残業上がりの午後8時半。会社から最寄り駅に向かう途中のコンビニに立ち寄る。来店を知らせるおなじみの電子音は右の耳から左に流れて働き疲れた頭には届かない。ほぼ無意識でかごをひっつかみ、入口から真っ直ぐ進んだ一番奥へ。陳列されたおにぎりや弁当の中から、なんとなくの気分に合わせてドリアを取り、その横の棚から商品名も見ずに適当にサラダを選ぶ。少しだけ歩いて、ペットボトル飲料がある扉付きの棚からジャスミン茶を引っ張り出し、かごの中へ。あとはレジで会計をするだけ、そう思って横を向いた時に視界に入った雑誌のコーナー。
「あ……」
くすんだ色しかなかった世界が、爛々と光る蛍光灯に照らされた元の色の鮮やかさを取り戻す。自然と足が動いて、止まり、今度は手が動く。1冊の雑誌——先日病院の待合室で見たメンズファッション誌。号数を確認した赤い瞳がきらりと光る。
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