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    ky_symphonic

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    ky_symphonic

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    頭よわよわにされるふみゃ

    推しが脳みそ開示してくれたからには弄らない方が失礼かなって……

     なんか、ふと目が覚めたら、どう考えても自室ではない暗闇にいた。身体も動かないし。なにこれ?

    「ええ〜〜〜〜〜…………」

     人は意味のわからない状況に置かれるととりあえず呆然とするしかできないらしい。なにこれ、どこだよここ、俺普通に部屋で寝てたじゃん。何があった? を、全部ひっくるめたぼやき声が特に反響することもなく周りの闇に溶けていく。謎の空間でおそらく何かに座らされている状態のふみやは、指一本動かせないことを悟ると早々に現状打破を諦めて溜息を吐いた。まあ、たぶん夢か何かだろ。寝てたときと体勢違うし、ちょっと金縛りっぽいし。そう思いながらぐるりと眼球だけ動かしてみる。声は出せるし呼吸もできるし、目と口は普通に動く。暗すぎて何も見えないけど。つまり首から上は動くんじゃないか、なんて思ってとりあえず右を向いてみようとした瞬間、ちくん、とつむじのあたりに僅かな痛みが走った。

    「…………?」

     今、頭になんか刺さった? 一瞬だけとはいえ、流石に頭部に外部刺激っぽい痛みを感じたのはちょっと怖い。しかも今のふみやは身体が動かせないので、該当箇所を触って確かめることもできない。これ下手に頭動かさない方がいいかもな、と思っていると、さっきとは別の部分が再びちくっとした。なんか刺さってる、というよりは、針の先端で頭皮をつつかれているような感じ。ちく、ちく、ちくん、と痛いようなくすぐったいような感覚が断続的に与えられる。苦痛ではないけど、鬱陶しいし落ち着かない。もぞもぞと身体を動かしたいが、それも叶わないのでこの妙な感覚を逃すことができない。ううう、と唸ってみると少しだけちくちくむずむずした違和感が紛れる気がした。

    「んっ?」

     高さや大きさを変えつつしばらく唸り続けていたふみやの声が一瞬途切れる。えっ、なんか今、ぷつっていわなかった? マジで何か刺さってない? 相変わらず真っ暗で何も見えないが、それでも流石に気になって頭の上あたりに視線を向けようとして、

    「、」

     またしても頭皮をぷつんと突き破られるような感覚に襲われた。え、なになに、マジでやばいかも。流石に洒落にならないのでは? 痛くないのが逆に怖いというか、いや、ちょっと、ほんとに俺、今どうなってんの? ぷつ、ぷつ、ぷつん。もう5本くらい、頭に何かを刺されてる気がする。何かって、針でも十分怖いんだけど、針じゃなかったらもっと怖いかも。マジでなんなんだよ。じわじわ焦り始めていると、またしてもぷつんと何かが刺さる感覚がやってきた。直後、じぃん、と重たい痺れが襲って、薄まりながらゆっくりと広がっていく。痛みではないけど、頭の奥がじんわりと重くなるような不思議な感覚。……頭の、奥?

    (いや、おかしくないか?)

     先ほどからちくちくぷつぷつと刺激を与えられているのは主につむじの周り、つまりはふみやの頭頂部だ。そしてじんわりした痺れが残っているのは頭の奥、まあ感覚しかわからないからたぶん、としか言いようはないけど、それなりに深いところ。……頭皮に何かが刺さっているとして、そんなところまで刺激が届くだろうか。だって頭皮の下って頭蓋骨があるし、ふみやは19歳なのだから赤ちゃんみたいに骨の間に隙間があるというわけでもないだろう。それなのに、頭蓋骨に覆われているはずの場所に刺激を感じるって、普通ありえないのでは?
     これは本格的にまずいことになっているかもしれない。今の状況もかなり怖いが、だからといってこのままでいる方がもっと怖い。流石になんとかしないと大変なことになる気がする。相変わらず手足は動かせないが、せめてこれ以上何かされるのは避けたい。謎の刺激から逃れようと軽く頭を振ろうとして、……薄く残っていた痺れが急に存在感を増し、頭の奥に鈍痛が走った。

    (やばいやばいやばいやばい)

     多少気にはなるけど痛くない、程度だった感覚が、動こうとした瞬間に明確な痛みとなってふみやを引き止める。我慢できなくはない。が、痛みともにずしりと頭の奥が重くなって無理に動く気になれないから動けないも同然だった。思ったよりも状況が悪いことに気づいたふみやの呼吸が少しずつ浅くなる。は、は、と短く息を吐きながら身を硬くするふみやの頭には、相変わらずぷつんぷつんと何かが刺さるような感覚が与えられていた。たまにじんわりと痺れが広がって、その度に頭の奥が重くなっていく。

