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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    異世界は異世界で物騒な植物が多いという話

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(32)「それではエクレール草の採取依頼、受注を確認致しました。
    期限は本日中となっております、幸運のほどお祈り致します。」

    ギルドの受付嬢から冒険者カードを受け取ると、オレは祖父が待つテーブルまで戻った。

    「樹ちゃん、いよいよじゃな!」
    「しんどくなったらいつでもお爺ちゃんに言うんじゃぞ!」
    「ありがとう…まあ、それは今回は最終手段ということで。」

    今回ばかりは祖父二人も町で待機している…なんてことはなく、
    心配過ぎて落ち着かないということで結局同行することになった。
    ただし、危険な時を除き基本的には干渉しないように努めてくれるそうだ。
    "干渉しない"ではなく"干渉しないように努める"というのがまた不確実な感じで
    怪しいところだが、孫が一番の"祖父"にとって甘やかすのを我慢するのは苦痛なことらしい。
    祖父には祖父なりの事情があるんだな…などと考えながらオレ達は町郊外の林へ足を運んだ。

    マリアンから譲り受けた辞典にはエクレール草を含め複数の植物について解説が載っていた。
    それによると、エクレール草はうかつに引っこ抜くと雷流を放って反撃してくるのだという。
    シビレエイの植物版といったところだろうか、実にファンタジーらしいが実際に採取する身
    としては戦々恐々である。
    雑草ではあるが、その危険な性質から子供などが触らないよう定期的に駆除しているそうだ。
    今回の依頼もその一環で、採取依頼を受けた際に群生している場所を受付嬢が教えてくれた。
    薬の材料にもなるため、伐採したものの一部を持ち帰って欲しいとのことだった。

    町からしばらく歩くと目的地である林が見えてきた。
    少しペースを上げながら林の入り口まで歩いていく。

    「うわっ…もしかしてコレ、全部エクレール草?」
    「む…こりゃまた随分たくさん生えておるではないか。」
    「うーうー、なんだか絶妙に不格好な見た目の雑草じゃな。」

    遠目では分からなかったが、近づいてみると林の中には大量のエクレール草が自生していた。
    花自体はユリの様な可愛らしい感じだが、茎には不格好でごつごつとしたコブが生えていた。
    恐らくこのコブが件の発電装置なのだろう。

    「えっと…このコブみたいなのが発電器官でいいのかな?」
    「うむ、引っこ抜くのはコイツを切り落としてからじゃ。」

    オレはカバンから短刀を取り出すと、発電器と茎の間に刃を近付けた。
    刺激を与えなければ放電されることはないと聞いてはいるが、やはり緊張する。

    「樹ちゃん、一太刀でサッと切り落としてしまうんじゃ。
    斬り損ねると、やはり電撃を浴びせられてしまうからな。」
    「…分かった、やってみる。」

    エクレール草の茎はやや弾力があり、発電器官に繋がる枝は
    太いため浅い角度で刃を入れると切り落とし損ねるかもしれない。
    刃先を少しだけ上に向けると、手首のスナップを効かせてナイフを振り下ろす。
    次の瞬間大きなコブは本体から切り離され、僅かに音を立てて地面に落下した。

    「やっ……た……!?」
    「タッくん、お爺ちゃんの後ろに来るんじゃ!!」

    喜んだのもつかの間、落下したコブは青みを帯びて地面の上でじたばたと跳ね始めた。
    瞬間、驚くオレをモンストロが素早く抱き寄せた。

    「えっ、何これ…怖ッ!?」
    「切り落とされた発電器官が反撃のために電気を放出しているのじゃ。
    しばらくしたら大人しくなると思うが、それまでは触れてはいかんぞ。」
    「なるほど…」

    植物なりの最後の抵抗ということだろうか、
    辞典には説明がなかったので、祖父が居てくれて助かった。

    「…なんか、凄いことになってるんだけど…?」
    「落ちたコブが放つ電撃が他のエクレール草に当たって連鎖的に放電しておるんじゃよ。
    通常であればそこまで密集して生えてないからこのようなことはないのじゃが…今回は中々壮観じゃな。」

