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    qcmc8

    @qcmc8

    節操とはなんであろうか。なんでも美味しいです。

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    qcmc8

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    氷室くんと一人くんが絵を描いてどうのこうの。

    #K2
    #氷K
    #ひむずと

    一人んちの冷蔵庫は保存容器に入ったものが整然と並んでいる。
    忙しい一人のご両親と執事の村井さんが少しでも休めるように、村の人が作って持ってくるのだ。
    俺もよく親や祖父母から「先生たちに差し上げてな」とタッパーに切った果物や漬物を入れてあるのを持たされた。何なら一人んちの炊飯器で米を炊くお手伝いもする。


    「氷室でーーすこんにちわー」
    大きな扉を押し開け、診察室を覗くも人の気配はなく、不用心だなと思っていると、聞きなれた声がする。
    「奥入ってきてー」
    「一人ぉー?どこいんだよー?」
    「台所ーっ」
    診療所の玄関を入ってそのまま進むと、奥の通路がある。そこに田舎では中々ない洒落たキッチンで、ガス台の前に立つ一人は中華鍋を軽々と振って黒い長ズボンに黒いスニーカー。黒いTシャツに大人用のエプロンをかけ、三角巾を被ってる横顔は、そんなに真剣なものではない。
    「何作ってんだ?」
    「うーん?あんかけ炒飯?かなあ。俊介も食べる?」
    中華鍋のへりを滑った米が弧を描く。
    手元をよく見ないでぽいぽい放り込まれる塩胡椒鶏ガラ。力強いストロークと遠心力で米がバラけて……る、と、言う程でも無い。結構固まってる。ややイラッとしたらしい一人は、強引にお玉で解していく。
    親父さんもだけど、医療が絡まないと、落ち着いた深謀遠慮型に見えて結構短慮なんだよな~ここの父子。
    「疑問形が気になるけど……食う」
    「じゃあもうひと組、お皿とスプーンか蓮華出して。お茶飲むなら冷蔵庫にあるよ」
    「あいよー」
    勝手知ったる台所なので、難なく目的のものを探し出し、元々用意してあったお盆にマグカップもひと組載せる。
    冷蔵庫の扉を開けると、ラップのかかったバケットがででんと置いてあるものの、比較的在庫の寂しくなった状態だった。俺が親達から持たされてきたものを追加して、やっと二日分程だろう。
    明日あたり誰かが何か持ってくるかも。なければ、俺が家からなんか持ってくりゃいい。
    「親父さんたちはー?」
    サイドポケットから麦茶のポットを抜き出し、新しい水出しのポットを作って入れておく。
    「お父さんは急患で出かけて、お母さんは〇〇さんの家に様子伺い。村井さんは休憩明けにまた戻ってくる予定」
    「ふーん。そうそう、この銀色の弁当箱、ばあちゃんからニンニク味噌だって。冷蔵庫入れとくなー……いや、お前やおばさん、こういうの食べんの?」
    銀色の弁当箱ってのはアルマイトっていう素材でできていて、楕円形で、保育園の頃買って貰ったやつだから、結構前のアニメの絵がプリントしてある。変形しても叩けば素人でも直せるし、もう使わないからこういう匂いの強いものの保存容器がわりに使っている。
    ビニール袋ごと冷蔵庫に入れておく。
    「んー?よくラーメンに入れてるけど?お父さんも好きだし、すぐなくなる。なんで?あ、いつも有難うね」
    「……いや、なんでもない。ばあちゃんに伝えとくよ」
    その顔と雰囲気でお前、ラーメン食べるの?にんにく味噌入れてあの怖い一郎先生も、綺麗なお母さんも村井執事さんはわかるけど。あの人、俗っぽいもの好きそうだし。

