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    すたうさ

    @stusMZKZの主に作文倉庫。
    3Lと女体化が好きな雑食カプ厨です。

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    すたうさ

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    初期槍盾。誕生日を祝いたい陽キャと祝われたい陰キャ

    ##たてゆ

    ハロウィンだって誕生日 誕生日と祝い事は一緒にされがち説を俺は唱えている。
     
     例えば。
     十二月、とりわけ後半生まれはクリスマスと一緒にお祝いされる。サンタって奴はなんて無慈悲なんだろうな。一年に一度の祝い事だぞ、ケチるなよ。
     一月、年明けと誕生日のめでたいことが同時に来たとかなんかで済まされがち。お年玉がプレゼントってやつだ。そこは倍くれ。
     二月、どうしてかバレンタインデーと同時に行われる。何故だ。
     あとはひな祭りやらこどもの日やらなんやら。とにかくイベント、祝い事や兄弟家族と誕生日が近ければ、ごっちゃにされるのが誕生日の定石であるのが俺専らの持論だ。
     もちろん個別で祝う家庭もあるだろうが、俺が知る範囲ではまず無い。
     誕生日祝い事と一緒にされがち同盟なんてレジスタンスもどきを学友共と組んで親達に反抗した事もあるくらいだ。根に持つやつは割と居るんじゃないか。
     そんな俺の誕生日はハロウィン近辺だ。どうだ、めでたいだろう?
     
     
     
     
     
     俺は共に旅をしているラフタリアとフィーロが街に繰り出している間留守番を預かり、陽射しがそこそこに過ごしやすい朝の清々しさを身に感じつつ、溜まってきた着替えを桶に入れ川辺で洗濯をしていた。家事全般は俺の担当だ、旅の仲間たちと過ごす足任せな生活もなかなかに悪くない。川に手をつけると水流がさらさらと柔らかく指の間を抜けて手に触れて心地が良い。あらかた濯ぎ終わり濡らした服や布を上下に振って叩けばパンッ! と水気を含んだハリのある音が耳に届く。次々にタオルなど小物の次に大判の布も簡易の物干しに掛けながら、手慣れたルーティン中にふと気が逸れて先ほどの思考に耽っていた。
     センチメンタル、と言うには些か夢が無い。どちらかと言うとナーバスだな。俺には似合わない感情だ。元居た日本の暦上で言うとおそらく、もうすぐ誕生日が巡ってくる。だからだろう、ふと昔のことを思い出したんだ。
     ……この異世界に俺の誕生日なんて祝う奴は居ないがな。
     
     はた、と視界にぴたりと止まった自分の手が映る。いつの間にか作業を止めてしまっていたようだ、これでは洗濯が終わらないな。こんな繊細になるだなんて全くらしくない、異世界だってのに浮かれた気にもさせてくれないのか。大方季節柄、秋の空というやつがいけないんだ、心模様に少々呆れては手を動かして軽く叩いた布のしわを再度伸ばして物干しに掛け、桶の底に残っている肌着を手に取ると、急に人の気配が強まった。位置は背後、人数は一人。敵意は、まあ無さそうか? 最悪のしてやれば良いか。近づいてくる気配を隠す気も無いずかずかとした足音は、やがて微かに擦れる金属音と共に止む。
    「あれ、さっき街でラフタリアちゃんとフィーロちゃんに出会った時いないと思ったら留守番してたのか」
    「何だ、何しに来た」
     誰かと思えば……ちっ、忌々しい顔に出会ってしまった。元康だ。主張が激しい金髪と槍が嫌でも目に入る。
     街でラフタリア達に会ったと言う事は少し話でもしたんだろう。ついでに俺がこの辺に居る事も。俺がしてもない冤罪をいまだしつこく突いてきやがる為か? いったい奴には何が見えているんだ、自然と眉間にしわが寄ってしまうのは仕方が無い。一瞬だけウッとひるんだ元康だが止めた足を動かしてこちらに歩み寄ってくるじゃないか。おい止めろ、これ以上俺のパーソナルスペースに入って来るんじゃない!
    「で、出会い頭に何だは無いだろ!」
    「お前俺にしでかしたこと忘れているのか? おめでたい鳥頭だな」
    「誰が鳥頭だっつの! あれは女の子に恥をかかせねえ為でもあったんだ。それにお前に反省を促すためにだな」
    「あーもういい、それ以上言うな。俺はやってないんだ」
    「わかって無いなー尚文くんはー。だから賑やかなイベントに染まった街へ行けずに留守番なんてしてんのかー?」
    「……あ? イベント?」
     なんで俺がいじけて留守番してるみたいな言い草なんだ? その喧嘩買うぞ? お前だって侍らせてる女の子達とやらは今居ないじゃないか。後にで聞くに、宿で休んでもらっていたなど言っていたが知ったこっちゃない。のそのそ近寄ろうとする元康を軽くいなしつつ、いっそう眉間のしわに深まりを感じる。秋の深まりより俺のしわの深まりの方が早いんじゃないのか。街でイベントだと? 今の時期でいうと日本ならハロウィンだが……そうそう異世界で同じような文化なんてある訳――。
    「そっイベント。秋のイベントと言ったらハロウィンだろ」
     ……あった。はああああああ?! ここ異世界だぞ! なんでそんなもんがあるんだよ!
    「芋堀り大会や栗拾いの間違いじゃないのか!」
    「学校の行事じゃねえんだから……でも秋の味覚も良いな、俺芋大好き」
     元康の野郎、へらへらとだらしなく口元を緩ませている。食いしん坊キャラだったか? まあいい、お前が芋好きだなんて意外だな、覚えておく義理も無いが。
    「あっそ」
     まるで興味ありませんとばかりに俺はそっぽを向いた。事実、関係無い、無いったら無い。なんで異世界まで来てハロウィンに悩まされないといけないんだ。
     誕生日を気にすることなんて、ここでは無いと思っていたのに。
     
