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    七風食堂 眠れない夜のためのスープ

    #七風食堂
    sevenWindsCanteen

    七風食堂 眠れない夜のためのスープ 眠れない夜がある。
     カーテンをそっと開くと、午前2時の窓の外にはいくつもの明かりの灯った家があり、その明かりの一つ一つに生活があるのだと、そしてこんな時間まで起きているのは自分だけではないことに、安堵する。
     それでも、眠れない夜がある。やらなくていいこと、言わなくていい言葉、やりたかったこと、泣けばよかったこと、逃げ出したあれこれ、追いかけすぎた何か、を思い出し、走って疲れて歩いてしゃがんで、息を吸うより溺れて沈む、眠れない夜がある。
     そんなとき玲太は、七ツ森と眠るベッドからそっと抜け出し、ひとりブロッコリーチェダーチーズのスープを作る。明日の朝を正しく迎えられるように。明日の朝、起きる楽しみを心に抱いて今夜を眠るために。
     細かく刻んだ玉ねぎを、バターを溶かしたダッチオーブンで炒めて小麦粉を入れる。もうすっかり覚えてしまった分量の調味料を加えてかき混ぜると、キッチンは少し、生活の香りが漂い始める。それから、思い出すあれこれとともに刻んだブロッコリーと人参の、鮮やかな緑とオレンジ色をスープに入れて煮込めば、混ざり合わない色々な思いが、スープの底に沈んでゆく。自分の固い心もこんな風にゆっくりと火を通して柔らかくなっていけばいいのにと思う。
     カウベルのようなチーズグレーターでチェダーチーズをすりおろし、クリームを入れると少し尖ったチーズスープの濃厚な香りがダッチオーブンからたちのぼる。このまま少しかき混ぜて火からおろせば明日のスープができあがると、ほっとしたときに、背後から七ツ森の声がする。
    「玲太、なにやってんの?」
    「スープ。明日の朝のスープ作ってた」
    「眠れなかったの」
     七ツ森は玲太の肩に顎を載せて鍋の中を覗き込む。
    「おいしそ……」
     七ツ森は玲太の不眠を知っている。知っているけれど何も言わない。
     カチン、とコンロの火を止めてオーブンに蓋をする。
    「明日、食べるの、楽しみ。俺、玲太のスープ、好きなんだ」
     ……だから、寝よう?と玲太の肩を抱いてベッドルームへ連れて行く。
     眠れない夜はスープを作る。明日の朝、起きる楽しみができるように。
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    DONE1999年ノストラダムスの予言と七風
    1999年6月30日 七ツ森は授業中、窓の外に広がる雨雲の割れ目からのぞく青空を眺めていた。梅雨に入って久々の晴天で、グラウンドに点々と残る水たまりにも雲と青空が映っていて、地面の割れ目から青空がのぞいているようで、自分の天地が引っくり返ったような不安定な感覚がする。この感覚がわかるのはカザマだけだな、と思いながら今日の昼休みに屋上に誘ってみようと考える。ばさばさとプリントがめくれる音に気づいて教室を見回せば、自分以外の生徒は机に向かってプリントの問題に取り組んでいる。みんなは今日がなんの日なのか、知らないのかと不思議に思った。今日は6月の、最終日だというのに!

