Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    cebollaverde_t

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    cebollaverde_t

    ☆quiet follow

    アヴポルというより、アヴ+ポル気味。
    n番煎じの泥酔したポさんのお話。
    先にアップしたこちらはポさん視点のアヴさんver.になります。
    順番はどちらからでも、多分読めます。

    何がどうして【side-A】 何がどうしてこうなっているのか。
     自分にも全く理解ができない。

     何故、私は出会って1週間程しか経っていない、旅を共にする男と同衾しているのか。

     隣で寝息を立てているのは歴とした、男だ。
     ジャン=ピエール・ポルナレフ。少し前、この旅に加わった、敵として現れたフランス人。
     退けはしたものの、対峙した際に見せた、その自信に裏打ちされた高い能力と彼の持つ貴い騎士道精神に感心を抱いた。
     妹の仇討ちのために旅をしていたという。その中でDIOと出会い、肉の芽を埋められ私たちの元に刺客としてやってきた。話を聞いた末、我々と道を同じにすれば、妹の仇も現れるだろうという結論に至り、旅の同行者になったわけなのだが。

    「何がどうして、こうなったのやら……」

     もう一度繰り返す。今度は言葉にし、外へと吐き出す。
     隣の男、ポルナレフは私の腕に頭を乗せ、ゆったりとした呼吸を繰り返し眠っている。
     
     ホテル近くの店で、ジョースターさんとポルナレフが酒を飲むというので、私も同行することになった。二人ともいい大人ではあるが、何かあってからでは遅いこと、そして、単独行動をしがちで、良い意味でも悪い意味でもお調子者のポルナレフに少しの不安を覚えてのことだった。

     結果は、と言えば、案の定だった。

     ジョースターさんとポルナレフは、楽しそうにグラスを空にしていく。二人とも理由は違えど、いつ命を落とすかわからぬ旅の途中。久方ぶりに気が抜けたのだろう、話も酒も進んで、気がつけば、見事な酔っ払いが出来上がっていた。
     ジョースターさんは上機嫌で笑い、家族や私の話を面白おかしくポルナレフに話している。いささか誇張されているような気もするが、酒の席のこと。気にせずノンアルコールのグラスを傾けていれば、ふとポルナレフと目が合った。
     アルコールで上気しているのだろう、乳白色をした頬と平素鋭い目元が、蕩けるように紅く染まり始めている。透き通るような青い瞳は酒のせいか、少し熱に浮きながら細められ、口許には穏やかな笑みが浮かぶ。
     喜怒哀楽を隠すことなく、感じたままコロコロと変わる表情と、考えなしにそれこそ思ったままを言葉にする薄い唇が普段とは違う様を見せている。

    ――この男は、こんなにも静かに穏やかに笑えるのか。

     しばらくその様を見ていれば、ふとその笑みが深まり、一瞬どきりとする。
     普段、良くも悪くもムードメーカーで、喧しく、よく喋り、よく動く。共にいるのが、あの承太郎であること。そして、彼とは別種なれど、整った容姿を持つ花京院であるために麻痺していたのかもしれない。

     この男もまた、見目の良い男なのだ。

     そんな男が静かに、隣に座るジョースターさんの言葉に耳を傾けながら、柔和に微笑み、それをこちらへ向けている。

     いつだか、私といた花京院が「黙っていればいい男」「残念な男前」とポルナレフを評していた。
     昼間、軽い調子で女性に声をかけては、それを嗜め、呆れ返る高校生2人と私に文句を言っていた。確かに、黙ってグラスを傾けていれば様になるのだろうと思うが、どちらかといえば軽薄な様子で声をかけてはフラれ続けている。
     そういうところが、「残念」と言われる所以だろうか。

     不意にポルナレフが目を伏せ、ジョースターさんの笑い声が響いて私に話を振られる。
     それに、どきりと驚いたところで、私はポルナレフに見惚れてしまっていたことに気がついた。

