あれカリカリ…カリカリ…サッサッ…
数日続いた雨が嘘のようによく晴れた日曜日、
外からは暖かな日差しが差し込み
太陽がもうすぐ真上に登る頃
ベランダに丁寧に干されている洗濯物達が
ゆるい風にあおられ踊っていた。
カリカリ………
この部屋の主は、
リビングにある大きなソファーに
横向きに体を預け
肘置きに背を預けた格好で
膝に置いたスケッチにペンを走らせている…
ペラッ…カリカリ…
時折、スケッチから外すその目線の先には、
スラリと伸びた手足にしまった筋肉
サラサラの黒髪を揺らし
掃除をしている青年の姿があった
頭から足の先までじっくり観察して
またスケッチに目を戻す
カリカリ…
次第に掃除機のモーター音が近づいてくる
足元まで来たあたりでモーター音が止んだ。
ふと目線を上げると
目の前には俺の愛しい人
思わず表情が緩む
少し前まで知らなかった
幸福感がこみあげて来る
あぁ、今は本当に心から幸せだとおもう
ーーーーー
それは、数ヶ月前に遡る
あの時の俺におきた
信じられない出来事だった…
その時の俺は
幼い頃から人よりも見た目には特に気を使ってきた。中学、高校とそれなりに人目も集めたし、
大学ではさらに服飾について学び
自分に似合う、引き立てる服をデザインすることで
それなりの評価を得ていた。
卒業してからも、デザイナーとして順調に進み
今では自身のブランドを持ち
それなりの知名度を上げてきたと思っている。
だが。
しかし、ここ最近
思うようにペンが進まない…
スケッチブックを前にしても
線一本、引くことが出来ない…
正直、何も浮かばないのだ。
今まで才能に恵まれ
天に三物も四物を与えられてきた身としては
なかなか受け入れがたい出来事だが
これが俗に言うスランプと言うものなのだろうか…
なかなか浮上しない俺を心配して
気分転換にと…
普段は海外にいる俺の親友であり最高のライバルが
旅行やヒルクライムに誘ってくれたりもしたが
それでもスケッチブックは白いまま…だった。
♢♢♢
そんな日々が続いたある日
本当に気まぐれに街中を散策し、
たまたま近くにあった
自分の服が並ぶ店の前を通り過ぎようとした時。
ふとガラス越しに店内を覗くと
今までデザインしてきた服が並んでいるのが見えた。
うむ、やはりどれも悪くない、
我ながらセンスよく全ておいてに整っていると思う…
ディスプレイも悪くない…
マネキンのコーディネートも指示通り…に…
ん?なんだ?
自分のセンスの良さに優越感に浸っていると
ひとつのマネキンに目が止まった。
何だあのコーデは?
あのバランスの体型にはその服じゃ無いだろう!
わかってないな、オレが直々に直してやらねば!
勢い良く店内に入ると俺は真っ先に
マネキンに向かった
ーーー
ガチャガチャ…バンッ!
震える手で荒々しく玄関のドアを開けて
飛び込むと
ドアに背を預けその場にズルズルとしゃがみこんだ
………はぁ…はぁ…
やってしまった…
こんな失態人生で初めてだ…
心臓が壊れるんじゃないかと、もしくは
口から飛び出すんじゃないかと思うほど
ドクドクしている
こんな事初めてだ
店から家まで全力で走ったのだ
俺はどうかしてしまったのだろうか…
そのまま暫く息が整うまで頭を抱えていたが
ゆっくりとスマホに手を伸ばし最新履歴にコールする
3…4…5…6コール
いつもすぐに出た事など無いのだから
わかっている、それでも…
早く出てくれ!頼む!と
汗で張り付く前髪をかきあげながら
心の中で叫んでいた。
結局、相手は電話に出ることがなかったが
留守電に切り替わった瞬間に俺は今起きたことを
すべてを吐き出した。
前半はアナウンスに被って録音されてはいないだろうがそれでも構わなかった。