だから言ったじゃないですか「ようこそ!水篠さん!!」
「お、お邪魔します…これ、一応お土産」
「わぁ!?わざわざすみません!?」
さぁどうぞどうぞと旬の背を押しリビングに向かう諸菱に家主より先に進んで良いものなのかと苦笑いする
実家を追い出され、一時ホテル暮らしをしていた諸菱が家を借りたとのことで、友人として遊びに来て欲しいとねだられ、お祝いも兼ねて遊びに来たのだ
一人で暮らすには広い玄関とリビングに向かうまでの両脇の扉の多さに気後れしてしまう
リビングも広々としており色々と諦めというか悟りを開く
流石金持ち…スケールがデカい
意外と落ち着いた色合いの調度品に少し驚く、初期の頃の派手な防具のせいでどんな部屋かと若干ドキドキしていたのは内緒である
「水篠さんお茶ですか?それともコーヒー?」
「じゃあ、お茶で…」
「わかりましたー」
折角だし水篠さんが持ってきたお土産も食べましょ!
慌ただしくキッチンに消える後ろ姿を見送り、ソファで寛ぐが、ソワソワしてしまう
今まで働き三昧で友人とも呼べる関係歯築けず、自宅で遊ぶという経験は体験してこなかったので、旬自身内心浮き足立っていた
友人宅に来た場合、何をして遊ぶのか…実に楽しみである
「あれ?水篠さん、着信なってません…?」
「え…?はっ!?うわ、ごめん!」
テーブルの上に放置されていたスマホがバイブしていた
画面を確認したら葵の名前に疑問が浮かぶが、左上の時間を見て驚く
ワタワタと通話をスライドさせ耳に当てる
『お兄ちゃん!今日晩御飯いらないの!』
「す、すまん…」
やっとでた!と電話越しなのに怒りが伝わり素直に謝る
自宅に招待されてから大分時間が経過しカーテンが閉まってない小窓を見やれば外は真っ暗だった
ガッツリ遊んだ
それはもう、楽しかった
意外と僕得意なんですよ、なんてコントローラーをガチャガチャと操作し旬が操るキャラをボコボコに殴り場外に弾き飛ばされた瞬間、負けず嫌いに火がついた旬は諸菱が操るピンクの球体を絶対に叩きのめす…と集中した
ゲーム片手間にちょいちょいと菓子をつまみながら敬語も忘れ、叫び悪魔の様な笑いをあげ遊び尽くした
2人での対抗戦から始まり、途中ネットを経由して大人数でレースや大乱闘を時間を確認するのも忘れ、熱中した結果、時間を忘れていた
『でぇ?ご飯は食べるの?てか今どこ、帰って来る?』
「あぁ、今から帰るからちょっと…」
「…あれでしたら今日泊まっていきませんか?」
「え?」
「水篠さんまだ僕に勝ってないじゃないですか、ちゃんと水篠さんの部屋もありますから大丈夫ですよ」
ニヤニヤとコントローラーを持ち逃げるんですか?と煽ってくる諸菱にうぐっと詰まってしまう
とてつもなく惹かれる誘いにぐらぐらと天秤が揺れる
まだ諸菱が操るピンクの悪魔に一度も勝てていないのだ
「…その、悪い葵…今日友達の家に泊まるから…」
『…友達?…はっ!まさか彼女!?お兄ちゃん彼女の家に泊まるの!!』
「違うから!」
一人暴走している葵にすまんと謝罪し通話を切る
明日の誰誰口撃が恐ろしいが、誘惑に負けてしまった…
「わるい諸菱くん、本当に大丈夫なのか?」
「全然気にしないで下さい!続きやりましょう!!」
「…絶対たおしてやる…」
「のぞむところです!」
それから2時間後、ようやくピンクの悪魔をバットで場外に打ち返して勝てた時には、柄にもなくガッツポーズをしたのは2人の秘密である
遅い夕食を軽くつまみ、お先にどうぞと風呂にはいりさっぱりする
用意されていた替えの衣類はサイズがピッタリで風呂中に買いに行ったのかと不安になった
気を使わせてしまったかと申し訳なくなる
「ごめん、諸菱くん風呂ありがとう」
「いえいえ…あ、向かって右側の部屋が水篠さんの部屋になりますから使って下さい!」
「あぁ、ありがとう」
僕も風呂入ってきますから、部屋でのんびりして下さいと言われ素直に従い扉を開けて絶句する
「……はっ、?」
見慣れた光景に頭が混乱する
一度扉を閉め、再度開けた先の光景は変わらず、唖然と立ち尽くすしかない
「なんで…」
「あれ?もしかして何か間違ってましたか?」
立ち尽くす旬の背後から音もなく現れた諸菱にビクリと体がはねる
「いや、え…なんで、俺の部屋…ここ、来客用じゃ」
扉の先は普段旬が生活しているマンションの部屋が再現されており絶句するしか無かった
「ここは水篠さんの部屋ですからね、ちゃんと揃えとかなきゃ失礼じゃないですか」
さも当たり前ですとニコニコ笑う諸菱に先程迄の楽しい時間は吹き飛び、恐怖しか無かった