A.逃しませんが何か?「お前は、人間じゃ無いから」
「だから、好き」
お気に入りのヌメ革のソファに沈み込みながら、ミスタがぽつり。と呟いた。
極自然に、ほろりと落したその言葉に幾つかの仮定を立てながら、ヴォックスは持って来た毛布でミスタを包み込むとぎゅっと抱き締めた。
暫くモゾモゾと逃げ場を探すように身動いだ後、漸く観念して自分に身を預けたその背を撫ぜながら、彼の中で膨らんで弾けそうな思考をもう少し、吐き出させんと言葉をかけた。
「それで、永遠か刹那の、何方に折合いが付いたんだい?」
ヒュッと息を呑む音がして、悪戯を咎められた子供のような顔でちら。とこちらを見たかと思うと、さっと首を縮めてグリグリと肩口に擦り寄った。
「ひとつ。私がミスタから離れても、ペットに飽きたとでも思えば諦めが付く」
毛布越しから、ぎゅっと身体が強張るのが伝わる。肩甲骨から脇腹にかけて、ゆっくり掌全体で撫でながら更に続ける。
「ひとつ。ミスタの寿命まで付き合っても、私からすれば一瞬だから時間を無駄にした等と言わないかもしれない」
少し、筋繊維が弛み、僅かな鼓動と共に仄かに体温が上がった。どうやらコチラが正解らしい。
つまり、自分の心は移ろわないと盛大な告白を言外に示している訳なのだが。
思わず口元が緩んで笑いが出そうだ。本人は毛布の中で全く気が付かないのも好都合。
「其処に私がお前を想う心持ちの度合いは考慮されていない気がするが…?」
意地悪く前提条件を混ぜ返してやると、ガバリ!と眉を下げて悲壮な顔をした小動物が顔を出した。
強めに額からクビへと滑らかな髪を漉きながら撫で、告げる。
「安心して良いぞミスタ。私は人外だから、肉体が擦切れて無くなっても、剥身の魂もずっと手元に置いて愛でてやるから」
うん?と今ひとつ認識出来無い部分に首を傾げた仔狐に、鬼は蕩ける様な微笑みを向けた。