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    すたうさ

    @stusMZKZの主に作文倉庫。
    3Lと女体化が好きな雑食カプ厨です。

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    すたうさ

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    ※再掲文字版
    槍盾(ですぞ槍×ワイルド盾) 常識の勘違いから生まれるなんやかんや槍盾。ギャグです。深く考えてはいけない。

    ##たてゆ

    かぼちゃの誘惑にご用心 とある村の定食屋から甘い焼き菓子の香りが漂う厨房に、二人の少女がせっせと菓子作りの材料の追加や、次々と焼きあがってくる菓子を型から外したりと忙しそうに、しかし手際よく準備をしていく。
     菓子作りの邪魔にならないよう、一人の少女は、若々しい亜麻色の髪が美しいロングヘアを高く一本にまとめて結い上げてから毛束がばらついて邪魔にならないよう三つ編みにしており、もう一人の少女は、煌びやかな淡い黄金色をツインテールに結い上げた後にお団子にしてまとめている。
     そんな愛らしい二人の少女が手伝いに追われている作業は、ハロウィンに向けた菓子の準備だ。
     少女たちが逗留しているこの村で、催されるというイベント、ハロウィン。その際に用いられるかぼちゃの提灯――なんでもジャック・オー・ランタンを用意したは良いが、くり抜いた中身をどうしようかと悩んでいた、この厨房の持ち主である定食屋の店主に、二人の少女とはまた違う人物が、どうしたのかと声をかけたのがきっかけである。その声をかけた人物は今、店の奥側で一人せっせこと仕事をこなしている。
     しばらくして厨房の奥にあるオーブンからまた一段と濃い焼き菓子の匂いが香り立つと、その張本人の気配が少ししてから近づいてきた。
    「ラフタリア、次のケーキ焼きあがったぞ」
    「ナオフミ様! もう充分菓子は焼き上げたのでは……まだケーキを作るのでしょうか?」
     気配の正体は、盾の勇者である岩谷尚文。定食屋の店主に話を持ちかけた張本人でもある。
     彼が持っている鉄板には、パンプキンシードが香ばしい焼きたてのかぼちゃのパウンドケーキ。ほかほかと蒸気を上げる様子は食欲をそそるが、これはまだ完成ではない。
    「まあ足りるに超したことは無いだろうからな。余っても誰か食うだろ。フィーロ、かぼちゃのペーストは終わったか?」
    「んーもうちょっとー。うらごし? はするのー?」
     そして愛らしい二人の少女は亜麻色の君はラフタリア、黄金色の天使はフィーロとそれぞれ言う。
    「いやそこまではしなくて良い。ちょっとくらい荒い食感を残しておいたら、味のアクセントにもなるからな」
    「わかったーもうちょっと頑張る! ケーキ楽しみ!」
    「焼き菓子が冷めるまで、私もフィーロを手伝いますね」
    「わーい! お姉ちゃんと一緒なら百人力ー♪フィーロのお仕事軽くなるー♪」
    「ほう物知りになったもんだな」
    「もうフィーロったら! あなたもちゃんとやるんですよ!」
    「えへへっばれちゃった☆」
    「ふはっ……ま、ほどほどで良いからな。明日の本番を楽しめないようじゃ本末転倒だ」
     天真爛漫なフィーロから時折発せられるずる賢さや悪知恵などのちょっとした毒は、いったい誰に似たのやら。それがおかしくて、尚文は少しだけくすぐったい笑いを緩む口元から吹き出した。今日も俺の娘たちが可愛い。
    「しかし異世界にもハロウィンの慣習があるとは、不思議なもんだな。しかも俺が知っているハロウィンとそう変わらないし……」
    「確かナオフミ様の世界にもハロウィンがあるのでしたよね?」
    「ああ。こことやっていることはほぼ変わらない。トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ! ってな」
     歴代の勇者が伝えたのかなんなのか、真相は分からないが、どうやら異世界でもその行事は文化として浸透し行われているらしい。
    「フィーロ、お菓子だけほしー」
    「驚かせたらたんまりもらえるぞ」
    「ほんとー?! やったーフィーロ頑張る!」
    「徹底的にな」
    「……いや、そこまでやるのはどうなんでしょう……脅しに等しいのでは……」
     目をキラキラ輝かせながら菓子への期待を膨らませる妹分と、とても邪悪なといっても差し支えないほどの良い笑顔を浮かべる大切で特別な人。
     はあ、とラフタリアはため息をつく。
    「仕方がないですね。フィーロはやりすぎるきらいがありますから、私と一緒に村を回ってお菓子をもらいましょうね」
    「はーい」
    「その前に菓子の準備だな。もうひと頑張りだ」
     尚文は焼きあがったケーキが乗っている鉄板を厨房の空いたスペースに置き、ラフタリアの亜麻色とフィーロの黄金色を、丸く節のある指でそれぞれ優しく撫でてやると、残る仕事をなすべく腕まくりしつつ持ち場へと踵を返していった。その後ろ姿を見届けた二人の少女は、揃ってまろい頬を淡く染めて微笑む。
    「ラッピング、していきましょうか」
    「うん!」
     少女たちは肩を並べて、新緑のリボンを手に取り作業に勤しんだ。
     