     早くに両親を亡くし、妹を守る騎士として生きてきた。生活の全てが妹のため、そして、それがポルナレフの全てだったのだろう。そんな妹が、尊厳を踏み躙られ殺された。ありふれた言葉では表現しきれないものをポルナレフは胸に抱き、最愛の妹を奪った男を自らの手で葬るため、旅に出た。
     男を追っている期間は3年間。時折見せる苦しげな彼の表情は、思い詰め、それ以外を許さぬという必死さと固く強い意志を滲ませていた。
     仇討ちや復讐を否定するつもりはない。同じ立場になれば、誰でも考え得ることだろう。ただ、他に目を移すことなく、ただひたすらその感情と思考を向ける真っ直ぐさに関心を抱いていた。

     共に過ごしている時間は短く、後から加わったポルナレフは我々との間に線を引く。
     もちろん、こちらにはこちらの、ポルナレフにはポルナレフの旅の目的がある。仲良しこよしのグループ旅行などではない。目的を果たすまでの旅程を共にするものでしかなく、それが済めば縁も切れる間柄だ。
     しかし、調子が良く、よく喋り、明るいポルナレフの存在は、ピリピリしがちな旅の雰囲気を和らげるものでもあった。だが、一方で協調性がなく、周りを巻き込む彼は、トラブルにもなったし、こちらを余計に疲労させた。
     そんなポルナレフが時折見せる表情や雰囲気の中に、その胸に抱いているものを巧みに隠しているように感じた。特に、ポルナレフ自身が自分がなすべきことに「不要である」「マイナス」になると判断したものや感情を、その明るさの奥に追いやっているように、私には見えていた。

     だからこそ、こんな気の抜けた時間を過ごすことも必要だったのだろうと思う。

     くじで決めた部屋割りの結果、同室となったポルナレフを抱え、あてがわれたホテルの部屋へと戻った。水を飲ませた彼をベッドに寝かせ、さっさと熱いシャワーでも浴び、寝てしまおうと思っていた。
     しかし、そうもしていられない事態が起ころうとしていた。

    『ゔ、ぇ……っ……ア、ヴドゥ……』

     いつの間にかうつ伏せになっていたポルナレフが口元を押さえ、真っ白な顔をしている。

     ――まずい。
     ――このままでは、ベッドを一つ汚すどころか、寝るどころではなくなる。

     そう察し、引き起こして抱えるようにバスルームへと雪崩れ込んだ。
     バスタブとトイレ、洗面台が一つの場所に押し込まれたそこ。ドアを開け、便器まであと少し……というところで、ポルナレフは力尽きた。
     
     被害はバスルームの床、便器、服。

     幸い、腹の中にあったものは酒という水分ばかりで固形物は少なく、詰まるような量でもないためシャワーで流すだけで済みそうだった。
     一度吐いた後もまだ、嘔吐感があったのか、床にへたり込んでいた。そのせいで彼の服、床に膝をついたズボンはもちろん、片方の肩しかないタンクトップだかなんだかにも、吐いたものが飛び、汚れている。このままでは服に臭いも残る。
     呼吸が少し落ち着いてきたところで、服を脱がせ、それをバスタブへと放り込む。

    『…………ゔ、ぅ……』

     再びベッドへとポルナレフを移動させると、まだ気分が悪いのか、小さく呻いている。気になるものの、早く汚れたものを綺麗にしてしまおうとバスルームへと足を向ける。

     その時だった。

     上着が何かに引っかかったような気がして、その方を見れば、その裾を力無く掴み、不安そうにこちらを見上げるポルナレフの姿があった。

    『…………どこ、いく……』

     吐いた後の喉が痛いのが、掠れたような声が聞こえた。中央に寄り、山のような形になった眉にその不安が見て取れる。
     ポルナレフの体を起こし、ベッドサイドテーブルに置いておいた水を飲ませる。

