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    くぼぼ

    @stm_susk

    イベント用に作成しました。
    スタミュ・フロゴナ関連を載っけていきます。

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    空閑×天花寺
    付き合う前の二人が水族館デートに行く話。OVAEDと空閑家を経た設定になっています。だいぶ少女漫画になってしまいました…

    くがてん in 水族館「愁、今日一緒に服見に行かねえ?」

    日曜日の朝。朝寝坊を決め込む寮生たちが多い中、朝食を取る人影は疎らだった。そんな中、向かい合って座る天花寺と空閑の元へ近づいてくる人物が一人。
    メインの目玉焼きから顔を上げて、虎石を一瞥した空閑は首を振ってみせる。

    「悪い。先約がある」
    「んだよ。まーた天花寺とデートかよ」

    にやついた幼馴染に否定も肯定もせず、空閑は箸を動かし続ける。反面、向かいの天花寺は不機嫌そうに箸を置いた。

    「気色悪い言い方するな、野暮助!」
    「照れんなよ。最近ずっと二人で出かけてんだろ?」
    「そっ……それは」

    反論しようとして、言葉が止まる。
    確かにカフェ巡りを皮切りに、空閑と天花寺はよく遊びに行くようになった。そう考えると確かにからかわれるくらい頻度が多い。
    否定出来ずに、ぐ、と息を詰めた天花寺に、虎石が首をすくめてみせる。

    「まーまた今度誘うわ。デート楽しんでこいよ。じゃあな」
    「おい待て!だからデートじゃねえって言ってんだろ!」

    この野暮助!
    天花寺の怒声にひらりと手を振って、その姿はすぐに見えなくなった。おそらく、戌峰辺りを誘うのだろう。
    マイペースに食事を続けていた空閑が、最後の一口を飲み込んだ。

    「ごちそうさま。天花寺、もう食わねえのか?」
    「食うに決まってるだろ!ったく、元はと言えばお前が否定しないから…」
    「デート、するか?」
    「は?」

    何を言ってるんだ。
    目の前の顔をまじまじと見つめるが、いつも通り感情は読み取れない。真顔で冗談を言うやつだ、と天花寺は身をもって知っていた。

    「俺とのデート。行くのか、行かねえのか」

    ただ、常日頃凪いでいるはずの瞳が、強い光を放って真っ直ぐこちらを見ていた。
    冗談と笑い飛ばせずに、瞳に圧される。勝手に口が返事をした。

    「い、行ってやってもいいっ!」

    押し切られた。それだけではなく。
    断ったら、空閑は虎石と出かけるのか。そんな考えが天花寺の頭をちらりと過ぎった。





    12時。駅前のロータリー、大きなペンギンのモニュメントの前。
    同じ寮で暮らしているのに待ち合わせ。意味ないだろ、と反対した天花寺に、空閑はただ一言を投げ返した。

    「デートだって言ったろ」

    なぜだか今日は押し切られている。完全にペースを握られているこの状況は面白くない。だが、ろくに反発して突っぱねることもせず、相手の言いなりになっている自分はもっと不可解で。不機嫌を隠しきれずに舌打ちをする天花寺を、何人かが横目で見ていく。
    感情に任せて早足になれば、あっという間に目的地に着いてしまった。

    「まだ時間までだいぶあるな……って」

    可愛らしいペンギン像の前に立っている男が、ひらりと手を振る。

    「早いな、天花寺」
    「お前もだろ!まだ30分以上あるぞ!」
    「楽しみだからってずいぶん早いな」
    「だから、お前には言われたくねえ!」

    同じ施設内で生活しながら、わざわざ時間と場所を決めて待ち合わせをしたというのに。二人とも大幅に時間を違えて、これではなんの意味もない。
    天花寺は脱力しながら、空閑を睨みつけた。それを気にも留めずに、マイペースな男は行くぞ、と歩き出す。

    「……楽しみだったからな」
    「は?」

    僅かに視点の上にある横顔の口角が上がっているように見えて、天花寺は目を瞬いた。
    あのいつもの仏頂面が、こんな。
    すたすたと歩いていってしまう空閑に、ハッと我に返る。

    「おい、空閑!そっちじゃねえ!野暮助!」





    入場券を買い、デフォルメされた海洋生物たちのアーチをくぐり抜けた時には、天花寺は疲れ切っていた。例によって例のごとく、方向音痴のくせに自信満々に歩を進める空閑に振り回されたせいだ。
    ぐったりと天を仰ぐこちらを尻目に、あちらはパンフレットとにらめっこをしている。その横顔を睨みつけながら、天花寺はずっと思っていた疑問をぶつける。

    「で?なんで水族館なんだ」

    返事の代わりにパンフレットがずい、と突きつけられる。開かれたページには大きな文字がいっぱいに踊っていた。

    「イルカショー?」
    「前にインタビューかなんかで、見たことねえって言ってただろ」

    天花寺は仕事以外で水族館を訪れたことはない。取材目的の仕事は、要所を周り必要な写真を撮っただけで、それにイルカショーは含まれていなかった。

    「……イルカショーはすげえぞ」
    「え?」

    急に声を潜めた空閑に、箱入り息子特有の、未知のものへの興味が刺激される。

    「やっぱ初めて見るなら一番前だな。迫力が違う。早めに行って席取った方がいいな」
    「へ、へえ……」

    いつになく饒舌な空閑に、聡明なルームメイトだったら意図に気づいたかもしれない。が、すでにイルカショーに心奪われた天花寺には到底その機会はない。
    ショーの時間帯を確認する天花寺の頭に、年末の空閑家で起こった事件は一度も浮上しなかった。