     小学校の図書室の、子ども向け科学漫画で読んだノストラダムスの予言。おどろおどろしいタッチで人々が逃げ惑うイラストの入ったそのページを初めて見た日の夜は、眠れなかった。翌朝眠い目をこすりながら起きてくると、母親は「おはよう」とにっこり笑って目玉焼きを焼いていて、父親は通勤用の靴に足をつっこんでいて、姉は髪の毛に櫛を通している。いつもの朝だった。また、通学路を歩いていると、大人たちが足早に勤め先に行き、老夫人が犬の散歩をしている。まるで世界の滅亡など自分の眼前に迫っていないかのように。なぜ皆はあんな恐ろしい予言を、なかったことにして生活をしているのか、わからなかった。ひょっとすると自分だけが知る、世界の秘密なのではないかとさえ思った。だから学校の休み時間に、クラスメイトに聞いてみた。彼は「えっ、それヤバイじゃん」と言ったけれど、すぐに別の少年に声を掛けてドッジボールをしに校庭へ駆けていった。
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    DONE七風食堂 香港にて点心を食う
     英語も繁体字も読めないから、頼むと七ツ森に言われた玲太は、活字のみの注文票を見ながらさらさらと点心のオーダーを書き込んだ。久しぶりに、香港の雑踏が恋しくなったと玲太は七ツ森を誘ってやってきた彼は、行きつけのうまい点心を食わす店に七ツ森を連れて行った。
     昼前だというのに店内は満席だった。円卓に白いテーブルクロスがかかり、追加注文できるよう点心を載せたワゴンがテーブルの間を縫うように動く。
     ほどなくして彼らのテーブルの上にはいくつかの蒸し籠や皿が並んだ。店員が竹で編んだせいろの蓋を開けると、中から湯気がもうもうと立ち上り、中から小籠包やシュウマイ、海老餃子などが現れる。
     レンゲの上に小籠包を載せようと箸でその、つままれたひだをつまみ上げると、たぷりとした肉汁が小籠包の餡のしたの皮にたまり、丸い膨らみを成す。あわててレンゲに載せると、中身の重さに耐えかねた薄皮が破れ、中から油の浮いた胡麻の香りのする薄茶色の肉汁がじわりとにじみ出る。それをすすりながら口の中に運べば、まだ蒸したての餡が熱く、彼らは眉間に皺をよせ、しばらく口をあけて熱い空気を逃がすために無言になる。
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    むんさんは腐っている早すぎたんだ

    DONE七風リレー小説企画 第一弾ラストになります。
    お付き合いいただいた皆様ありがとうございました!!

    (なおラストはどうしても1000文字で納められなかったので主催の大槻さんにご了承いただいて文字数自由にしてもらいました💦今後もラストパートはそうなると思います)
    七風リレー小説⑥ 一度だけ響いた鐘の音に惹かれて風真は歩を進めていく。理事長の方針なのかは知らないが目的地までの道は舗装されておらず、人工的な光もない。すでに陽は沈みきってしまっているため、風真は目を慣らしつつ〈湿原の沼地〉を進んでいく。草木の茂る中ようやく着いた開けた場所にぽつんとあるそこは、予想はついていたが建物に明かりなどついておらず、宵闇にそびえる教会はいっそ畏怖さえ感じる。……大丈夫。俺は今無敵だから。そう心で唱えた後、風真は教会の扉に歩みながら辺りを見回して声を上げた。
     
    「七ツ森。いるのか?」
     
     ――返事はない。
     シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
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    oredayo_mino

    DONE七風食堂:冷蔵庫の残り物でごはん作ってくれ……風真……。
    明日は買い出しへ買い物に行く日は週に一度と決めている。自宅から徒歩十五分のスーパーは金曜が特売日で、カードで支払うと5%値引いてくれる。一週間分買いだめした食材を小分けにして冷凍し、作り置きのおかずを作っていれば「主婦みたい」と緑の瞳がいつも笑う。
    食材がほとんど底をつく木曜は俺の腕の見せ所だった。すかすかの冷蔵庫の中にはシチューの残りとサラダに使ったブロッコリーの残り。冷凍庫の中には食パンとピザ用チーズ。戸棚の中には使いかけのマカロニ。
    今日の夕食は決まりだ。残り物を工夫してそれなりの料理に変化させるのは意外と楽しい。まず冷凍の食パンを常温に戻す。その間にシチューをあたため、マカロニを湯がく。マカロニは少し芯がある位でざるに上げ、グラタン皿に盛りつける。その上からブロッコリーを乗せ、常温に戻した食パンを一口サイズに切り、同様に皿に盛りつける。その上からシチューを流し込み、冷凍してあったピザ用チーズを振りかける。それからオーブントースターで約8分焼くだけ。すると、チーズのいい香りに誘われたのか、ふらふらと実がキッチンへやってくる。
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