    『大丈夫だ、部屋にいる。声の届くところにいるから、何かあったら呼べ』

     言ってやれば、不安で強張っていた表情が少し和らいだ。ポルナレフは、小さく頷いてみせると、その身を静かに横たえた。

    『仰向けになるなよ?』

     そう言い置き、洗濯に必要なものを荷物から取り出し、バスルームへと向かった。
     酔い潰れたポルナレフを1人にしておくことは危険なため、できる限り早く事を終える必要がある。
     充満する臭いに換気用のファンを回す。吐瀉物で汚れた床と便器をシャワーで流したあと、汚れた服を手で洗う。
     シャワーの音の合間、少し開けてあるドアの向こうに耳を澄ませてみるが、自分を呼んだり、呻くような声はなく、落ち着いているようだった。
     ついでにシャワーを浴び、バスローブを身につけた頃には、換気と使ったソープやシャンプーのおかげか、臭気はだいぶ薄くなっていた。
     シャワーカーテンのポールに洗って固く絞った服を干す。ファンを回しっぱなしにしておけば、明日の朝には乾いているだろう。乾いてなければ、魔術師の赤マジシャンズ・レッドでなんとかすればいい。
     濡れた髪をタオルで押さえつつバスルームから出れば、小さな呻き声が聞こえた。慌てて視線を向けると、再びうつ伏せになっている。
     仰向けになるな、とは言ったが、うつ伏せについては言っていなかった。が、成人もとっくに過ぎた男にそこまで言う必要はないのではないか。とは言え、このまま窒息されても困る。

    『大丈夫か? 体の向きを変えるぞ?』

     小さな呻きを返事と捉え、体の向きを横へと変えてやる。そうすると、呻き声が少なくなり、呼吸も穏やかなものに変わる。

    『……まったく、手間のかかる』

     思わず呟いた言葉に、閉じられていた瞼から透き通ったブルーの瞳が覗き、それを揺らしながらこちらを見た。

    『……ん…………』

     昼間の自信に満ち溢れた男とは思えぬ、弱々しい声と視線をこちらへと寄越す。
     常であれば、ここで反論のひとつやふたつ返ってくるのだろうが、それもできないらしい。楽しい酒を飲むのはいいことだが、毎回こうでは、こちらとしても困ってしまう。

    『次にやったら、どんなに吐こうが汚れようが放っておくからな』

     そう告げて、いい加減ベッドへと潜り込んでしまおうと一歩踏み出すと、ローブの裾が何かに引っかかった。
     ぐい、と裾を引くと、また引っ張られる感覚がある。もしや……と振り返れば、案の定、ポルナレフの指がローブの裾を掴んでいた。

     もう一度、ローブの裾を引き寄せる。
     ポルナレフの指が、その動きに合わせて、ぎゅっと握られる。

    『…………寝たいんだが?』
    『わりぃ……』

     そう呟くものの、掴んだものを離す気配はない。
     アルコールに浮かされた青い瞳が揺れる。その瞳はこちらを見てはいるが、何処となく虚でいる。
     自分の行動を理解していないのだろう。返ってきた言葉は反射的に謝っているようにも聞こえた。どうせ、ローブは寝巻きがわりの服に着替えてしまう。それであれば、と脱ぎ捨てベッドへと向かう。
     すると、今度は首に衝撃が走った。

    『……ッ!? ポルナレフ!!』

     下ろした髪を引かれたのだとわかり、声を上げ振り向いた時、続ける言葉を失くした。

     縋るように手を伸ばし、不安に憑りつかれたように顔を歪める男。
     
     目の前にいるのは、俺の知るあのポルナレフなのだろうか。

    『……何処、行くんだよ………』

     虚ろな視線を向けたまま、消え入りそうな声で呟かれる。

    『……ここに、いてくれよ…………』

     何が見えているのか、その瞳から溢れたものが一筋、落ちていく。

    『……頼む…………』

     どれぐらいの時間か。極々短い、1分にも満たなかったかもしれない。ポルナレフは視線を落とし小さく言った。

    『……シェリー』

     放っておけなくなっている自分に呆れ、ひとつ、大きく息を吐く。
     ポルナレフを押しやりながら、その隣へと体を割り込ませる。触れた肌はいささか冷たく、引き上げたブランケットごと抱き寄せた。