     
     
     
     
     そしてやってきたハロウィン当日。昼過ぎまでは人影がまだまばらだった村内が、日没すぎの夕暮れになるとわらわらと活気づいてきた。
     布を羽織った軽い変装から特殊メイクの類まで、それはもう個性が光る仮装をした村人や、たまたまやって来ていた観光客や冒険者たちが楽し気に外へと繰り出している。
    「ほう。結構気合い入れてハロウィンやるんだな。村の小さな祭り程度に捉えていたが……」
    「村をあげてのお祭りのようですね。実は少しばかり有名なお祭りなんだとか、先程小耳に挟みました」
     普段の軽装に着替え、菓子作りの最終チェックを済ませた尚文とラフタリアは揃って宿から出ると、幻想的な――異世界観をもってもなお非日常の光景が村に広がっていた。
     周りを見渡せば、こちらも個性豊かなジャック・オー・ランタンがそこかしこ無造作に置かれている。カービングが繊細なかぼちゃ。おおざっぱにくり抜かれたかぼちゃ。人間と同じように変装しているかぼちゃ。そのどれもが今夜は主役で等しく火が灯されている。
     その光景をぼうっと眺めている二人に、菓子を貰いたくてもう待てないとフィーロがだだをこねだした。
     花より団子。年端もいかない幼女にとって、菓子こそが心をときめかせるそれなのである。
    「ねーねーラフタリアお姉ちゃん、早くお菓子貰いにいこー?」
    「あっはいはい、一緒に回ると言いましたもんね。それではナオフミ様、私たちは村内を回ってきます」
    「気を付けて行くんだぞ」
    「はい」
    「はーい」
     ラフタリアは菓子を配るために、フィーロは菓子をもらうためにそれぞれバスケットを手に持ち尚文の元を離れて楽し気なハロウィンの宴へと旅立った。
    「さて、俺も適当にグリーディングと行くかな……っと?」
     尚文もまた菓子を配ろうと手にしたバスケットを握る。するとなぜか既視感のある視線を覚えて視点を横にずらすと、不自然な人だかりを見つける。目を凝らしてよく見ると、見知ったシルエットがこちらに気が付いて手を振ってきた。
    「あっ尚文さん」
    「尚文か」
     その見知ったシルエットが人だかりを丁寧にさばいてこちらにやってくる。
     正体の名は弓の勇者の川澄樹と、剣の勇者の天木錬。尚文とはもはや腐れ縁で繋がった四聖勇者の年少組だ。
    「お前らが揃って居るなんて、珍しいな」
    「ええまあ。僕はここの祭りの事を噂で聞きましてね。なんでもハロウィンをやると言うじゃないですか、気になっちゃって」
    「俺もだ。この世界でもハロウィンがあると驚いてな。近くだし寄ってみようと来たんだ」
    「へえ、お前らのいた日本でもハロウィンはあったんだな」
     二人の口からハロウィンの単語が出てきたこと、そして恐らくそれを楽しみにしていると見た尚文は、年相応の可愛いところがあるもんだと口元が緩む。勇者といえど彼らはやはり、良い意味で子供なのだ。その幼い一面を見せてくれたことに安心感を覚える。
     尚文はふと、違う日本出身者同士のここまで意見が合ったハロウィンの事で、ある人物を思い出す。
    「ん? ということは元康もか? あいつも来ているのか?」
    「さあ……少なくとも僕は見かけませんでしたが、来ているのではないでしょうか?」
    「樹が言うとシャレにならないな……」
    「うん……まあいい。あいつはフィーロが絡まなければマシなんだ多分、きっと、おそらく。知らんが」
    「不確定要素しかないじゃないですか」
    「良く言っても未知数だな」
     三人の勇者は、今はまだここにいないもう一人の勇者を一様に思い浮かべて苦笑する。
    「錬、樹。引き留めて悪かったな。ほら、これやる」
    「これは……!」
    「おっとケーキですね? ありがとうございます」
     年少組の勇者は浅葱色、若草色それぞれの瞳を待ってましたと期待に輝かせて礼を言う。
    「いたずらはされたくないんでな。じゃあな」
     束の間のじゃれあいを楽しんだ尚文は、手をひらひらさせて樹と錬の後にした。
    「しかし尚文さん迂闊じゃないですかね……こんな祭りの中一人でいるだなんて」
    「……同感だ。あとで尚文の仲間に声をかけておこう」
     なんだかぞわぞわする胸のざわめきを隠せない年少組は、手にしたケーキの期待を裏切らないべく最善を尽くそうと固く視線を交わす。どうか吉と出ることを信じて。
     