    それを思い出さなかったことを、ショー終わりに激しく後悔することになった。お土産が並ぶ売店を歩きながら、何度目か分からない文句を空閑にぶつける。

    「こんなに濡れるなんて聞いてねえ!」
    「言ってなかったからな」

    悠然とのたまう相手の服もまた、水族館のロゴの入ったTシャツで。二人揃って最前列で見事にイルカに水を浴びせられた結果がこれだ。意図せずお揃いになったTシャツの胸元にはイルカが跳ねている。天花寺はじとりとそれを睨んだ。

    「お前が、本気で楽しむにはカッパなんかいらねえ、なんて言うから……!」
    「楽しかっただろ」
    「た、の!しく、なくはなかったが」

    徐々に小さくなる言葉に、空閑が口角を上げるのが見えて目を逸らした。

    「ほら」

    唐突に手を取られて、指に何か押し込まれる。掴まれた手に何かがきらめいた。金色の中に陽光のように反射する赤。
    Tシャツで跳ねている生き物が、くるりと指に巻きついていた。

    「……指輪?」

    目の高さにかざせば、イルカの背の部分に赤い石が見えた。

    「天花寺の目の色だ。似合うな」

    なんてことのない事実のように告げられて、途端に天花寺は逃げ出したいような衝動に駆られた。むず痒いような、沸騰するような、それが熱みたいに顔へ集まってくる。

    「あ、当たり前だろ!このオレを誰だと思ってやがる、天下の天花寺翔様だ!」

    誤魔化すように叫んでみても、なぜだか目の前の男は指輪から視線を逸らさない。こちらだけ振り回されているのがどうにも癪で、天花寺も近くにあった商品を手に取った。
    銀の中に散りばめられた紫。
    自分よりわずかに大きい手を掴んで、同じ位置に指輪を押し込んだ。

    「まあ、オレ様ほどじゃないが、お前も」

    似合うぜ、と続けようとして、絶句する。
    石と同じ色をした瞳が、きらきら瞬いて。引き結ばれた口元が、喜色にふわりと綻ぶ。
    嬉しい。その感情を余すところなく押し出して、空閑は指輪を見ていた。

    「……ッ」

    思わず天花寺は自分の指から指輪を引き抜いていた。
    手のひらで握り締めたそれに、今になって薬指に残る感触に気づいた。向かいの空閑にも、同じ位置にそれがある。
    はめたのは自分だ。その事実から目を逸らすように天花寺は指輪を元の置き場へ戻す。

    「これ可愛い~!」

    横から伸びてきた見知らぬ手が、戻したばかりの指輪を手に取る。あっというまにカップルの手に渡り、わいわいもてはやされるそれをつい目で追ってしまう。
    それはさっきまで、この左手にあったのに。未練のような感情を振り払うように、天花寺の足はアクセサリーコーナーから離れようとする。

    「早く行こうぜ。まだ見てないところもあるからな」
    「……ああ」

    空閑の表情を伺うと、すでに常の無表情に戻っていた。返事が少し名残惜しそうに聞こえた気がしたが、気のせいだったらしい。空閑の手が指輪を戻すのを見届けて、天花寺は売店へ背を向けた。






    歩き疲れた二人が腰を下ろしたのは、薄暗い展示にある休憩スペースだった。人がまばらなそこはひどく静かで、遠くから喧騒が聞こえてくる。目の前の水槽でぼんやり光る塊を、天花寺の指が辿る。

    「お前みたいだな」
    「クラゲか」
    「つかみどころのねえところなんか、そっくりだぜ」

    指先で逃げていくそれが、ライトに照らされて一瞬深い紫になる。
    揶揄に反応を返さない空閑に、ふと横を見た。視線に気づいた相手がこちらを見る。
    暗い中でも紫は強い光を放っていた。

    「天花寺」

    呼びかけと同時に手を掴まれて、その熱さに驚いた。空調の効いた施設にそぐわない温度に手と顔を交互に見てしまう。焦燥感が漂うようなその顔は、見たことがないもので。天花寺は抗議することも忘れて、目を見開いていた。
    何度か躊躇するように口を薄く開いて、空閑が息を吐きだす。

    「……指輪」
    「は?」

    ようやく吐き出された言葉に面食らう。
    指輪のあった部分を、空閑の指がなぞった。

    「またここに、はめてほしいって言ったらどうする」
    「ど、どうって」

    掴まれた手に、さらに力がこもる。そのままじっと返事を待つ姿に、言葉がうまく続かない。
    空閑の冗談は分かりにくい。でもこれが冗談なんかではないことが、手の汗から伝わってくる。察せないほど天花寺は疎くなかった。
    それに応える自身の気持ちは。男同士だ、チームメイトだ、梨園を背負う立場は。でも、あの指輪を嬉しそうに見た笑顔に、とっくに答えは出ていた。
    あの笑顔を引き出せるのはきっと自分だけだ。それを自覚したとき、背筋に走った衝撃を忘れることなんてできない。

    「……だからっ、分かりにくいんだよ、お前。オレに分かるように話せ」

    まっすぐ天花寺を見て、空閑が口を開く。

    「天花寺、好きだ。俺と付き合ってほしい」

    いいぜ、俺と付き合えることに平伏して感謝するんだな!
    そう高笑いを決めるはずだった天花寺の口から漏れたのは、音にならない言葉だけで。やっとのことで首を縦に振ると、空閑が口の端だけで笑う。

    「付き合うのか、付き合わねえのか。はっきりしろ」

    やけくそのように天花寺が叫ぶ。

    「付き合ってやってもいいッ!!」
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