    「あれ、お前誕生日近いの?」
     それは心の中だけでぼやいたつもりだった。なのに零れ出た言葉は元康の耳に届いたようで、奴はきょとんとした顔つきでこちらを見ている。どうした。さっきまでの喧嘩腰な勢いはどこへやったんだ。このまま黙りこくってたらお互いバツが悪いだろうが。……仕方が無いので俺から口を開く。
    「……そうだよほぼハロウィンダダ被り、一緒にされがちな誕生日だ、笑いたきゃ笑え」
    「はあ? なんでめでたい日をからかって笑わなきゃいけないんだ?」
     さも当たり前だと元康は俺を笑うことなく、誕生日は誕生日で祝うもんだろ? イベントと誕生日のハッピー倍乗せだなと次に付け足した。その眼差しは真剣そのもの。ハッピー倍乗せというよくわからない理屈はさておき、俺の頭は次第に混乱していく。
     つまり、えっと? 元康は俺を祝う気がある……? 毛嫌いしてる相手を? まさか。
    「元康お前、俺が嫌いで笑いたいんじゃないのかよ」
    「それはそれ、これはこれだろ。つーか反省してるならそれで良いと思うし?」
    「っ俺はやってない」
    「はいはい。まあ今日はやるもん持ってねえからさ、これでどうだっと」
     疑いの目を向けて一歩下がった俺に構わず、元康は二歩近づいてきた。まだ距離を詰めてくるのかこいつは! と思えば、奴がポーチから水晶を取り出し握りしめて何かを念じると周囲に熱気が集まってくるのを感じる。そして水晶が淡く光ると同時に、温風が辺りをゆっくり大きく渦巻いては干したばかりの布類の下から上へ吹き抜けていった。一瞬、何が起きたのか。ゆっくり降りてきた布に思わず手を伸ばす。
    「――よっしゃ上手くいったぜ!」
    「……あったかい、乾いてる」
     有り体に言えばおろしたてのシーツ、新品のタオル、乾燥機にかけ終わったほやほやの洗濯物etc、心地の良いものの代表格だと俺は思う。ともかく程よく熱気を含んだ布類の肌触りは何物にも代え難い、これでしか味わえない感触だ。眉間も自然と緩まる。気持ち洗濯前より柔らかいような。何か仕込んだのか? 微かに薔薇の匂いもするな。悪くは無い、かな。何か所か布の質感を確かめていると、にやにやと何か言いたげに元康は俺の視界に入ってくる。鼻につく態度だがまあいい、今の俺は機嫌が良いから許してやる。
    「へへっ良いだろー! 魔法ってさ、加減次第で生活にも応用出来るんだぜ」
    「ほう、それは便利だな」
    「だろ? ところでさー尚文」
    「なんだ」
    「ラフタリアちゃんやフィーロちゃんの、その、下着ってどこに干してあるんだ? この俺が一枚一枚優しく乾かしてあげようかと――」
    「ッこのっっっ脳ミソ下半身馬鹿野郎!! んなもん外で干してませんッッ!! 帰れ!!」
    「なっなんだとこのっ……人が折角ッ、ああもういい! 帰ってやるさ!」 
     ……――ッ良いところがあるとちょっとでも見直した俺がもっと馬鹿だった!
     やはり奴は俺をダシにして女に良い様に見られたいだけのようだな、娘達はやらんぞ。それよか気にも掛けてもらってないようだが。ざまあねえ。どうせナンパが空ぶってここに来たのかと心の中でハッと鼻で笑う。
     今度から下着類は馬車で干そう。そうしよう。そよ風くらいフィーロも起こせるんじゃないか、室内干しにうってつけだな。
     そうして俺はずこずこ大股で帰っていく元康を尻目に干し損ねた肌着を握りしめて、隠すようそれを腕ごと胸の前に回してマントで覆った。一ミリも見せんぞ。
     
     
     
     
     まあ、詫びと言って後日金に物言わせてステータス付与されたアクセサリーと、何故か大中小三組の手編みとみられるマフラーを俺たちにと持ってきた事だし、相殺してやらんでもない。




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