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    くぼぼ

    @stm_susk

    イベント用に作成しました。
    スタミュ・フロゴナ関連を載っけていきます。

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    くぼぼ

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    モブおじに絡まれる知杏です。ステめちゃめちゃ良かったの気持ちをこんな形で表現すな
    たぶん付き合ってません。

    モブおじと知杏数日前に生徒や教師たちで溢れていた永茜美術館は、今日は一般客向けに公開されている。一般客にはアート界隈に身を置く者たちも含まれており、見込みのある未来のプロたちへ声をかける光景もそこらで見られていた。
    それを取っ掛りにして仕事へ繋げていくのは、グレーダーの仕事だ。知陽も例に漏れず、自分たちの作品の近くで忙しなく客への応対を繰り返していた。開館から少し経ち客が増えて騒がしくなって来た時、人混みの中に見慣れた後ろ姿が映った気がして、知陽は足を止めた。

    「杏寿?」

    作品の評価はいらないと言っていた彼が、まさかこういった場へ来るとは。声をかけようとした知陽は、杏寿の様子がおかしいことに気づいた。
    じりじりと何かから距離を取るように足を動かしている。何か、を認識した知陽は一瞬顔を歪めて、足早にそちらへ向かった。
    杏寿へと話しかけている男へ、笑みを貼りつけてから声をかける。

    「お久しぶりです。来てくださってたんですね」

    知陽の呼びかけに、杏寿の肩へ手を回そうとしていた男が喜色を浮かべて振り返る。無事に標的がこちらへ向いたことに安堵しながら、杏寿の腕を引いた。おとなしく知陽の背後へ納まったパートナーが男の目に触れないよう、さらに一歩前へ出る。
    男の品定めするような目線は、完全に知陽へと移っていた。セクハラすれすれの行為を働くこの男の悪名は、生徒たちの間でも話題に事欠かない。この業界で顔の効く人物でもあるため、知陽はこれまでうまく躱して距離を保ってきた。
    差し障りのない会話をしながら、男が体を寄せてくる。うわ、と思わず嫌悪に笑顔を崩しかけた、その時。思いのほか強い力が、知陽の腕を引っ張った。知陽へと触れようとしていた男の手が空を切る。

    「あ……あ、あの」

    腕を引いた張本人は、青い顔をしながら知陽を見上げていた。この場をおさめる言葉を探しているのか、口達者とは言えないその口を必死に動かそうとしている。その姿に、知陽は思わず吹き出してしまった。場違いな笑いに杏寿が訳が分からない、と困惑を浮かべる。

    「な……なんで、笑ってるんですか……」
    「……ふふ、ごめんごめん」

    よそいきの笑みを貼り付け直した知陽は、男へと向き直る。

    「すみません、杏寿と展示のことで先生に呼ばれていて。ここで失礼しますね」







    知陽の弁舌でその場から脱した二人は、喧騒から逃れて美術館の外へと来ていた。人の気配がないことを確認して、知陽は大きくため息をついた。

    「ああいうの躱すの、苦手でしょ?俺が気を引いてるすきに、さっさと逃げちゃえば良かったのに」
    「……」

    風が黙ったままの杏寿の前髪を揺らす。おとなしそうに見えてしっかりと主張する赤紫色は、自然光の中で煌めいている。蛍光灯の下より綺麗に見えるそれを、知陽はじっと見つめた。視線に耐えきれなくなったのか、杏寿がようやく口を開いた。

    「さ……榊くんが、僕の代わりに犠牲になるのは……違う、じゃないですか」
    「えっ」

    予想外の言葉に、知陽は固まった。畳みかけるように杏寿は言葉を重ねる。

    「僕が嫌だと思うことは、榊くんだって平気じゃない……はずです。榊くんは、僕よりきっと……うまく対処したと思います、けど」
    「……」
    「でも」

    逸らされていた視線が、おずおずといったふうに知陽の顔を見上げる。

    「助けてくれて……ありがとう、ございました」

    黒髪が揺れて、知陽に向けてぺこりと頭が下げられる。知陽は黙ったまま、しばらく相手のつむじを見つめていた。反応がないことに、杏寿は不思議そうにそろそろと顔を上げる。

    「あ、あの……?」
    「……お前ね。あんまりお人好しだと、また痛い目みるよ」

    短くため息をついて、知陽はようやく口角を上げた。いつものような含みのある笑みを見て、杏寿の胃が嫌な跳ね方をする。じり、と無意識に後ずさった肩を引き寄せるように、知陽の腕が回される。

    「またあんなことが起きないように、ちゃーんと俺がエスコートしてやるよ。杏寿♡」
    「え、えぇ……!?」

    結構です、を必死に訴えるも、どこか楽しそうな知陽によって体は会場へと引きずられていく。キリキリと痛くなっていく胃に、どこで間違えたのかと杏寿は自問自答し続けた。
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