トラウマ「こんな時間まで、何やってるんだ?」
「えっ!?水篠さんっ?お疲れさまです」
時計の秒針がてっぺんを迎える時間帯に我進の事務所に立ち寄れば室内がまだ明るくて旬は驚く
消し忘れたかとも思ったが、そこには副ギルドマスターの諸菱がPCを鬼気迫る勢いで睨み、かじりついていた
ちらりと諸菱の周囲を見やればデスクは大量の紙束が鎮座し乱雑に積まれており、はてそんなに書類仕事が溜まっていたか?と旬は疑問に思う
「そんな急ぎの書類仕事あったか…?」
「書類?…あぁ、ちがいますよ」
諸菱は近くにあった紙束を1つ手に取ると、満面の笑みで旬に向き直る
「水篠さんの誹謗中傷の裁判書類です!」
「………あ、そう」
予想外の返答に呆れてしまい大分冷たい返事をしてしまったが、諸菱は気にしていないのかニコニコと笑っている
「その、あんまり熱心にやらなくてもいいんだからな?てか、いい加減家に帰れ…」
「これだけ!この書類書き終わったら帰りますから!」
そう言いながら、PC傍にあった小さい容器を掴み、1.2度振ると、手のひらに小さく白い粒が転がりそれを口に含む
「ちょっ、…諸菱くん?」
「ん?なんですか」
今見た光景に昔の記憶をフラッシュバックしてしまい、心臓が不規則に脈打ち、つい諸菱の肩を旬は掴んでしまう
「病気ならすぐ休もう」
「えっ?えぇ!?何のことですか!?」
諸菱のリアクションから早とちりだとわかるが、ざわざわと這い寄る不安に襲われ落ち着かず旬は諸菱の顔を見つめる
「今の、薬じゃないのか」
「くすり…?え、あぁこれの事ですか?」
旬の意図に気が付いた諸菱は先程の容器を旬の顔先に持ち上げ軽く上下に振ると、中の錠剤がカシャカシャと小さい音を上げ、旬は息を小さく飲む
「ラムネですよラムネ」
「らむね…」
諸菱の言葉に唖然とするが、最悪の予想とかけ離れた回答に安堵した旬は諸菱の肩にぐったりと頭を乗せ、深いため息を吐いた