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    すたうさ

    @stusMZKZの主に作文倉庫。
    3Lと女体化が好きな雑食カプ厨です。

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    すたうさ

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    ※再掲文字版
    初期槍盾。
    夜にばったり会った二人が宿に繰り出す話。

    ##たてゆ

    こっち向いて、なおくん 互いに気が昂っていたのは、決して間違い無い。それだけは確かな事実である。
     ただ、昂りをぶつける先は後腐れが無い方が良いと考えが合致しただけだ。
     いわば利害の一致。それだけのはずだった。
     
     
     
     魔物が静かに蠢く異世界の深夜。その魔物を満足するまで薙ぎ払い、パーティメンバーの誰もが知らない秘密のレベリングを済ませた元康が帰りの道中で見つけたのは、月光の下で採取した素材の吟味をしている尚文だった。
     茂みの向こう、仄かに照らされる横顔に浮かび上がるのは真剣そのもの。
     がさり、と足元の草ぐさをわざと音立てて元康は尚文の前へと姿を現す。
     一触即発。いつもならそのはずが、今日の尚文は一瞬ちらりと目線を動かすだけで後はいやに無反応だ。
     面白くない。皮肉のひとつでも言ってやろうと元康は怯まずに勇み出る。
    「おっ一人じゃん。仕分けに精が出るなあ、盾の勇者様?」
    「……何だ、用がないなら帰れ」
     目線は一ミリも動かさず、尚文は黙々と手を動かし素材の仕分けを続ける。その一目も相手にくれてやらない態度に機嫌が焦げ付いてチリつき、元康のささくれた苛立ちがつい顔に出た。
    「チッ……嫌味だよ! 嫌味を言ったのに何で言い返さないんだよ!」
    「面倒だから」
    「は?」
    「時間の無駄と言った方がよりイラついたか? えぇ? 槍チンの勇者さ・ま」
    「なんだと……! ――――?」
     チッ、と尚文の舌打ちが続いて元康の耳に入るが、より不機嫌さを増して棘のある言葉を投げつけてくる尚文に、元康は若干の違和感を覚える。
     嫌悪というより、隠し事を気付かれたくない、そんな後ろめたさと焦り。
    「なあ尚文、……何かあったのか?」
     わざと名前を含んで問いかけると、尚文の肩が弱くふるりと震える。月明かりは彼の目元までは照らしてくれないが、逸らしていた視線は恐らくこちらを向いているだろう。元康が確信を得た瞬間だった。
    「それお前が言うのか……ッ何もない……! 良いから!! あっちへ行け俺は忙しい帰れ」
     今度は尚文が苛立ち始め、捲し立ててくる声は鋭さを増して口をつく。もはや誤魔化すためのハッタリにしか見えない元康は、構わず尚文のパーソナルスペースへ一歩一歩入り込んでいった。
     尚文はぴくりとも動かない、動けない。
     更に一歩、最後にもう一歩。元康は前に進む。
     そして、ごつりと音がたつ。元康の甲冑と尚文の鎧がゆっくりぶつかる鈍い音が互いの耳に届いたのだ。
     近づいてくる気配に耐えられなかった尚文は視線を下に向けていた。おずおずと顔を上に向けると、そこには暗がりでもなお鮮やかな金と赤に彩られたサーコート、滑らかな質感のマント、煌びやかな甲冑が順に目に映り、そして最後に月光で仄かに照らされた金糸雀色から覗く深紅が、己を熱を持って見つめている様子と目が合った。
     浮かび上がるような金と赤はあまりにも美しく。尚文はつい惚ける。
     気を良くした元康は悪態をつかなくなった彼の唇にそっと人差し指をそえて、眦を細めつつ囁いた。
    「……もしかして俺ぐらいにしか言えない事なんじゃないか? さあ元康おにーさんに言ってごらん?」
    「――っ好き勝手、言いやがって」
     かくして尚文が再度舌打ちをした後に、秘め事はぽつりと暴かれたのだった。
     
     
     
     収穫した素材を武器に納めて、二人は――尚文は片腕を元康に引っ張られながらだが――足早に近場の村にある宿へ向かって部屋を取った。先に尚文を部屋に入れて元康が後ろ手で扉に鍵をかける。
    「夜が明けるまでいるつもりは無いぞ」
    「わかってるって。ラフタリアちゃんやフィーロちゃんがいるもんな」
     でも、と元康は言葉を続ける。
    「『これ』は、俺にしか頼めない事だろう?」
     元康は尚文に向き合うと恭しく手を取り、指ぬきグローブから出た剥き出しの指先へと口付けた。柔らかな唇が触れた指先は、少しささくれている。恥ずかしげも無くやってみせる姿勢は流石の百戦錬磨のプレイボーイと言えよう。だが仕草は様になっているものの、忠誠を誓う騎士の素振りにしては熱が篭っている。
    「止めろ。変態くさい」
    「ちぇっ、なんだよ照れるなよ。雰囲気作りも嗜みだぜ?」
    「うるさい! 早く済ませろ」
    「だーめ。やるなら気持ち良くなきゃな」
     元康は尚文の手を取っていた片手をそのまま彼の顔へと滑らせていき、顎を柔く掴んで己の深紅と尚文の翡翠の視線を絡ませると、虚勢を張れなくなった翡翠は不安げに揺らいだ。
    「ね、今だけでいい。俺の事好きになって」
    「ッなん、で」
    「何でって、その方が――」
     燃えるだろ? と癖のある柔らかな黒髪を口でかき分けて耳元で零すと、ふるふると愛らしく髪の先まで震えた。 
     
     
     
     どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
     しまった、言うんじゃなかった。尚文はつい元康相手に弱さを晒してしまったことを今更ながらに後悔を始める。
     簡単に言うと尚文の弱みというのは、性欲の発散をどうすればいいのかという事。
     冤罪以降、陰部は反応しないものの性欲は溜まる。むやみにやたらに溜まる苛立ちだけでも晴らしたかったのだ。どうしたものかと夜の採取を行いつつ思考している所に元康が現れ、そして頼れる相手がいない中に彼に縋ることになった。奴はいわゆるナンパ野郎だ、別に後腐れが無い相手じゃないかと言えば聞こえはいいだろうが……そんな自分に全くもって情けなく、犬のクソにもならない笑い話だと嗤う。しかし仕方が無かったのも事実だ。それだけ尚文は参っていた。
     男が男ひっかけて何が楽しいんだ、お前は使われるんだざまーみろ。そんな悪態をつく気概も今は湧かない。
    「あんな、いまさら、年上面するとかずるいだろ……!」
     最後の抵抗とばかり、蕩け始めた翡翠の瞳で精一杯睨みをきかせて元康を見ても、返って来るのはニヤリと欲を孕んだ深紅の瞳。
     やはり話すんじゃなかった。
     尚文はもう一度だけ後悔をして、流れに身を任せ目を伏せた。
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