    「よっと」
    ドゴッ。二枚重ねの鍋敷きの上に、一般家庭ではあまり聞かない音を上げて鍋が着陸した。
    「って、米何合入れてんだよひとりでどんだけ食うつもりだったんだよ」
    「?お父さんたち帰ってきたら食べるかもだし、一昨日炊いたお米が冷蔵庫に残ってたから」
    「お前、よくこんな量入ってる鍋振れたな」
    どう見ても米が四合は入っている。鶏ガラやごま油の匂いは食欲をそそるが、その横には琺瑯の鍋で温められた、多分、元煮物の甘酢餡かけ。
    「そう?これくらい、俊介でも持てるよ」
    「できるわけなかろうが、このゴリラ」
    一人はもとより体格に恵まれていて、身体中の筋力も日本人離れしている。俺ならこの中華鍋に一合米が入っていただけでも腕が震えるだろう 。
    「で、ダイニングテーブルに持っていきゃあいい?」
    この家でダイニングテーブルというのは、診察室に置いてある大きなテーブルだ。この家の一階部分は診療所と入院施設に力を入れすぎて、台所があんまり広くない。
    「ああ、よろしく。片付けてから行くよ」
    「冷えるぞ」
    「すぐだよ」


    一人様がすぐと言ったらすぐなのだ。ワゴンから取り出した皿を並べてる間に流しの洗い物をやっつけて、診察室に現れた。エプロンが所々濡れている上に何故か三角巾にも水染みがあり、とんでもない勢いで洗っているのをうかがわせる。
    肘までまくり上げた袖も、几帳面に折ってあるのが、一人らしい。
    「いただきまーす」
    「いただきます」
    小父さんたちはまだ来ないから、俺と一人の分だけ皿にチャーハンを盛り、餡をかけた。
    「んんー?見た目ほど不味くない」
    元が茶色い煮物だけに、見た目は悪い。
    「それはよかった」
    「美味いです」
    「無理をするな」
    「無理じゃないですーぅ。ほんとに美味しいって。材料の分量は?なんかに書いてあったん?」
    「知らん」
    「知らんとは」
    「なんかこう、適当に塩とか砂糖とか摘んで、麺つゆかけて、ネギがあったから」
    「お前、四角四面の癖になんでそういうとこだけ大雑把なんだ?」
    ドアの開く音と足音が近付く。手を洗い流す音。丸めていた背筋が伸びる。一人はといえば、最初から定規でも背中に差してるかのように真っ直ぐだ。
    「ただいま~、あら俊くん。いらっしゃい」
    強ばった体が瞬時に解ける。一郎先生じゃなかった。先生はいい人だけど、どうも緊張しちまう。
    「こんにちは小母さん。お邪魔してますっ」
    「おかえりなさい」
    「ただいま。これは、一人が作ってくれたの?」
    小母さんは大袈裟に喜んで見せる。一人が家事をやったり台所に立つのは、これ以外小母さんを喜ばせる術を思いつかないからだ。
    「俊介に毒味させたから大丈夫だよ」
    「おい、俺はモルモットかよ」
    「俊くんも、いつもごめんね、村井さんか、うちの人か……私が作れたらいいんだけど、この通りで」
    欲しいものなどない、一人が健やかに育てばいいという小母さんにとって、健やかにも賢くにも眉目秀麗にも育った一人への気掛かりは、家事のできない男に育つことだけらしかった。
    「いいんです。俺、一人の飯、好きですよ」
    「そう?なら良かったけど、氷室さんからも皆さんからも、頂いてばかりで何もお返しができなくて……一人とも仲良くして頂いてるのに」
    カポッと音を立てて餡をチャーハンに載せ、小母さんにお茶と共に差し出す。今日の配膳は俺の仕事らしい。
    「神代先生たちのお陰で、俺も、うちのじーちゃんばーちゃんたちも元気に生きてられるんですよ。じゅうぶんです」
    「……俊介にしては分別のついた物言いだね」
    「これ、一人 またそんなこと言って」
    「いいんですよ、小母さん。慣れてるんで」