     
     
     
     
    「何がどうなって成人済の俺が雑に猫耳つけなきゃならんのだ。こういうのはせめて樹や錬が適しているだろ」
    「それがお二方ともナオフミ様の方が似合っているはずだと言って譲らなかったのです……それと私だけでもいいから先に戻っていてくれと」
    「はあ……それでフィーロが居ないのか……」
     そういえば尚文は仮装をしていなかっただろう、雰囲気を楽しむならケモ耳でもつけさせたらどうだ? そういってきたのは弓か剣かどちらが先だったかわからないが、とにかくラフタリアは尚文の元に戻るよう勇者に言われて、空のバスケットと手渡された猫耳カチューシャを手に戻ってきたのが今の状態だ。その愛らしい猫耳カチューシャ(黒)を、盾の勇者は律儀にもはめている。
    「全くもって意味がわからんな……ん? フィーロがこっちにやってくるぞ。いやしかし様子が変じゃないか?」
     神妙な空気が流れだしている中、向こうの方からドドドドと地面を鳴らしながらフィーロが尚文とラフタリア達に合流しようしていることに二人ともが気が付く。が、その様子がおかしい。おおよそ正常には見えない。菓子を目いっぱい入れていると思われるバスケットは大慌てにブンブンと振り回しているが、遠心力によって中身は零れていないみたいだ。何かに怯えて逃げているような……。ラフタリアはフィーロが巻き上げる土煙に潜む影を、眼を鋭く細めて見つめると――居た。
    「あれは……あ、槍の……」
    「ー! 槍の人ついてこないで! ついてこないでー!!」
    「フィーロたあーん♡♡今日も一段と可愛らしいですぞー!」
     四聖勇者最後の一人にして槍の勇者こと自称愛の狩人、北村元康その人だった。
     自前の健脚でフィロリアルに張り合うタフさが今日も光り輝いている。
    「おい元康」
    「おっお義父さんにお姉さん! ハッピーハロウィンですぞ」
    「あ、はい……どうも……」
    「はいはいハロウィンハロウィン。これやるから今日はフィーロにもう付きまとうな」
     フィーロと尚文にひと筋マイペースな彼に慣れてきた尚文は、バスケットに残っていた菓子を元康に複数個押し付ける。
    「ありがとうございますですぞ! おや、これは……美味しそうな焼き菓子ですな! 新緑のリボンが可愛らしいですぞ」
     元康はにこにこと嬉しそうに、尚文から手渡された菓子をとっておきの宝物のように眺めている。彼の気を逸らすことに成功した尚文はその隙に、フィーロをすかさずラフタリアの後ろへと隠す。ぶーっとフィーロは警戒を忘れない。
    「どうせお前も祭りと聞いて三色フィロリアル共と一緒に来たんだろ? そら、かぼちゃのパウンドケーキだ。芋が好きならかぼちゃも好きだろ? 多分」
    「素晴らしい! お義父さんはなんでもお見通しですなあ。ご明察ですぞ……はい、好きです! 好きですとも! ふおおおッお義父さんからのお菓子! これはお返しをせねばなりませんな」
    「気にすんなって。ハロウィンだろ、トリックオ――んむ??」
     情緒も無くむちゅっと突如交わされた接吻。あまりに唐突な出来事に、尚文は抵抗する事も思い浮かべられず、元康になされるがまま段々と深くなっていくそれを受け入れていく。
    「なッ」
    「あー!」
     ラフタリアとフィーロがそれぞれ声を少なに驚くが、それきりフリーズしてしまった。
     周りの静止がない。誰も彼を止められない。その間に元康はノンストップで、キスを濃いものへとしていく。
    「んっんっ、ぷぁ、は、ふッ」
     ちゅっ、ちゅぷ、くち、とそんなに大きく響かないはずのキス音が漂う。水音の粘っこさから察するに、舌は絡め取られているのだろう。ぷちゅ、と音が鳴る。
    「――っはあ、……お返しですぞお義父さん」
