いいイーサンの日「なぁ、イーサン! 今日ってなんの日か知ってる?」
イーサンが報告書をまとめていると、ベンジーが後ろから声をかけてきて隣に座った。
「……今日は祝日か何かだった?」
「そういうのじゃなくてさ、日本には日付の語呂合わせで記念日がたくさんあるんだよ。8月10日がハトの日みたいな」
ベンジーは8は日本語で【ハチ】で……などと近くにあった紙に書いて説明する。先程まで報告書だったそれはあっという間に、学習プリントのようになっていた。
「今月は1が2つ並んでるから『いい』ってなるんだ。じゃあ13は?」
「いち、さん?」
「それじゃあ、まんまだろー! 伸ばしたり省略したりすんの」
「えっと……いー、さん?」
「おっ、正解ー! 今日は『いいイーサン』の日なんだぜ、イーサン」
まさか自分の名前を記念日にしてくるとは思わず、イーサンは驚きとおかしさからつい笑ってしまった。
「今日はいい僕の日なのかい?」
「そ。いいニーサンの日があるんだからいいイーサンの日があってもいいだろ!」
「ニーサン?」
「兄貴って意味」
他にもいい夫婦とかいい肉とか知っている語呂合わせを口にしながら、ベンジーは早口で話し続ける。そして『いいイーサンの日』を思いついたときのことを嬉々として語った。
「イーサンは何回も世界の危機を救ってるし、そんな『いいイーサン』に感謝するのが今日ってわけ」
「そんな……君だって多くを救ってるのに」
「ちょ、そんな褒められたら照れるだろ……って違う!」
イーサンに褒められてすぐ嬉しそうに笑みを浮かべたベンジーはすぐさま自分にツッコミを入れる。そして姿勢を正して座り直すとイーサンの方に向き直った。
「イーサンはもっと自覚したほうがいい。お前は本当にすごいよ」
「ベンジー」
「いつも、ありがとな」
感謝の気持ちなのかぎゅっとイーサンを抱きしめるベンジーの温もりが、じんわりと伝わってくる。
世界の危機を回避するのは自分の任務で当たり前のことなのに、こうして改めて感謝されるとこそばゆい。
「いいベンジーの日も作らないとね」
「語呂合わせ難しくないか?」
「じゃあ毎日でもいいよ」
自分の提案に大きく吹き出し笑い出したベンジーの笑顔は眩しくて、愛おしくて。
「だって君のおかげで、僕は世界を救えるんだ」
浮かんだ気持ちをそのまま口にすれば、ベンジーははにかみながら笑みを浮かべて、もう一度イーサンを抱き締めた。