    実際問題一見ぽやーんとしている一人の、あの一郎先生の息子で、大柄な体、アスリートもかくやという身体能力、明晰過ぎる頭脳、辛辣でキツイ言動は、女子も男子も近寄らせない見えない壁を作っていた。
    「俊くんは優しいわね」
    「えへへ……小母さんに言われると、自信持っちゃうな」
    「お母さんがおだてたら、俊介、調子に乗る」
    「んだと、こら。貴様、黙って聞いてりゃ」
    「お前、黙ってなかったが?」
    食卓じゃなきゃ、小母さんの手前じゃなきゃ、表に出てプロレス技の掛け合い勝負でもするところだ。
    「まあまあ。二人とも、学校でもこんな感じなの?」
    「あ、はい。こーゆー感じっす」
    「俊介が誰彼構わず、適当なことばっかり言ってるんで、苦言のひとつも差し込みたくなるだけだよ」
    「ふふふ。そうなの?あらあらまあまあ。ふふふふふふ……」
    「何がおかしいの?」
    「何がって、あなたたちも大人になって、同じような子供たちを見ればわかりますよ。ふふふふふふっ」
    あの一郎先生と上手くやってこれただけあって、小母さんも捉えどころのない人だ。
    「どういうことっ」
    一人も珍しく声を荒らげる。
    「俊くんがいると、薄暗いこの家も明るく見えるわね。うふふふふっ」
    「お母さんにはこいつがホタルイカにでも見えるの?」
    「せめて哺乳類にしろよバカズト」
    「バカはお前だ、バカスケ」
    「ふふふ。お父さんでも舌を巻くほど、頑固で堅物のおじいちゃんみたいな一人が、冗談を言うなんてねえ」
    小母さんはそう言うとまた、堪えられないとでも言うように笑っている。一人お前、小母さんからの評価散々だな。可哀想だから、ホタルイカは不問に伏してやる。悩みがあるなら聞くぞ。
    「ただいま戻りました……?奥様?」
    往診バッグを抱えて現れた村井さんが、小母さんの異変に不審そうにこちらを見る。
    「あらっ、村井さん、おかえりなさい」
    「随分と楽しそうにしてらっしゃいますな」
    「ええ、美味しいお食事があって、可愛いお客様がいて、一人がとても嬉しそうなので、私も嬉しくなってしまって」
    「嬉しそう……?俺がですか?」
    怒気を孕んだ一人の顔に、俺は一瞬見蕩れてしまった。滅多に怒らない一人を怒らせると、寒い冬の水辺みたいな目元に凄味が増して、ゾクゾクする。
    「左様でございますか。氷室くん、後でおやつも食べるかね? 」
    そんな一人や俺には慣れっこの村井さんが、魅力的な提案をしてくれる。
    「はい頂きます なんなら、後でなくとも今すぐ頂きます」
    「少し休め。腹を壊すぞ」
    「うるせー。外見の時点で小学生にさえ見えない頑固ジジイのお前と違って、俺は今を生きてんだ」
    「なっ……誰が頑固ジジイっ」
    「ふふふ」
    一人と俺のやり取りを見つつ、餡掛けチャーハンを口に運びつつ、小母さんは大層ご機嫌のご様子。
    「冷蔵庫にスチールのバケットがある。そこに入ってるから好きなだけ食べなさい」
    「はーい 行こうぜ一人。食い終わったんだろ?」
    「あ、うん。ご馳走様です。村井さん、お口に合わなかったらやめてね」
    「何をおっしゃいます。坊ちゃんのお心尽くしです。有難く頂戴致しますよ」
    「じゃあ……」
    「かーずーとーーーぉ」
    「行くってば」
    一人は音を立てないように空いた食器を持つと、布巾で俺と自分の使っていた部分を拭きあげる。
    体幹が全くぶれないので、見ていて気持ちがいいくらいに美しい。ただその辺拭いてるだけなのに。



    俺たちが出ていくとすぐに、診察室は村井さんと小母さんの楽しそうな会話で埋め尽くされて、俺たち子供の居場所なんてなくなった。
    これに神代先生が加わると、楽しげだけど俺には息苦しい空間になるのを一人も知っている。小父さんは悪い人ではないし、俺たちを心から愛してくれていて、誰に対しても厳しいけど、命懸けで守ってくれる。わかっちゃいるんだけど、存在に圧倒されるんだよな。