    「はっ、はっ、はぁっ、は、ぁ……はーっ、はーっ、はー…………」

     頭の奥が重く痺れて、意識もなんだかぐらぐらしてきた。強張っていた身体から力が抜けてきて、焦りから乱れて速くなっていた呼吸も少しずつゆっくりになっていく。全身がずっしり重くて、どこまでも沈んでいってしまいそうだ。ぷつん、とまた何かを刺される。今のはちょっと痛かった。よくないところに刺さったのか、より太いものが刺されたのか、それはよくわからない。何本くらいかも数えてない、というか途中からわからなくなってしまった。もう結構な量を刺されているとは思うけど。今の俺って剣山みたいになってるのかな、なんてどうでもいいことが頭をよぎる。たぶん、すごいことになってるんだろうな。俺どうなっちゃうんだろう。

    「ぅあ、……?」

     脱力したままぼーっとしていると、じくん、と重くて鈍い痛みが頭の奥を襲った。痛み? よくわからないけど、たぶん痛い、と思う。これまでの痺れるような重さとは明らかに質が違う感覚だった。その感覚が何度も何度もやってきて、じわじわと頭の中を侵食していく。頭に刺さっていたものが抜き差しされている? 深いところにある何かを、様々な角度からつつかれているような感じ。痛かったはずだけど、なんだかよくわからなくなってきた。ただひたすら頭が痺れて、ずっしりと重い。かくん、と頭が傾く。いつの間にか開きっぱなしになっていた口から、重力に従ってゆっくりと涎が垂れていった。

    「ー……あぁ、あ…………あぇ……」

     不自然な角度に首を傾げたまま、ぼんやりと闇に視線を投げ出す。ふみやはもう何も考えられなくなっていた。時折ひくひくと指先が蠢いたい、びくんと腰が跳ねる。瞬きもせずに薄く開いたままの瞼から、ゆっくりと涙が溢れて頬に伝っていった。人形のようにされるがまま、頭を弄られながらあぁ、とかうぅ、とかぽろぽろ虚な声を漏らす。

     ぷつ、ん。

    「、」

     何かが勢いよく頭に突き刺さった。頭の芯を貫かれたような感覚に、喉の奥から濁った声が漏れる。がくんと頭が後ろに倒れるのと同時にぐるりと瞳が上を向いて、そのままふみやの意識はぷつんと途切れた。


    ***

    「…………やっぱり、夢………………………」

     意識が浮上するように目を覚ますと、そこは見慣れた206号室の中だった。時間は5時ちょっと過ぎ。普通の、なんてことない朝だ。ふぅ、と息を吐きながら右手をぐーぱーと動かしてみる。うん、ちゃんと動く。恐る恐る頭に手をやってみるが、こちらも特に異常なし。よかった、本当にあれは夢だったんだ。
     もそもそと起き上がり、部屋を出て洗面所へ向かう。とりあえず顔でも洗おう。あと水も飲みたい。ふあ、と欠伸をしながら洗面所のドアに手をかけようとすると、目の前でガチャリと開いて理解が出てきた。

    「おや、ふみやさん。おはようございます」
    「……ん、おはよ……」
    「私が起こすまでもなく早起きするなんて素晴らしい。今日はきっと良い1日になりますよ」
    「……っ、」
    「どうしました?」
    「や、えっと……まだ、寝ぼけてる、かも……」
    「そうですか、では早く顔を洗ってさっぱりしましょうね」

     にっこりと爽やかに笑った理解にぽんぽんと頭を撫でられ、ぴくりと僅かに身体が強張る。不思議そうな顔をした理解に適当なことを言って誤魔化し、慌てて洗面所に入った。ざばざばと顔を洗い、タオルで顔を拭きながら鏡を見る。見た感じはなんともない、けど……さっき理解の手が頭に触れたとき、妙な感覚があった。自分でもう一度頭に触れてみる。特になんともない。人に触れられるのがダメなのか? そう思いながら、頭皮をマッサージするみたいにぐっと指先に力を込めてみると、頭の奥が微かにぞわっとした、ような気がした。

    (いや、でもあれは夢…………だったんだよ、な?)

     なんだか嫌な予感がする。ふと目についたテラのスカルプブラシを手に取って、恐る恐る頭に押し当てた。

    「ぁ、………………………!?」

     尖ったシリコンが頭皮を刺激した瞬間、がくんと身体から力が抜ける。頭の奥が痺れたみたいに思考が一瞬白くなって、そのまま勢いよく床に崩れ落ちた。壁に思い切り身体をぶつけて、ガタン!!と激しい音が洗面所の中に響く。

    「………………………うそ」

     あれって夢じゃなかったのかよ。
     立ち上がる気にもなれず、信じられない気持ちでぽつりと呟く。尋常でない音を聞きつけた住人たちが洗面所にやってくるまで、ふみやは床に転がったスカルプブラシを見つめたまま呆然とその場に座り込んでいた。
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