イーサンと話しながら、マーヴェリックは昔母親と一緒に墓地に行ったことを思い出していた。たくさん並ぶ墓石の中にあった『バーニー・ミッチェル』と書かれた小さな墓に花を手向けに行ったことを。
「ピート、ここにはあなたの弟がいるの」
「弟?」
「そう、双子の弟。生まれてすぐ空に上がってしまったけれど」
「じゃあ父さんを空の上から探してくれてるかな」
「……そうね。あの人の子供だもの、きっと上手に飛びながら探してるわ」
父親が行方不明になって引きこもりがちだった母親が珍しく外に出ようとマーヴェリックを連れて訪れた場所が墓地だった。弟がいたこと、そしてすぐに亡くなったことは驚きだったが、それ以上にその時は父親が飛行機に乗って消えたことがまだ信じられなくて、弟の存在はすんなり受けていれてしまった。
本当はもう少しマーヴェリックが大きくなってから伝えるつもりだったのだろう。精神的に不安定なっていたことで、死んでしまった弟にも縋りたい気持ちがあったのかもしれない。その後次第に母親とは会話することができなくなって、実際のところはわからなかった。
「僕達って双子なのかな」
イーサンがポツリと呟いた言葉で、記憶を辿っていたマーヴェリックは意識を会話に戻した。
双子の弟は死んでいる。しかしイーサンとマーヴェリックは双子にしか見えない。他人の空似とは言い難いほどに瓜二つで、目が合った瞬間も直感的に繋がりを感じた。こういった時のマーヴェリックの勘は大体当たっている。
「……実は僕には双子の弟がいて」
「その人も似てる?」
「わからない。生まれてすぐ死んでしまったそうだから」
「そう、か。すまない」
「いや、別に。ただ兄弟なんて弟のこと以外聞いていないし、婚外子だって考えづらい。父もアビエイターで様々な地域に行ってはいたけど、その……そういう人ではないし、そもそも異母兄弟でこんなに似るなんてないだろう?」
無くなってしまった家族の繋がりをずっと求めていたマーヴェリックにとって、イーサンの存在は期待であり恐れでもあり、言葉では言い表せられない気持ちが心の中に渦巻いていた。そんな気持ちの表れなのか、矢継ぎ早にいろんな考えが口をついて出てくる。
「確かに。……僕も父については記憶がないから何とも言えないけど、君が言うならそうなんだと思うよ」
イーサンも異母兄弟よりは何か事情のある双子と考えているようだった。機密機関のエージェントをしている男だ。頭の回転も直感力も並大抵ではないだろう。
「僕達の関係について気になるなら知ることはできる。彼はそういうことが得意なんだ」
少し考え込んでいたイーサンが何かを決めたようにマーヴェリックに告げた。彼というのは先程紹介されたベンジー・ダンというイーサンの同僚だ。既にルースター達と馴染んでいるベンジーは人の良さそうな顔をしているが、二人のような職種の人間はさまざまな顔を持っているものだ。
「僕は知りたいと思ってる。君は?」
イーサンの、自分と同じアースカラーの瞳が真っ直ぐ向けられる。その視線を受けながら自分はどうなのか、マーヴェリックは自身に問いかけた。