夏のディルガイ(カント)進捗『いきなり来て子どもがいるから責任を取るだ?お前、人のことなんだと思っているんだ』
渾身の告白をあり得ないだろうと一括したガイアはあまりにも義務的すぎるとディルックを叱り飛ばした。気が動転していて慌てて言葉を紡いだのを見透かされたように叱り飛ばされるディルック。モンドでは見られなかったガイアの姿に呆然としていれば、
『働かざるもの食うべからずって言うからな。ここに滞在するなら親父さんに許可取って働いてからにしろ』
とあれよあれよと肉体労働をする羽目になってしまったのである。
「図らずもカエヤが普段過ごしている日常……家事や仕事をしてみてどうだね?」
「……恥ずかしながら、誰かと共同生活……いえ、家庭内の仕事をここまで分担して生活するのがここまでエネルギーがいることとは思いませんでした……」
「ははは!カエヤもここに来た当初口には出さないけれど、疲労困憊だったからね。流石にカエヤは子どもを抱えていたから事情は若干違うが、君達はよく似ているよ。特に纏う空気がと言ったところだな」
それは傅かれる立場だったことを見抜かれているのか。思ったよりガイアの生活はハードだった。朝授乳してから赤子の面倒を見つつ、昼休憩にはまた授乳。マリアにも赤ん坊を見てもらいながら、工房で留守番をしつつ、来客の対応……と言ってもジェラニモがゴンドラの手入れで工房から出られない時に近所の依頼の確認をしたりというものなのだが、赤子を抱きながらである。食事も作るので休む暇も無い。しかも母乳で育てているのだから睡眠時間は基本的に二、三時間程度。今はディルックが工房の周りの仕事を引き受けているのでガイアが赤ん坊の面倒を見る時間が増えたが、それでもそっと様子を見ると仮眠をとりながらマリアとジェロニモに支えられて授乳しているのだ。モンドにいた頃にはいきいきと魔物退治をして酒場に来ていたと言うのに現在では全く生活スタイルが違いすぎるし、やることが多すぎるとゾッとしながらディルックは黙々と雑務を片付けることになった。
◇◇◇
それにしてもマリアという少女はよくガイアについてまわっていると思っていたが、ガイアが頼りにしているというのもあるみたいであった。
「カエヤ、赤ちゃんぐずってた」
「嗚呼悪いな。すぐ行く」
「ミルクはもうあげたからお母さんが居なくて不安なのかも。カエヤ、貴方も寝た方がいい。後片付けなら私がしておく」
「助かる。仮眠を取ったらすぐ戻るから」
「カエヤ、赤ちゃんと一緒にお昼寝しちゃったら?もう船漕ぎそうだよ」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうか。起きたらノート置いておけば宿題見ておいてやるよ」
「ありがとうカエヤ」
「……」
自分がいなくともあれよあれよとガイアの日常は回っていた。生まれたての命の面倒を見なければならないというのもあり忙しいのもわかる。1人では育てられないこともよくわかる。しかし、それにしたって彼女は実の家族というわけではないがとても距離が近い。
「あの、私を睨みつけるのやめてもらえる?カエヤと話したいなら話しかければいいでしょ?」
「……それができれば苦労は」
「そもそも原因作ったの誰?」