    地面から数十センチの間を青白い稲妻が飛び交う様は幻想的だったが、
    一方でエクレール草が駆除対象に指定されているのも納得の光景だった。

    「放電は強力じゃが、どうやらかなり体力を使うらしい。
    放電直後は発電出来ない故、刈るなら今が狙い目じゃぞ!」
    「よし、サクッと刈っちゃおう!」

    おっかなびっくりで他のエクレール草に近づくと、先ほどと同じ要領でコブを落としてみる。
    グラムの言った通り、草は体力を使い果たしたのかコブは地面に落ちても暴れることはなかった。
    安心したオレは手あたり次第発電器官を落として回り、群生地帯のエクレール草を粗方回収した。
    途中、まだ元気な花がいて何度か後ろに飛び退くことになったが比較的効率よく伐採出来た筈だ。
    コブの落ちたエクレール草は引っこ抜いても反撃してこないので、あとは草むしりと同じだった。
    数が多いため袋に入りきらない分はスキルで格納してみたところ、分類別格納にエクレール草と
    いう項目が単独で出現した。
    "植物"とか"魚"とかざっくりとした分類以外にこういう細かい格納も出来るようになるのか。
    RPGのアイテム欄みたいで分かりやすいから数が集まりそうなものはまとめて格納してみよう。

    「樹ちゃん、よく頑張ったのう…偉いぞ!」
    「全部一人で…は、さすがに無理だったけどお陰で助かったよ、ありがとう。」

    座学と実践は違う。
    昨晩の内に様々な情報を聞いていたが実際に花を刈るのは想像以上に大変だった。
    絶妙なタイミングで祖父二人がアドバイスをくれたり、後ろの方でオレの取りこぼしを
    刈り落としてくれたりと結局手伝って貰ってしまったが、素人の初仕事としては十分だろう。
    放電祭りには驚いたが、結果的にエクレール草が弱って刈りやすくなったのも幸いだった。

    「そうこうしているうちに、いい時間になった…そろそろお弁当を食べてはどうかの? の?」

    ひとしきり伐採し終えたところで、モンストロが実に良い笑顔で提案してきた。
    集中していて気付いていなかったが、確かにもう日が真上に移動していた。

    「そうだね…体も動かしたことだし、お昼にしよっか。」
    「やったーい! みんなでお昼ご飯じゃー!」
    「というか、モンストロ爺ちゃんは食べたいだけじゃない?」
    「ワホッ!? …そ、そんなことはないぞい!」
    「そんなベタな反応する!?」
    「いやいや、時間的にも仕事的にも食事時なのは確かじゃろう。
    ほれほれ、今日はコケリコの肉と卵を使ったサンドイッチじゃぞ!」

    グラムはカバンから昼食の入ったカゴを取り出し地面に置いた。
    オレ達は、エクレール草の放電で少し焦げた草木を眺めながらサンドイッチを頬張るのだった。



    「…それでは、納品頂いたエクレール草の品質確認を行って参りますので少々お待ちください。」

    町に戻ったオレは、麻袋に移し替えたエクレール草を提出するために冒険者ギルドへと向かった。
    なるべく傷が少ないものを選んだつもりだが、どうだろうか…。
    ほどなくして受付嬢はカウンターまで戻ってきた。

    「お待たせいたしました、依頼の品の品質が十分なものであると確認されましたので依頼達成となります。
    こちらが報酬となります、どうぞお受け取りください。」
    「はい、ありがとうございます。」

    オレは心の中でガッツポーズをしながら報酬金を受け取った。

    「また、期間内に依頼を五つ達成されましたので冒険者ランクを上げることが出来るようになります。
    いかがなさいますか?」

    冒険者ランクの上昇、今日のもう一つの目標だ。
    パーティを組んでいる場合、依頼を達成すると全員がその恩恵を受けられる。
    オレが依頼を達成したことで三人全員の冒険者ランクを上げる条件を満たしたようだ。
    勿論ランクアップ自体は任意だが、星一つや星二つ辺りの依頼は報酬的にも美味しくない上に
    ダンジョンへの入場制限も考慮すると低ランク帯でランクアップを保留にする利点はないそうだ。
    オレが後ろに視線をやると、祖父二人は微笑みながら小さくうなずいた。

    「ええと…それじゃあ、三人分のランクアップをお願いします。」
    「畏まりました、それではこちらに冒険者証の提出をお願い致します。」

    そう促され、オレ達は自身の冒険者証を各々提出した。
    受付嬢は再びギルドの奥へと引っ込み、ランクアップした証書を持って戻ってきた。

    「あー、ここの部分に星が増えるのか。」
    「うむ、微妙な変化ではある…が、偽造防止のため高度な魔法で刻印してあるんじゃぞ。」
    「へー、そうなんだ! ぱっと見では分からないけど、色んな工夫がしてあるんだなあ…」

    受け取った冒険者証を確認しながら、オレ達は冒険者ギルドを後にした。
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