    『……あったけえ…………』

     180cmを優に超える男2人にシングルベッドは狭すぎる。私たち2人並んでしまえば、その規格からは外れてしまう。
     だから、だ。
     落ちないように、空調で冷えないように。 
     だから、私は、さらに彼を引き寄せる。

    『…………Merci……』

     小さく聞こえ、落ち着いたような息遣いと共に背を丸めた。
     それほど寒かったのか。それほど酔っていたのかと、瞼の落ちた顔を見る。
     つい1時間前ぐらいまでは穏やかに笑っていたその顔は、今やその体調の悪さに顰められている。

     ――飲むのを控えさせた方が良さそうだな。

     このような飲み方、酔い方をされては他のメンバーにも、旅程にも影響が出る。もちろん息抜きは必要だと思うが、それとこれとは別だ。やめろとまでは言わないが、何かしらの制約を求めた方がいいだろう。

     何がどうしてこうなったのやら。

     どのような因果なのか。出会って間もない、成人した男の世話を焼き、挙句このようなことになっている。泥酔者の介抱ならば過去には経験もあるが、どれもこのようなことになった覚えもなければ、なることなど絶対にあり得ない。

     ――なら、何故。
     ――目の前の男にはこんなことをしている?

     眠りが浅いのか、瞼が小さく動き、銀の睫毛が揺れている。眩しいだろうか、とベッドサイドランプの明かりを絞ろうとした時だった。

    『…………シェ、リー…』

     聞こえた声に、ポルナレフへと視線を戻す。さっきも口にしたそれは、何かの折に彼から聞いたことのある妹の名だ。銀の睫毛の隙間ににじみ出たものが、一筋落ちる。

     夢でも見ているのか。些か戸惑いながら、彼の白い頬を伝い落ちていく雫を見ていた。
     彼の頬に残る一筋、二筋の跡を消すように撫でる。

     すると、また銀の睫毛が揺れ、ぴくりと瞼が動き、それがゆっくりと開く。
     アルコールと浅い眠りに侵されるアイスブルーの瞳がこちらに向けられる。涙に濡れ、虚ろに揺れる。私の姿が映り込んでいるのに、どこか違うものを見ているようだった。

    『……ひとりに…しないで、くれ…』

     シェリー…。
     
     そう聞こえた瞬間。
     私は彼を、ポルナレフを強く腕に、胸に抱いていた。

     何がどうしてこうなった。
     
     人間誰しも病気など予期せぬことで弱くなるものではある。目の前の、このポルナレフという男も、そんな【弱い部分】があり、それを今見せている。
     しかし、何故それに私が触れているのか。

     それがわからないまま。
     彼を腕の中に収めたまま。

     整理のつかない思考と理由を見つけられないでいる行動。
     戸惑いを残したまま、私は彼の伏せられた瞼と寝息に誘われるように目を閉じた。




     翌朝。
     気配を感じて瞼を開くと、驚いたように丸くなったポルナレフの青い瞳があった。

    「わりぃ……起こした?」

     近い距離。見つめられる瞳はしっかりとこちらを捉えている。
     腕の痺れと痛みに思わず眉を寄せ、腕の在処を確かめるとポルナレフの下に敷かれている。

     ――ああ、そうか……。

     昨夜のことを思い出す。
     酒で酔い潰れたポルナレフを介抱し、普段とは違う彼を見た。

    「…………重い……」

     私より細いとはいえ、然程変わらぬ身長の鍛え上げられた男をずっと腕の上に乗せている。そのために先ほどから、腕が悲鳴をあげている。ポルナレフは気付いていないのか、こちらを見たまま固まっている。その瞳にアルコールが残っている様子はない。

