Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    whataboutyall

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    whataboutyall

    ☆quiet follow

    七風リレー小説①

    #七風リレー小説
    sevenWindRelayNovels

     放課後の茜色の教室は七ツ森と風真の二人きりだった。窓際の席で、今日の当番日誌を書く風真に向かい合って、七ツ森は座り、風真の手元を見ている。粒の揃った文字が、空白を埋めていく様子は見ていて面白い。自分が夢中になっているゲームよりも、こちらを見ていたいとも思う。七ツ森の視線を感じ、風真は日誌に落としていた視線を七ツ森に向けて問う。
    「……ん? 何見てるんだよ」
    「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
    「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
    「誰もいないんだからいいでしょ」
     そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。

     はばたき学園は海の街にある学校だ。だから、風向きによっては窓辺まで、潮の匂いが運ばれてくる。この匂いを嗅ぐと、七ツ森はなんとなく懐かしいような、寂しいような、人恋しいような気分になる。幼少期の、家族で行った海水浴で、遊び疲れて眠ったときにおぶわれた、母の背中のあたたかさを思い出すからかもしれない。一人暮らしをしていると、生活の合間合間に、過去の五感の記憶が鮮やかによみがえる。そんな時、七ツ森は風真に会いたい、風真のそばにいたい、風真に触れたいと、思う。
    「よし」という風真の声と、日誌をぱたんと閉じる音がして、七ツ森は幼少期の海水浴場で眠った自分から高校生の自分に戻ってくる。
    「これ、提出したら帰ろうぜ」
    「……どっか、寄ってく?」
     二人は鞄を持って教室を出る。廊下には、窓枠の影が斜めに等間隔で伸びている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😭🙏💞👍💴💴💴💴💴💴🌇🌇🌇🌇🌇🌇🌇🌇🌇🌇🇪Ⓜ🇴ℹ❤🇪Ⓜ🇴ℹ❤🌇🌇🌇🌇🌇❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    whataboutyall

    DONE1999年ノストラダムスの予言と七風
    1999年6月30日 七ツ森は授業中、窓の外に広がる雨雲の割れ目からのぞく青空を眺めていた。梅雨に入って久々の晴天で、グラウンドに点々と残る水たまりにも雲と青空が映っていて、地面の割れ目から青空がのぞいているようで、自分の天地が引っくり返ったような不安定な感覚がする。この感覚がわかるのはカザマだけだな、と思いながら今日の昼休みに屋上に誘ってみようと考える。ばさばさとプリントがめくれる音に気づいて教室を見回せば、自分以外の生徒は机に向かってプリントの問題に取り組んでいる。みんなは今日がなんの日なのか、知らないのかと不思議に思った。今日は6月の、最終日だというのに!

     小学校の図書室の、子ども向け科学漫画で読んだノストラダムスの予言。おどろおどろしいタッチで人々が逃げ惑うイラストの入ったそのページを初めて見た日の夜は、眠れなかった。翌朝眠い目をこすりながら起きてくると、母親は「おはよう」とにっこり笑って目玉焼きを焼いていて、父親は通勤用の靴に足をつっこんでいて、姉は髪の毛に櫛を通している。いつもの朝だった。また、通学路を歩いていると、大人たちが足早に勤め先に行き、老夫人が犬の散歩をしている。まるで世界の滅亡など自分の眼前に迫っていないかのように。なぜ皆はあんな恐ろしい予言を、なかったことにして生活をしているのか、わからなかった。ひょっとすると自分だけが知る、世界の秘密なのではないかとさえ思った。だから学校の休み時間に、クラスメイトに聞いてみた。彼は「えっ、それヤバイじゃん」と言ったけれど、すぐに別の少年に声を掛けてドッジボールをしに校庭へ駆けていった。
    5049

