協会の監視員と協会所属のハンター
最初はそれだけの関係だった
見かける度に怪我をしているのを見かねて声をかけたか、事務方からの苦情で旬の資料に目を通したのが先だったか覚えていない
きっかけは何であれ、犬飼が気にかけていたのは事実だった
ロビーで見かければ会釈くらいだったのが、次第に挨拶をし、会話を交えたりと交流が増えた
警戒してた旬も次第に慣れ、冗談を交わし隈の酷い犬飼を心配したりと、お互い年の離れた友人の様な関係になっていた
その関係を壊したのは犬飼でもあり、決定打を与えたのは旬だった
公私分けをしていた犬飼が唯一、旬の事だけは分別が出来ず自身の気持ちに気が付いてしまった
歳の差は無論、何より同性という点で悩みに悩んだ結果
犬飼晃は水篠旬から距離をとった
距離を取り、逃げる犬飼の行動で旬自身も己の感情を理解し迫り一悶着もあった
コレではいけないと、お互い膝を突き合わせ時に酒の力を借りて随分と話し合ったのは、今では笑い話である
そんな紆余曲折あり犬飼と旬は交際をはじめた
ハンターといえど、E級
毎回怪我を拵えて来る旬に犬飼は肝を冷やしていた
旬の境遇も理解している為、プライドを傷つけない程度に小言を言う犬飼に旬はくすぐったいそうに笑っていた
「本当に大丈夫ですよ、犬飼さんには嘘なんてつかないです」
だから、安心して下さい
そう続ける旬の言葉を犬飼は信用していた
それから暫くしてあの事件が起きた
二重ダンジョン事件
協会で知らせを聞いた時、体の血液が全て凍ったのではないかと犬飼はその時本気で思った
なにせ旬がそのダンジョンに参加すると本人から聞いていたからだ
本当は現場に駆けつけたかった
だが犬飼は、監視課課長
動くことは出来ず、報告を待つ事しか出来なかった
生存者からの報告があった、ダンジョン内の扉が発見できず最奥で保護された水篠旬が再覚醒をしたのでは…と憶測が流れ、それならば自分が確認を行うと
周囲の言葉を遮り犬飼は再検査機器を持ち出し病院に向かった
上がってくる報告書で無事なのは分かっているが、己の目で旬の安全を確認したかった
「それで!俺の測定値は…」
再覚醒の可能性があると言われたからか、少しはしゃいでいる旬を横で見つつ犬飼は安堵から脱力していた
最初犬飼の挨拶に面食らっていたが、犬飼の立場も理解してくれたのだろう、旬もまぜっ返すこともなく乗ってくれた
(生きている…)
精神的な再起不可や片腕を無くし引退と酷い状況の中で
あの中で生存率が低い旬が五体満足で帰ってきた
生存者のリストに旬の名前を見つけた時は冗談か、己の思い込みと思っていた、だがこうして起き上がり喋る旬に現実だと理解する
再測定の結果が芳しくなかったのか意気消沈している旬
につい笑ってしまい、咳でごまかした
再測定の結果が出てしまえば、要件は済んでしまう
後ろ髪引かれる思いで病室を後にする
扉を閉める直前、ヒラリと小さく手を振る旬に今すぐ戻って周りの目など気にせず抱きしめたかった