    「うめーーっ村井さんお菓子屋さんになれるんじゃねえ」
    バケットの中のレアチーズケーキは、下のビスケットも、かかっているオレンジのソースまで美味しかった。
    「村井さんは0.1g単位の計量が苦にならない人だからね」
    「お前の料理は目分量、どんぶり勘定だもんな……」
    「医療だったらそんなことしない。料理なら、多少ブレても食える」
    「されたら困るわ。食える、ってか基本的に美味いけどよ」
    台所の隅の作業台の周辺が、家事を手伝うことも多い一人と俺のだべる定位置だった。村の人も来て手伝うけど、親父さんが、公衆衛生の勉強だって言って、病室の掃除やリネン、水周りの維持管理を一人にさせてるんだよな。
    本も置いてあって、この家はどこにでも本があるんだけど、ここには消化器官の専門書が何冊も置いてある。食べ物が口から入って、自分の身に起きていることを確認しながらだと理解が深まるだろうという気持ちはわかるけど、正直どうなんだ。
    胃潰瘍や穿孔、食道破裂の写真ページを開き、ノートに写生しつつ平然とケーキ食ってるサイコ野郎が目の前にいるんだけど。いやほんとこいつ絵、上手いわ。
    「お前もどうだ?」
    「どうだじゃねーわ。なんで小学生が胃とか写生しなきゃいけないんだよ」
    「絵を描くのは楽しい」
    「いっそ、俺でも描けよ……」
    「前に描いてやったろうに」
    ああ、あれね。
    この場所で俺が隠元のヘタと筋取ってるのを描いて、県のコンクールで最優秀賞取ったやつな。
    俺の描いたお前は、優秀賞だったけどな。
    「今、描いて欲しい」
    なんてね。言ってみたかっただけ。
    「? ……なら、お前も描け」
    「なんで」
    「俺が描いて欲しいからだが?」
    普段見上げてる一人に、上目遣いでじいっと見られると、何も言えなくなる。
    「はい……」
    ポストカードサイズのスケッチブックから数枚の用紙を剥がして寄越した一人は、俺をチラチラ見ただけで当たりをつけたのか、一心に鉛筆を走らせる。
    俺も手元に視線を落とす。
    黒鉛と粘土が紙に移る音と、俺たちの呼吸だけが台所にあった。
    「一人ぉ、一回顔上げてくれよ。顔見たい」
    「俺の顔など、見慣れておるだろうに……」
    呆れたような口振りで、それでも笑みを浮かべて顔を上げてくれる。
    「一人が、好きだ」
    「お前からそう言われるのは嬉しい。また言ってくれ」
    俺の告白はいつでもこうだ。この、ただの感想と、文句の付けようのない笑顔で終わる。
    手元では、目の前の一人と同じ表情の一人の絵がとっくに完成していた。
    顔なんかあげてくれなくても、脳裏に焼き付いている。

    空いたお皿や鍋をワゴンに載せて来た、お手伝いのお仙小母さんと世間話をしていたら、神代先生が現れて、背筋に冷たいものが走ったけど、俺たの描いた一人の絵を見るや、手に取り、お仙小母さんと何やら話したと思ったら、診察室の方に持って行ってしまった。
    「気に、入らなかったのか……?」
    「さ、さあ……?」
    「ハッハッハ、先生は怒ってはおられんよ。逆じゃよ」
    俺たちが生まれる前から先生と付き合いのある仙さんがそう言うのだから、大丈夫だとは思うけど、どうしたらいいのか分からない俺は、そこにあった一人の手を無意識に握っていたらしく、一人がぎゅうっと握り返してくれたことで、はたと現実に戻された。
    お仙さんは食器類に水を張ると、倉庫の方に食材があるか見に行くと出て行った。


