恩巡り --side story「もしもし、准?いま電話してても大丈夫?」
「ああ、平気だ。迅のことだな?」
「そうよ。やっと、部屋から出てきたところを捕まえたの。……勝ち取って喜んでるのかと思ってたけど、あいつにとって、風刃を手に入れるのは当然のことだったのよ。風刃は最上さんじゃないけど、最上さんの遺志だ、って言って、その遺志を読み取ろうとしてるみたい」
「そうか……」
「別に、最上さんの言うとおりにしなきゃいけないわけじゃないのにって、あたしは思うんだけど」
「迅は最上さんの遺志を継ぎたいんだろう」
「継ぎたいっていうより、そうするのが当たり前だと思ってるのよ……辛いなら考えるのなんてやめちゃえばいいのにって思うけど、今の迅に『やめたら』なんてとても言えないわ」
迅は風刃を手にひとりで立とうとしているのだろう。その在り方が間違っているだなんて、誰にも言えない。周りの俺たちがどんなに歯がゆく感じていたとしても。
「風刃を手に入れるためにあんなに必死になってたのに、手に入れたらまた傷つくだなんて、ばかみたいだわ」
桐絵の声が透明な悲しみをまとって、ひたひたと寄せてくる。
「少し落ち着いたみたいだから、そろそろ学校にも行かせると思うわ。レイジさんが」
「そうか」
「だから……お願いね」
ーー傍にいよう。迅が顔を上げた時を逃さないように。桐絵がしたように、俺も。
そしていつか、迅が自分の意思で未来を選べるようになるといい。
「了解」
その時を、隣で待ってる。