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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    騎士グラムは枕木樹のお爺ちゃんである。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(10)翌朝、オレは宿の裏手で飼育されているコケリコの鳴き声と共に目を覚ました。

    「…朝か。」

    昨日は色々と冒険してしまった気がする。
    たしかにグラムはサウズの宿屋で"お爺ちゃん"と呼んで欲しそうにはしていたが
    それでも出会って三日目、感謝の気持ちを伝えるならべつに"お爺ちゃん"と呼ぶ
    必要もなかったのではないかと今更ながら考えた。
    部屋に戻るとすぐ布団に潜り込んだため、あれ以降グラムの顔を見ていない。
    オレが恐る恐る寝返りをうつと、何故か部屋のすみっこで筋トレをしている
    グラムの姿が目に入った。

    「…おはようございます?」

    オレは戸惑いながらも、ゆっくりと体を起こしグラムに声を掛けた。

    「おはよう樹ちゃん!今日もとっても良い天気じゃな!」
    「え? え、ええ…そうですね。」
    「今日は良い一日になりそうじゃ…そう、
    孫がお爺ちゃんと旅をするのに最適な一日に!」

    何故かは分からないが、グラムは異様に上機嫌だった。
    …前言撤回、恐らく昨日オレが"お爺ちゃん"と呼んだからだろう。
    殆ど洗脳状態とはいえ、逃避行への同行に対する感謝のつもりで
    伝えたのだが…グラムにとっては想像以上に大事件だったようだ。

    「昨日、樹ちゃんがワシを"お爺ちゃん"と呼んでくれたおかげで
    ワシはようやく"樹ちゃんのお爺ちゃん"になることが出来たんじゃ!」

    グラムは意味の分からないことを興奮気味に教えてくれた。

    「えーっと…何のことかよく分かってないんですけど…」
    「むふふ…ならば樹ちゃん、ワシを鑑定してみなさい。」
    「鑑定?」

    そういえば、オレにも『鑑定』のスキルがあったんだっけ。
    あまりに慌ただしい生活をしていたせいで存在を忘れてしまっていた。
    人に対してどころか『鑑定』のスキルを使うこと自体初めてかもしれない。
    グラムに鑑定を使ってみると、オレの目の前にステータス表示が出現した。



     【 氏 名 】 枕木グラム

     【 種 族 】 祖父

     【 年 齢 】 75

     【 適 性 】 祖父

     【 職 業 】 祖父(騎士)

     【 能 力 】 体力:★★★☆☆
             知力:☆☆☆☆☆
             防御:☆☆☆☆
             俊敏:☆☆☆
             耐性:☆☆☆☆
     
     【 祖 父 】 祖父と孫 高齢者講習 溺愛 孫パワー 衰え知らず 血脈更新
             
             老骨の意地 おみとおし 虫のしらせ 孫と一緒

     【 騎 士 】 体力★ 馬術★ 剣術★ 槍術☆ 話術☆ 体術☆ 弓術☆ 盾術☆

             魔術(水)☆ 魔術(炎)☆ 魔術(癒)☆ 騎士道★ かばう☆ 気配察知☆

     見切り☆ 応急処置★ 威圧★ 鑑定★ 秘匿★ 通知★ 号令★ 
             


    …ツッコミどころが多すぎやしないだろうか。
    まず、人の名前が基本横文字なこの世界で苗字付きの名前は明らかにおかしい。
    苗字が枕木なのは偶然の一致ではないだろう、我ながら珍しい苗字だと思うし。
    そして種族もおかしい…"祖父"とは関係性を表す言葉であって種族名ではない。

    試しに自分のステータスを確認してみると



     【 氏 名 】 枕木樹

     【 種 族 】 ヒト

     【 年 齢 】 29

     【 適 性 】 孫■

     【 職 業 】 期待の孫■



    オレの種族欄には"ヒト"と記載があった。

    この表示を鵜呑みにすると、グラムは人間ではないということになる。
    人種だけでなく、適性が"祖父"、職業まで"祖父"になってるのも中々のヤバさだ。
    まあ、職業が"期待の孫"とかいう謎の職業に変化しているオレが言えたことでは
    ないのだが…いや、というか"期待の孫"って何だ…? いつ変化したんだコレ…。

