とりあえず肉を食え「なんかごめんな」
昼下がりの大学の食堂で、迅がブツブツ言っている。
「ザキの誕生日だったのにさぁ」
「仕方ねぇだろ」
俺たちは月初めに旅行に行かせてもらった。のんびりさせてもらった分は働かなくてはならない。
「なんとかしてもらおうと思ったんだけど、あんまりわがまま言えないし」
「調整してもらったからな」
「最近はイレギュラーゲートも多いし」
「そっちのが優先じゃねぇか」
このところ警戒区域外にゲートが開くことが増えてしまい、本部は慌ただしい雰囲気に包まれている。隊員はいつもより多く本部で待機しているが、突発的な事象の予測はやはり未来視頼りになり、迅は対応を余儀なくされているようだった。
本人にはこのところ全く会えていなかったのだが、突然『昼休みに食堂行く』とメッセージが来て、授業後に慌てて来たら、牛丼の大盛りと迅が待っていたのだ。牛丼は『とりあえずプレゼント』らしい。
「やっぱ忙しいんだろ」
牛丼を食いながら聞くと、
「うん」
食堂のテーブルに突っ伏して言う。やはり疲れているようだ。
「ゲートの出現が割とランダムでさぁ…対応できそうな隊員の未来を集中して視てんだけど、意外と難しくて」
「そうだろうな」
「みんな大学来てる?」
「生駒と弓場には時々会うけど、嵐山には会ってねぇな」
このところ4人揃うことがない。市民の動揺が広がっているから、嵐山はメディアに出て対応する必要があるのだろう。いつ渡せるかわからないが、一緒に取っている授業は板書を丁寧にとるようにしている。
「被害が出るとあいつも大変だな」
「そうなんだよね…」
「ああ、おめぇのせいじゃねえんだから気にすんなよ?」
そう言うと、迅は顔を上げて少し笑った。
「まあ、俺の誕生日なんてどうでもいいから」
「よくないよ!」
がばっと身を起こして言う。
「いろいろ考えてたんだよ?旅行には蓮さんたち一緒に行けなくて残念だったから、今度は一緒にやろうって計画立ててたのに。ボーダースポーツ大会とか、学年対抗でチーム分けして、俺らの下の代は人数多いから高校とかで分けるかって言ってたのにさぁ」
迅はたいそう悔しそうだ。
「…ありがてぇけどよ…まあ、うん、ありがとな」
そう言うと、少し溜飲が下がったようだ。
「イレギュラーゲート収束するまで延期だな…。隊のみんなには祝ってもらった?」
「おう。でもパーティーは今日やる予定なんだ」
「え?」
「虎太郎の誕生日と一週間違いでよ。祝ってはもらったんだが、パーティーは真ん中の日にやろうぜってことになって」
「なるほどね」
「本部で待機しながらだけどな」
「うーん…多分、緊急出動はかかんないよ」
俺をみながらいう。どうやらサイドエフェクトを使ったようだ。
「おめぇ疲れてんだから、俺なんかに使うなよ」
「ザキ『なんか』じゃないよ」
席を立ちながら迅がいう。
「ザキが楽しく過ごしてるといいことがあるっておれのサイドエフェクトが言ってるんだ」
「マジかよ…おい、もう行くのか」
「うん、早いとこ食べた方がいいよ、近くでゲート開くから。今日は二宮さんも来てるはずだから、避難誘導よろしく」
「柿崎了解…一人で大丈夫か?」
「誰に言ってんの」
出口に向かいかけてた迅は振り返って笑った。
「実力派エリートに任せとけって」