彼者誰刻のドラセナ「おはよう。今日も早いな」
深緑の香りが混ざる、透明な朝の光りを受けて、窓際のカーテンが揺れる。
己の声に嬉しそうに振り向いて、ふわりと胸に飛び込んで来たミスタを、ヴォックスは軽々と抱き止めた。
「良い天気だし、買い物にでもいこうか」
食が細いミスタの為に、朝はスープを作る事が日課になった。小さく刻んでトロトロになった野菜なら、文句を言わずにキチンと平らげて、低血圧の頬に血の気を廻らせうーんと伸びをする。
幸い本日は日曜日で、あちこちでマーケットが開催されている。芽吹きの季節を迎えて青々とした食料品を買い込み、ふとミスタを追って振り返ると、アンティークのアクセサリーを広げている一角で、何やら思案しているのが見えた。
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