    「んっく、ぁ♡……ッ……は? ……まて、いやまて。待て待て待て待てお前今何した??」
     しばしの恍惚を与えられては瞳を潤ませてじわりと味わい、意識を飛ばしていた尚文だが、解放されて酸素が脳に行き渡り始めたおかげでようやく事の大きさを自覚していく。それを元康は別段何ともないように返答する。
    「お菓子を頂いたお返しですが?」
    「は?! そのお返しとやらで俺に何したんだって聞いてるんだよ!」
    「親愛の情ですぞ~」
    「はあ!? どういう……」
     意識が地にしっかり足を着けた途端にぎゃいぎゃいと吠え出した尚文の声で現実に戻ってきたラフタリアとフィーロは、揃って今度は声を盛大にして驚く。
    「あ~! 槍の人ごしゅじんさまにちゅー! ちゅーしたー!」
    「あわ、あわわわ、なんてこと、をなんてことをー!!」
    「おまっ! 馬鹿野郎! トリック『オア』トリートだろ! 誰がどっちもやれっつったよ!」
    「お義父さんは不思議なことをおっしゃいますな~? トリック『アンド』トリートですぞ?」
    「……なんて?」
    「だから、トリック『アンド』トリート。俺がいた日本のハロウィンはこれが常識でしたな」
    「え――っとトリック『オア』トリートでは無くて?!」
    「オアだなんてもったいない! いたずらもお菓子も美味しく頂くのですぞ!」
    「……なんてこった」
     やってしまった。こんな時に常識の違いが出るだなんて。
     ふらりよろめく尚文。だめだこいつ早くなんとかしないと。しかし彼が思っている以上に、すでに事態はややこしくなっていた。主に、元康の中で。
     トリックアンドトリート。いたずらするけど菓子もくれ。いったもん勝ちにも聞こえるもう一つのハロウィンの決まり文句に、尚文は更にめまいを感じてがくりと項垂れる。
    「という事でお義父さん! 続きは俺の部屋でいかがですかな……?」
    「良くねえ何でそうなるうっわ来るな顔近づけるな無駄に良い顔だなちくしょうめ!」
    「やっ! 槍の勇者ーッ! ナオフミ様を口説かないでください!!」
    「ごしゅじんさまはフィーロ達といるんだからー!」
    「ふふん! フィーロたんには悪いですが今日の先客は俺ですぞー! さあお義父さん参りましょうぞ、愛の巣へ♡ポータルスピア!」
    「あっちょっ元や――……ッ!!」
     やっとの事で取れた尚文の必死の抵抗もラフタリアとフィーロの加勢もむなしく、シュンっと音と共に槍の勇者は盾の勇者を連れ去ってしまった。
     
     
     
     
     
     綺麗な花火が祭りで騒がしい夜空に上がったと思った。しかし打ち上げ花火にしてはあまりに儚く静かな光で。
     弓の勇者と剣の勇者は失敗を悟る。
    「あーダメでしたか……ご愁傷さまです。どうか安らかにそしてお幸せに。アーメン」
    「十字を切るな樹。お前が言うと本当に冗談じゃなくなる……無駄かもしれないがせめて無事を祈らせてくれ、尚文……」
     四聖年少組のその手には、ラッピングされた新緑のリボンが愛らしい、尚文が作ったかぼちゃのパウンドケーキ。
     二人が頬張るその焼き菓子は咀嚼する度に、まぶされているパンプキンシードと程よく混ざり合い、粗くペーストされた果肉は生地とともにホロホロと溶けていった。
     
     
     
     
     
     おまけ。
     
    「しかしお義父さん、どうして可愛らしい猫耳をお付けになっているのですかな?」
    「あー……うん、付けられただけだ。自主的にやったんじゃないから変に勘繰るな。お前にいただかれるためじゃないからな!」




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