傘と怪異と学生と傘と怪異と学生と
雨傘の上で跳ねる雨の音を聞きながら、大学に向かう。アスファルトの上を歩くたびに、ピタピタと水気を含んだ自分の足音が一定のリズムで聞こえてくる。途中、同じ大学に向かっているであろう女子学生を追い越しながら、講義に間に合うように少しずつ歩みを速める。
校門を抜け、教師に向かおうとしたその時、声をかけられた。
「ねえ」
聞き馴染みのある声だった。私の専攻する近代文学に詳しく、文学に関する講義を担当する先生だ。今ここに着いたのか、校門前で黒い雨傘を携え、歩道脇に佇んでいる。
「ちょっといいですか」
校門の外側と内側、そこで向かい合うようにして、先生と私は顔を見合わせている。
「どうかしましたか?」
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