    「………重いんだが」

     もう一度繰り返すと、慌てたように体を退けた。やはり腕が痺れている。腕の感覚を確かめていると、カシュカシュ、と小さな音がした。視線を向ければ、ポルナレフが煙草を咥え、愛用しているオイルライターのホイールを回していた。
     どうやら火が点かないらしく、空回りする音が繰り返し聞こえてくる。次第に焦れてくる様子に、指を鳴らし、幽波紋で火を点けてやる。

    「Merci……」

     ゆるりと立ち始めた紫煙の香りに、そろそろ支度を始めようとベッドから降りる。小さな礼の言葉は、昨日聞いたそれよりもしっかりとしていて、いつものポルナレフに戻っていた。

    「お前……」
    「…………ん?」

     何故かベッドの上で膝を抱え、縮こまっているポルナレフに、ふと昨日思ったことを口にする。

    「少し酒を控えた方がいいんじゃあないか?」

     すると、間の抜けた声が返ってくる。もう一度繰り返して言えば、今度は、抗議の声が上がった。

    「はぁ!?なんだよ、急に!」

     何故そんなことを言われないといけないのか、まったくわかっていない様子だ。それを指摘してれば、さらに声を荒げる。

    「ったり前だろうが!なんで、テメェにそんなこと言われにゃなんねぇんだよ!!ワケわかんねぇだろうが!」
    「ならばお前……昨夜、この部屋に戻ってきた時の事を思い出せるのか?」

     そう言うと、今にも飛び掛からんとしていたポルナレフは、ハッと息を呑み、その透き通った瞳が溢れ落ちそうなほど目を見開いていた。

     ――覚えていない、か。

     まぁ、あれだけ酔っていれば仕方がないのかもしれない。話してるうちに思い出すだろうと、ことの顛末をかいつまんでポルナレフへと話してやる。
     
     ジョースターさんと上機嫌で道行く美女に話しかけていた事。
     泥酔し足元もままならぬ状態なのを部屋まで運んだ事。
     落ち着いたかと思ったところで嘔吐しそうになり、慌ててトイレへと運んだが間に合わず、バスルームと私、そしてポルナレフ自身の服も汚れてしまった事。
     などを話していくうちに、彼の表情が曇っていく。

     ――まぁ、そうだろうな。

     あれだけ酔っていれば仕方あるまい。うつ伏せになっていたところを、向きを変えてやった話をしていたところだった。

    「……もしかして、俺、ベッドにも……やった?」
    「そうではない、が……お前、覚えてないのか?」

     思わず、顔を顰めてしまう。その表情を見て、あからさまにポルナレフの表情が曇る。

    「…………悪い、覚えてねえ……。店で飲んで、ご機嫌だったこと以外、全く……」

     申し訳なさそうにこちらを伺いながら言われ、思わず天井を仰いでしまった。
     その様子に、ポルナレフの大きな体は、だんだん縮こまっていく。

    「…………俺、吐く以外になんかしたり、言ったりした?」

     吸うことを忘れて長くなった灰を見て、灰皿を差し出す。
     泥酔の末の無意識。今ポルナレフが訊ねていることは、私に対して暴言など余計な事を言っていないか、という口振りだ。
     そこには、昨夜見聞きした様子は含まれていない。彼にとってそれは、誰にも知られてはならないものだろうし、心の奥底に眠らせた感情かもしれない。それを利害が一致しただけの私に見られとは思っていまい。
     
     ならば昨夜のことは私だけが知っていればいい。あえて知らせる必要もない。

    「もういい、大したことじゃあない。ただ……あまり飲むな。飲むなら、部屋で飲むか、私と一緒の時にしろ」

     そう告げると、ポルナレフは驚いたようにこちらをじっと見つめてくる。
     私は酒を飲めないわけではないが、面倒ごとを避けるため、普段は酒を飲まない。
     酒の席は仕事柄、誘われることも多いため、話し相手ぐらいにはなれる。今回のようなことになっても問題が起きることもないし、介抱するにも慣れている。
     それに、一行を率いる最年長のジョースターさん、年下の承太郎や花京院に粗相の始末をさせるのは彼のプライドが許さないはずだ。
     それらを理由として説明すれば、不満気ではあるが、グッと反論を飲み込む様子が見えた。

