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    DONE1999年ノストラダムスの予言と七風
    1999年6月30日 七ツ森は授業中、窓の外に広がる雨雲の割れ目からのぞく青空を眺めていた。梅雨に入って久々の晴天で、グラウンドに点々と残る水たまりにも雲と青空が映っていて、地面の割れ目から青空がのぞいているようで、自分の天地が引っくり返ったような不安定な感覚がする。この感覚がわかるのはカザマだけだな、と思いながら今日の昼休みに屋上に誘ってみようと考える。ばさばさとプリントがめくれる音に気づいて教室を見回せば、自分以外の生徒は机に向かってプリントの問題に取り組んでいる。みんなは今日がなんの日なのか、知らないのかと不思議に思った。今日は6月の、最終日だというのに!

     小学校の図書室の、子ども向け科学漫画で読んだノストラダムスの予言。おどろおどろしいタッチで人々が逃げ惑うイラストの入ったそのページを初めて見た日の夜は、眠れなかった。翌朝眠い目をこすりながら起きてくると、母親は「おはよう」とにっこり笑って目玉焼きを焼いていて、父親は通勤用の靴に足をつっこんでいて、姉は髪の毛に櫛を通している。いつもの朝だった。また、通学路を歩いていると、大人たちが足早に勤め先に行き、老夫人が犬の散歩をしている。まるで世界の滅亡など自分の眼前に迫っていないかのように。なぜ皆はあんな恐ろしい予言を、なかったことにして生活をしているのか、わからなかった。ひょっとすると自分だけが知る、世界の秘密なのではないかとさえ思った。だから学校の休み時間に、クラスメイトに聞いてみた。彼は「えっ、それヤバイじゃん」と言ったけれど、すぐに別の少年に声を掛けてドッジボールをしに校庭へ駆けていった。
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    DONE七風食堂 香港にて点心を食う
     英語も繁体字も読めないから、頼むと七ツ森に言われた玲太は、活字のみの注文票を見ながらさらさらと点心のオーダーを書き込んだ。久しぶりに、香港の雑踏が恋しくなったと玲太は七ツ森を誘ってやってきた彼は、行きつけのうまい点心を食わす店に七ツ森を連れて行った。
     昼前だというのに店内は満席だった。円卓に白いテーブルクロスがかかり、追加注文できるよう点心を載せたワゴンがテーブルの間を縫うように動く。
     ほどなくして彼らのテーブルの上にはいくつかの蒸し籠や皿が並んだ。店員が竹で編んだせいろの蓋を開けると、中から湯気がもうもうと立ち上り、中から小籠包やシュウマイ、海老餃子などが現れる。
     レンゲの上に小籠包を載せようと箸でその、つままれたひだをつまみ上げると、たぷりとした肉汁が小籠包の餡のしたの皮にたまり、丸い膨らみを成す。あわててレンゲに載せると、中身の重さに耐えかねた薄皮が破れ、中から油の浮いた胡麻の香りのする薄茶色の肉汁がじわりとにじみ出る。それをすすりながら口の中に運べば、まだ蒸したての餡が熱く、彼らは眉間に皺をよせ、しばらく口をあけて熱い空気を逃がすために無言になる。
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    DONE七風リレー小説①
     放課後の茜色の教室は七ツ森と風真の二人きりだった。窓際の席で、今日の当番日誌を書く風真に向かい合って、七ツ森は座り、風真の手元を見ている。粒の揃った文字が、空白を埋めていく様子は見ていて面白い。自分が夢中になっているゲームよりも、こちらを見ていたいとも思う。七ツ森の視線を感じ、風真は日誌に落としていた視線を七ツ森に向けて問う。
    「……ん? 何見てるんだよ」
    「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
    「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
    「誰もいないんだからいいでしょ」
     そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。
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