが“アレ”なのかと疑うような眼差しだ。いくら知能まで猫化しているとはいえ、あまりにも変わりすぎではないか。
    完全にトロトロに蕩けた青い眼差しを燐に送りながら、何度も何度も彼の胸元に頭を擦り付けている。よく耳を澄ませば機嫌よく喉まで鳴らしているではないか。
    本当にこれがあの、雪男の双子の兄を目障りだと嗤いながら消そうとした魔神の落胤なのかと首を傾げるしかない。今日一日だけだからと《仕方がないなぁ》と肩を竦めつつ、先輩風を吹かせながら自分の定位置を白猫に譲ったクロを撫でながら、雪男は困惑していた。

    (いや、知能が猫並に低下したから……か?)

    猫並の思考しかできなくなったことで、憎悪や嫉妬など複雑な感情が取り除かれて、より本能に忠実な獣の行動を取っているとすれば、アレはもしかして燐に構ってもらいたかったということなのだろうか。
    アレがそんな殊勝な考えを持っているとは思えないが、雪男としてはとりあえずそのわざとらしく媚を売る態度をどうにかしてほしいと思う。とてつもなく苛つく。だが一応は燐の一部であるし、兄に何か影響があったら困る。

    「あ、おいこら。なにするんだ」

    悶々と悩みながらぎゅっと目を閉じて葛藤すること数分、雪男が何か嫌な予感を覚えてカッと目を見開いたとき、やはりこの畜生を早めに始末しておくべきだったと後悔することとなった。

    「おいおい、どうしたー? 俺の胸なんか揉んだって何もでねーぞ?」
    「ちょ──」

    年長者特有の甘く優しい口調で困ったように白猫に語りかける燐の眼前で、白猫がゴロゴロふみふみしながら彼のシャツの胸元を咥えてもぐもぐしているではないか。
    あまりにもぶっ飛んだ光景を直視してしまった雪男の眼鏡がパリンヌと割れ、あまりにも色々な感情が一気に爆発したせいで絶句するような表情のまま固まってしまった。

    「ちょ……バカ! くすぐってぇよ! ははは……」
    「ん"ん"ん"……ふん…………ゴロゴロ……ゴロゴロ……」

    ふに、ふに。と兄の胸を揉む白猫。が、こちらにちらりと視線を寄越しながら含み笑いをする。いや、したように見えたのだ。本当に。
    その瞬間、一気にブチギレて噴火した雪男の行動は非常に早かった。

    「このヤロウ……! 猫だと思って大目に見てたら調子に乗りやがって!!」
    「ゆ、雪男!? 落ち着けよ!」
    「カカカカカカッ」

    ガシャコンと愛銃に弾丸を装填し、血走った目で白猫に狙いを定める弟に驚いて燐が慌てて静止する。
    ちなみに当の白猫はわざわざ雪男の方を向いてからクラッキング音を奏でていた。完全におちょくっている。何が知能は猫並、だ。どう考えてもそれ以上の知恵があるではないか。

    「ちょ、マジで落ち着けよ!」
    「兄さんどいて……そいつ殺せない……!」
    「だから落ち着けって! 猫だぞ! いや、確かに元ネタは悪魔の俺かもしんねーけど、今はただの猫だから!」
    「どこがだ! 明らかに判っててやってるぞ、そのクソ猫!! やっぱりそいつ魔性の類だよ兄さん!」
    「頼むから落ち着いてくれーー!!」
    「にゃぁ……ケケケケケッ! グルグル……」

    喉を鳴らしながら邪悪な含み笑いをする白猫を尻目に、キレる雪男となだめる燐の攻防はしばらくの間続いたそうな。
    それを尻目に、なんとも迷惑だとばかりにクロはあくびをしていた。



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





    そして翌朝──白猫はメフィストの宣告通りに抜け毛一本残さず綺麗さっぱり消え去っていた。まるで最初からそんな存在、いなかったのだと言わんばかりに。

    結局、白猫に猫以上の知能があったかどうかは不明だ。今までの行動も猫の習性だと言われてしまえばその通りだし、それだけで悪魔だと断じたら世界中の猫は猫又を含めて全て悪魔が変じた姿ということになってしまう。
    たった一日、されど一日。元から自分の一部であったはずなのに、白猫は燐の心に猫の形をした穴を一つ開けて去っていった。
    別に消滅したりはしていない。燐の中に帰っただけだ。それに一度でもあった出来事を無かったことにはできないように、白猫は関わった者たちの記憶の中に居座り続けるだろう。とまあそんな風にしんみりしながら、いつかそれを遠い日の小さなハプニングという思い出にするために、また新しい一日が始まるのである。

    だが奥村兄弟は知らない。白猫が片っ端から実施していた、猫がしそうな行動百選最後のトラップ(と書いてゲロと読む)が、とある場所に放置されていることを。
    それが時限爆弾のように発動するのはいつのことになるやら。ただ一つ言えるのは、自分が残したそれが大騒ぎをもたらすのを遠目で眺める白猫がいるということだけである。



    END
    2025/02/22〜25
    『猫の日記念』
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