『恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』異常気象と騒がれているがこのところ急激に気温が下がり、むしろ例年よりも早く衣替えを始めた木々に囲まれてその小さな家は静かに佇んでいた。
「あ痛てっ!」
と思えばそんな悲鳴が聞こえてくる。
Amazonesで購入した箒を伸ばし瓦葺き屋根から雨樋に積もった赤や黄の葉をはたき落としていた際、小石が銀時の頭を直撃したのだ。次いでぶつぶつと悪態が続く。普段であればこんなところまで丁寧に掃除などしないが今日はそうでもしていなければ落ち着かなかった。
十月十日。十五夜に共に月を見る約束をした男はいまだ帰っては来ない。
「別にいいけどね〜一々献立に気ぃ遣わなくて済むし。用意しといた圓七の月見饅頭、俺が全部食っちまうもんね」
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