そのとき両手はいつもと違うことなんてなかった。いつも通り学校を出て、駅に行って、電車を待つ。大抵この待ち時間に、先に学校を出た遥に追いついて。
いい加減それにうんざりしているらしい遥は、待っていた位置から足早に歩き出した。どうせ同じ電車に乗るのに、としつこく着いていくと、どんどん同じ顔が歪んでいく。
ついには我慢の限界らしい遥から罵声が上がった。
「着いてくんじゃねーよ!」
追い払うように振り回された手は、よくあることだから軽々避けられた。ここまでは幾度となく繰り返されてきた二人の日常と言えたかもしれない。
遥の手を避けるため後ろに下がった奏の足が、空を踏んだ。
「あ」
あっけないほど空虚な呟きは、遥の耳にしか届かない。すぐに異変に気づいた遥は、手を振り抜いた体勢のまま硬直した。
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