S級に認定された日、最初に祝ってほしかった人に別れを告げられた
「私は貴方の信頼すら得られなかったのですね」
強くなることが楽しかった
だが、それよりも彼と肩を並べて戦える事を密かに夢見ていた
「私は貴方に相応しくない…」
「そんな事ないです、なんで…!」
頑張りましたねと褒めて欲しくて、ひたすら走り続けた結果は悲惨だった
「では何故、話して頂けなかったのですか」
「それは…」
プライドが邪魔をして口ごもる
そんな旬を見かねたのか、小さくため息をつく犬飼にビクリと体が跳ね俯いてしまう
「貴方にとって、私はなんだったのですか」
「晃さんは、俺の…」
弁明しようと顔を上げ後悔した
普段サングラスで隠れている瞳が静かに旬を見つめている、情の欠片も感じない冷たい視線に全てが遅いのだと、ようやく理解した
「わかり、ました…」
最後まで言い切る勇気がわかず、つい了承してしまう
これ以上嫌われたくなかった
「ありがとうございます…お元気で」
「はい…」
視界に入れたくもなかったのか、スッと逸らされた視線に耐えられず、別れもそこそこに影に潜ってしまった
今は誰にも会いたくなかった
思えば犬飼は事あるごとに旬に何か隠してないかと聞いていた、特に二重ダンジョンの後からは
犬飼との相瀬よりもレベルを上げる事を優先し、驚かせたくて犬飼の質問をのらりくらりと逃げたのは旬自身だ
それでいて、説明も無しに信じて下さい、隠し事は無しですよと自分は棚上げし一方的に言っていた、完全に自業自得である
一番遠く人の居ない所にと願い交換した先は鬱蒼と生い茂る木々の中だった
こんな場所にも影が居たのか…と驚くが有り難かった
こらえていた涙がボトボトと地面に落ちる
人を殺しても、大量のモンスターを倒しても何も感じなかった心が悲鳴を上げる
「お、おれ…あきらんに、褒めてほしかったんだ」
旬の精神状態が不安定すぎて心配になったのか、影からスルスルと幾重の手が現れ、背中を擦り、頭を撫で涙を拭うが意味をなさない
「いつも、心配させてった、から…」
「つよくなって、一緒に…ってなんで…!」
へたり込み痛いと胸を抑え嗚咽混じりの悲鳴を影たちが静かに聞いていた