    自分のステータスも更におかしな状態になっていたため、オレは思わず
    "期待の孫■"の詳細を確認した。

    期待の孫■:これからの成長が期待される新人、期待の孫■。

    …よし、何も分からないからとりあえずグラムの話に戻るとしよう。
    オレは自分の状態を棚に上げ、グラムの状態確認に戻ることにした。

    技能欄を覗くと、"祖父"にも独自のスキルが存在していた。
    職業や種族扱いなので固有の能力があっても何ら不思議は
    ないものの、パッと見ではよく分からない能力も多かった。

    「あの、いつ頃からこんな感じのステータス表示になったんですか?」

    オレが動揺しながら尋ねると、グラムは嬉しそうに答えてくれた。

    「ワシが樹ちゃんの"お爺ちゃん"になった時からじゃ!
    初めてお爺ちゃんになった時はまだ職業も騎士だったのじゃが…
    昨日、樹ちゃんがワシのことを"お爺ちゃん"と呼んでくれたことで
    お揃いの苗字が貰えたし、職業も『祖父』が主体になったんじゃよ!」

    "オレのお爺ちゃん"云々というのはそういうことか。
    オレは「職業:祖父」や各スキルの詳細を確認するため
    各文字列に触れてみたが何故か説明文が表示されなかった。

    「あれ、説明が見られない…」
    「ああ…それは樹ちゃんが『鑑定』を殆ど使ってないからじゃろう。
    スキルは繰り返し使って腕を磨かねば、効果も低いままじゃからな。」

    以前予想した通りスキルには熟練度的な概念が存在しているらしい。
    スキルは隙あらば使っておいたほうが、将来的にも得になりそうだ。

    「何か気になる項目があるのであれば、ワシが教えてあげよう。」
    「えっと、それじゃあ…」

    正直気になる項目しかないので、パッと見で効果が分からないスキルの解説を頼んだ。



    【種族】祖父:孫にメロメロお爺ちゃん。孫に魂を消化された、孫の眷属。

    溺愛    :行動や意思決定を行う際の基準が孫になり、孫に関することが最優先事項となる。

    祖父と孫 :枕木グラムは、枕木樹の祖父としてその存在が永遠に固定される。

    血脈更新 :孫に認められることで、より孫と近しい存在になることが出来る。

    孫と一緒 :自身の一部スキルの効果を孫と共有することが出来る。

    孫パワー :孫と行動を共にしている場合、自身の身体能力が向上する。

    高齢者講習 :お爺ちゃんは、大好きな孫と話を合わせられるようになる。

    おみとおし :お爺ちゃんは、カワイイ孫のことは大体お見通しなのである。


    一部、効果を教えてもらってもよくわからない能力があったが…個人的に、
    種族としての祖父の説明に驚き、各スキルの詳細にもかなり衝撃的を受けた。

    祖父は孫の眷属…眷属って、ドラキュラとその手下みたいなアレ、だよな…?
    しかも各スキルの詳細から推測するに、グラムは恐らく元には戻らないという
    最大級にヤバい事実が判明してしまった。

    森で魂が返却された時点で、グラムはオレの祖父…眷属となっていたのだ。
    適正の表示がバグるレベルで時空の歪みの影響を受けた謎の適性"孫■"は
    過去の例に漏れることなく強大な能力だったというオチがついてしまった。

    「えー……とりあえず、朝ごはんにしましょうか。」

    色々と衝撃的過ぎたため、このまま現実逃避といきたいところだったが
    今はひとまず拠点と成りうるアラタルの町まで到達しなければならない。
    心を落ち着けるという意図も込めて、オレは食堂で朝食をとることにした。

    「…今日は、アラタルの町まで向かうんだったっけ?」

    小銭を払って受け取った硬めのパンと野菜入りのスープを食べながら
    オレはグラムに敢えて砕けた口調で話しかけた。

    衝撃的な事実が判明したため、他人行儀な態度は止めることにしたのだ。
    色々と思うところはあるが、眷属と主人という関係になってしまった以上
    オレはグラムという眷属に対して主人としての責任を負う必要があるだろう。
    グラムがオレの祖父になりたいと言うのなら、それに応えるのが筋というものだ。

    創作物だと眷属を手酷く扱うキャラも散見されるが、オレは小市民なので
    そんなことをする度胸もないし、出来れば幸せな生活を送ってもらいたい。
    毒を喰らわば皿まで、オレもグラムを本当の祖父と思えるように努めよう。