    「だったら……」

     煙草を取り上げ、それをゆっくりと吸う。
     少し溜まったところで、それを不満げな顔へと吹きかけてやる。

    「私にしておくといい。もう、恥も何もないだろう?」

     煙草を灰皿へと押し付ける。
     部屋の時計を見れば、いい時間になっていた。
     そろそろ準備を始めなければ、集合時間に遅れてしまう。

    「起きたなら、支度をした方がいい。あまりゆっくりはしていられないぞ」
     
     バスルームに向かいながら声をかけてやると、驚いたように見開かれた透き通った青がこちらを見つめていた。

     前にポルナレフが花京院としていた話を、たまたま聞いていたのを思い出す。

    『君、その意味をわかってやっているのかい?』
    『あ?別に意味も何もねぇだろ』
    『君が知らないなら、日本だけなのかもしれないな……』
    『だから、なんだってんだよ!』
    『煙草の煙を吹きかけるって行為はね……』

     その時のポルナレフはどんな反応を見せていたか。確か、物凄い顔と勢いで花京院の言葉を否定していたし、花京院も当たり前だ、と呆れていたはずだ。
     しかし、今の彼は吹きかけた煙に憤ることもなく、ぽかんとこちらを見たままでいる。
     他愛のない会話だ。覚えているかどうかもわからない。
     ただ、バスルームのドアを閉める際に見た彼の顔は、じわりと紅く染まり始めていた。

     なぜ、そんなことをしたのか。
     それは私にもわからない。

     こちらを見つめる青い瞳と紅く染まる乳白色。
     自信に満ち溢れた彼が見せた、誰にも自分自身にすら見せない押さえ込んでいるもの。
     それに触れた時から、自分の中に一つ火が点るような感覚を覚えた。
     
    「何が、どうして……こうなるのやら……」

     バスルームの鏡。後ろに干されたままの服を見ながら、なんとも情けない、それでも楽しそうに笑う自分に、思わず呟かずにはいられなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺❤💖😍😍😍🙏🙏🙏💞💞❤🍑👍👍😭😭👏👏💒💞💞💞👏👏👏👏💘❤💙👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    cebollaverde_t

    DONEやっと完成。
    2022年のポルさん誕生月間のお祝いと思い書き始めたら、何ヶ月掛かってるんですか?年跨いでますよ?な状態。
    あまりに長くなったので、前後に分けました。
    こちらは前編になります。
    アヴさん離脱後〜花京院離脱前ぐらいのお話。
    ※誤字脱字は見つけ次第修正します。
    ※時系列、各国の国の事情など調べてはいますが、ゆるゆるなのでその辺りはスルーでお願いします。
    大切なもの(前編)「誕生日かぁ……そういやすっかり忘れてたな」

     パキスタンの国境へと向かう車中、助手席でポルナレフがふと口にした。
     話のきっかけはなんだったか。後部座席に座る承太郎と花京院の着ている学生服の話をしていた気がする。その流れで、承太郎の幼い頃の話になり、ジョセフが彼の誕生会の話をしていた。

    「なんじゃ、ポルナレフ。誕生日がどうかしたか?」

     ハンドルを握るジョセフが聞き返す。話題にされていた承太郎は目を閉じたまま微動だにしない。その隣の花京院は会話に興味がないようでウィンドウの外を眺めていた。

    「んー? そういや忘れてたなって、誕生日……」
    「ほお、いつじゃ?」
    「あー……っとな……」

     ポルナレフは変わり映えしない景色を見ながら、忘れていたと日付を口にして笑う。
    8348

    recommended works