    暫くすると、小母さんがニコニコしながら現れた。
    「あの絵、俊くんが描いたの?上手に描けてるわね~。お父さんも村井さんも大絶賛してるわよ」
    「は、はあ……?あれ、俺、怒られてたんじゃない?」
    「怒るって、何を?この子ってば無愛想でしょ?私たちにはこんな顔したことないのよ。描いてくれて有難う、俊くん。いつでも見られるように、どこかに貼っておいていい?」
    「ど、どう、ぞ……」
    「鉛筆だから、村井さんに何かで保護して貰わなくちゃね。ん?あら、これ、俊くんよね?一人も描いたの?」
    「はい」
    一人の手元にあった俺の肖像を抜き取り、瞥見した小母さんは、一旦複雑な表情になり、次に笑っていた。
    「一人には俊くんがこう見えているの?そうっ。ふふ。そうね、ふふ」
    「お母さん?」
    「一人も隅に置けないわねえ。あ、俊くんが描いたものは冷蔵庫に貼っておくわね。俊くんがいつでもなんでも食べていい印に」
    ウインクして見せる小母さんは、いつもの優しい小母さんだった。
    「わあ有難うございますあ、アイスも…」
    「勿論よ。ただ、古いものや劣化してるものには気をつけるのよ。こわ~い神代小父さんからお小言貰って、お注射されるかもしれないから」
    「うう~気をつけますぅ~」
    「俊介は元々、うちの冷蔵庫のものもお菓子も好きに食べて良かったけど?」
    むくれているらしい一人の、表情はいつもと変わらない。
    「全く、この子は。気持ちの問題です。いつも一人に構ってくれて有難うね俊くん」
    小父さんの呼ばわる声が聞こえると、小母さんは診察室に戻って行った。







    街の雑貨店で見つけたシンプルな木の額の中で、真剣な顔でこちらを見据える、親友にして我が初恋の相手が描いてくれた幼き日の俺。
    机の上に置いてあるので、俺に用のある連中は必ず目を止める。氷室少年の美しさにではなく、少年神代一人の超絶技巧に、だ。


    付き合いは長いが俺の机のある部屋には初めて来た有能な事務員も、見過ごしはしなかった。
    「この絵は素晴らしいね。俊介のコロコロ変わる表情のひとつなのだろうけど、的確に捉えてる」
    「だろ。俺が何やっても絶対に適わなかった、最悪の相手の作品だぜ」
    「へえーーー大博士の俊介にもそんな過去があったんだ」
    「過去じゃない。今も適わん」
    「うへぇ~。その人今、何やってんの?宇宙開発?」
    「医者。俺が医者になった理由の、幼馴染だよ」
    「ああ、そういや聞いたっけな。彼かァ。多才なんだな。告白したんだっけ?」
    「しまくった。あいつは好意に鈍感だから、出会って十年以上、ずっと折に触れて好きだって言い続けたが、返事はなしだ。嫌われてはいないみたいだが、正直わからん」
    「君の根性には敬服するな。でも数多い俊介の表情の中から、彼がこれをわざわざ描きとめた意味、考えたことあるのか?」
    「え、どゆこと?」
    「ハーァァァァ……俊介ェ。なんてことだろう。初恋の君が鈍いんじゃなくて、君が鈍いんだな」
    肩を竦めた事務員はそう言い残し、サインしておいた書類などを集めるとさっさと部屋を後にした。
    ちょっと待って。
    意味がわからないのだが。
    ガキの頃の俺が、真剣そうにしてるだけの絵だぞ。こんな顔、いつも一人に見せてた。


    ──いや、もしかして、一人だけにしてた?
    あの頃の俺は誰にでもヘラヘラしてて、よく言えば愛想のいい子だったが、悪く言えば場を繕っていた道化のようなガキだった。
    そんな中で一人だけを子供なりに真剣に見据えていた俺を、あいつも見ていたから、描いてくれたのか。
    俺の描いた笑顔のあいつと、あいつの描いた真剣な眼差しの俺。どちらも、俺たちしか知らない、お互いの表情だった。
    それを、あいつのおふくろさんは見抜いていたのか。
    あの絵はまだ、一人んちの冷蔵庫に貼ってあるんだろうか。




    ※この話は氷室くんが出て行った後は絵は剥がされて、一人先生が持ってるエンドです※
    分離独立したじょうすとの話には続きません。
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