    「うむ…今日は街道ダンジョンを精霊馬で抜けるつもりじゃ。」

    グラムはオレの質問に答えながら、買ってきたサラダを頬張った。

    「街道ダンジョン?」

    モンスターがいるならもしや…と思っていたが、当然の如くダンジョンも存在した。

    「うむ、街道ダンジョンは……ああ、樹ちゃんはダンジョンも初体験じゃったかな?」
    「おそらくは。」

    オレの返答に呼応して、そのままダンジョンについての解説が始まった。
    曰く、魔物が常駐しているものを迷宮型…魔物が全く存在していないものを環境型、
    その中間を折衷型迷宮と分類し、国ごとにそれぞれ独自に手法で管理しているそうだ。

    昨日越えたガランゴン山道はそもそもダンジョンではなかったのだが、最近になって
    極少数ながらモンスターが出現し始めたので、折衷型に分類し直すかどうか識者の間で議論されていたらしい。
    マリアンからの情報を加味すると、出現率自体は一応少しずつ上がってきている…ということになるのだろう。

    今日通過予定の街道ダンジョンも極まれに殆ど害のないモンスターが現われる程度の
    折衷型迷宮で、その危険性の低さから街道代わりに利用する冒険者も存在するそうだ。

    「…万が一何かあってもワシが樹ちゃんを守るから、大丈夫じゃぞ!」

    グラムは空になったサラダボウルに木製のフォークを置くと、笑って言った。
    催眠術で操っている…とか、そういうレベルではない在り方自体の変質。
    オレが朝ごはんを…と言えば、恐らく寝ている時に無理矢理起こしても
    付き合ってくれるし、予定を聞けば何かをしていても手を止めて喜んで
    答えてくれる…種族としての"祖父"はそういうものなのだろう。
    意気揚々と今後の予定を語るグラムを見て、オレは気合いを入れ直した。



    朝食を終えて町の出口まで向かうと、門の側でマリアンが待ち構えていた。
    宿泊場所を伝えてないのにどうやって会いに来るつもりなのか…疑問では
    あったのだが、たしかにこれならオレ達と出会える可能性は高いだろう。
    目当ての人物の姿を確認したマリアンは、小走りで駆け寄って来た。

    「おはようございます、イツキさん、グランパさん!」
    「マリアンさん…お礼は要らないとお伝えしたのに。」
    「そうはいきません…商人は信頼こそが一番の宝、こういう時
    なあなあで済ませていては、立派な商売人になれませんからね!」

    携えていた鞄から本を取り出すと、マリアンはオレにそれを押し付けた。

    「本…?」
    「小型の辞典です! イツキさんは記憶喪失とのことだったので
    辞典であれば今後役に立つ場面もあるのではないかと思いまして。」
    「結構お高そうな本ですけど…良いんですか?」
    「大丈夫です! 命を救って頂いたようなものですから…それでは、良い旅を!」

    軽く会話を交わした後、マリアンは手を振りながら町の方へと駆けていった。
    一緒に過ごし時間こそ短かったが、商人の少女は良識ある爽やかな人だった。
    オレ達は彼女の姿が見えなくなるまで見送った後、改めて町の外へ向かった。

    「あれっ、そういえば『鑑定』があるなら偽名の意味なかったんじゃ…」

    偽名を使っていてもステータスを覗かれたら無意味だったのでは…
    オレはふと思い浮かんだ疑問をグラムに向けてみた。

    「ワシには『秘匿』のスキルがあるからのう、『鑑定』の妨害なぞ朝飯前じゃ。
    『孫と一緒』の効果で樹ちゃんにも『秘匿』が掛かっているから安心じゃぞ!」
    「い、いつの間に…というか、既に祖父のスキルをかなり使いこなしてる…」
    「ステータスが無防備な状態というのは褒められた状態ではないからのな。
    自分の手札を不特定多数に晒しているよりは、隠していおいた方が何かと得というものじゃ。
    『秘匿』は誰かに隠しごとをしていれば習得出来ることがあるから、樹ちゃんも取っておきなさい。」
    「そういうものなんだ…」

    自信たっぷり笑うグラムを見て、オレはグラムが味方で本当に良かったと思うのだった。
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