    whataboutyall

    DONE七風食堂 香港にて点心を食う
     英語も繁体字も読めないから、頼むと七ツ森に言われた玲太は、活字のみの注文票を見ながらさらさらと点心のオーダーを書き込んだ。久しぶりに、香港の雑踏が恋しくなったと玲太は七ツ森を誘ってやってきた彼は、行きつけのうまい点心を食わす店に七ツ森を連れて行った。
     昼前だというのに店内は満席だった。円卓に白いテーブルクロスがかかり、追加注文できるよう点心を載せたワゴンがテーブルの間を縫うように動く。
     ほどなくして彼らのテーブルの上にはいくつかの蒸し籠や皿が並んだ。店員が竹で編んだせいろの蓋を開けると、中から湯気がもうもうと立ち上り、中から小籠包やシュウマイ、海老餃子などが現れる。
     レンゲの上に小籠包を載せようと箸でその、つままれたひだをつまみ上げると、たぷりとした肉汁が小籠包の餡のしたの皮にたまり、丸い膨らみを成す。あわててレンゲに載せると、中身の重さに耐えかねた薄皮が破れ、中から油の浮いた胡麻の香りのする薄茶色の肉汁がじわりとにじみ出る。それをすすりながら口の中に運べば、まだ蒸したての餡が熱く、彼らは眉間に皺をよせ、しばらく口をあけて熱い空気を逃がすために無言になる。
    873

    related works

    whataboutyall

    DONE七風リレー小説①
     放課後の茜色の教室は七ツ森と風真の二人きりだった。窓際の席で、今日の当番日誌を書く風真に向かい合って、七ツ森は座り、風真の手元を見ている。粒の揃った文字が、空白を埋めていく様子は見ていて面白い。自分が夢中になっているゲームよりも、こちらを見ていたいとも思う。七ツ森の視線を感じ、風真は日誌に落としていた視線を七ツ森に向けて問う。
    「……ん? 何見てるんだよ」
    「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
    「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
    「誰もいないんだからいいでしょ」
     そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。
    913

    むんさんは腐っている早すぎたんだ

    DONE七風リレー小説企画 第一弾ラストになります。
    お付き合いいただいた皆様ありがとうございました!!

    (なおラストはどうしても1000文字で納められなかったので主催の大槻さんにご了承いただいて文字数自由にしてもらいました💦今後もラストパートはそうなると思います)
    七風リレー小説⑥ 一度だけ響いた鐘の音に惹かれて風真は歩を進めていく。理事長の方針なのかは知らないが目的地までの道は舗装されておらず、人工的な光もない。すでに陽は沈みきってしまっているため、風真は目を慣らしつつ〈湿原の沼地〉を進んでいく。草木の茂る中ようやく着いた開けた場所にぽつんとあるそこは、予想はついていたが建物に明かりなどついておらず、宵闇にそびえる教会はいっそ畏怖さえ感じる。……大丈夫。俺は今無敵だから。そう心で唱えた後、風真は教会の扉に歩みながら辺りを見回して声を上げた。
     
    「七ツ森。いるのか?」
     
     ――返事はない。
     シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
    2524

    recommended works

    むんさんは腐っている早すぎたんだ

    DONE七風リレー小説企画 第一弾ラストになります。
    お付き合いいただいた皆様ありがとうございました!!

    (なおラストはどうしても1000文字で納められなかったので主催の大槻さんにご了承いただいて文字数自由にしてもらいました💦今後もラストパートはそうなると思います)
    七風リレー小説⑥ 一度だけ響いた鐘の音に惹かれて風真は歩を進めていく。理事長の方針なのかは知らないが目的地までの道は舗装されておらず、人工的な光もない。すでに陽は沈みきってしまっているため、風真は目を慣らしつつ〈湿原の沼地〉を進んでいく。草木の茂る中ようやく着いた開けた場所にぽつんとあるそこは、予想はついていたが建物に明かりなどついておらず、宵闇にそびえる教会はいっそ畏怖さえ感じる。……大丈夫。俺は今無敵だから。そう心で唱えた後、風真は教会の扉に歩みながら辺りを見回して声を上げた。
     
    「七ツ森。いるのか?」
     
     ――返事はない。
     シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
    2524