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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    アラタルより王都に向けて

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(36)「長期に渡って泊めて頂きありがとうございました!」
    「またのお越し、お待ちしてます!」
    「おう、また来いよー!」
    「お父さん!見送りの時くらいちゃんとして!」
    「ははは…」

    出発の日の朝、わざわざ町の出口まで見送りに来てくれた
    ゼブラ親子のやりとりに苦笑しつつオレ達はアラタルを後にした。
    今後またこの町を訪れることがあれば虎風庵に泊まりたいところだが
    閑古鳥具合を見るに潰れたりしないだろうか、という点だけは心配だ。

    町からしばらく歩いた辺りで、グラムは『精霊馬』を発動させた。
    一寸の間に馬が二匹現れ、片方にグラムとオレ、もう一方にモンストロが騎乗した。
    短時間の訓練ではさすがにグラムと同等の乗馬能力を獲得するに至らなかったため
    結局無理をしないペースで王都を目指すことになった。

    「では…本日はツグリムまで向かい、そこで一泊する。」
    「孫と一緒にお出かけじゃ~! 楽しみじゃの~!」
    「浮かれるのも結構じゃが、祖父としての本分を忘れぬようにな!」
    「ワフッ!? も、勿論分かっておるぞい!」

    ハイレム王国とローレム王国、山を挟んで並ぶこの二国は共に縦に長い形をしている。
    ハイレム王都を逃れてローレムへ向かった際は横方向への移動だったこともあり
    脱出自体は比較的短期間で行えたが、ローレムの王都へ向かう今回は縦方向の移動である。
    夜通し走れば移動時間の短縮は可能だが…出来るだけ早く、遠くまで進む必要があった
    これまでとは異なり、今は時間的な余裕が多少なり出来たものと思って良いだろう。
    であれば、無理を押してまで急ぐ必要はない。
    モンストロの馬術も急ごしらえという状況のため、王都にはのんびりペースで向かうことにした。

    「ハイヨー、出発じゃー!」
    「うおー!」

    グラムの掛け声とともに馬が走り出した。
    こうして馬で移動するのも久しぶりのことになる。
    この世界に来て最初に経験した地獄のロデオほどではないが
    スピードを出せば揺れが強くなるため相変わらず風景を楽しむ余裕はない。
    休憩地点に到着するまでの間、オレはグラムの体にしがみつくことになった。

    「樹ちゃん、疲れてはおらんかの? お爺ちゃんがおぶってやろう!」
    「いや、お主は二人乗りを終えたばかり…ワシがタッくんをおんぶするぞい!!」
    「いや、大丈夫! 大丈夫だから! 二人とも!」

    予定していた道程を行き終え馬から降りた矢先、二人の祖父は代わる代わる度の過ぎた過保護ぶりを発揮した。
    まあ、一日かけて馬で移動してきたので疲れてはいる…いるが、歩けないレベルの疲労感ではない。
    というか一足飛びにおんぶ前提で話を進めるのは止めて欲しい、オッサンがおんぶされてる絵面がまずキツい。
    そういうのが許されるのは魔王との激闘を終えた勇者が仲間に背負われて皆の元に戻って来るシーンぐらいだ。

    …おかしい、一応主と従の関係なハズなのに、祖父にずっと振り回されてるのは何故なのだろう。

    ヒートアップする二人をなんとかなだめると、オレはミタビリムの村の入口まで歩いて行った。

    役人に金を支払って入村すると、オレは深く息を吸い込んだあと両腕を組んで上方へと伸ばした。

    「…んーっ、のんびり移動できるって最高…っ!」
    「中々落ち着く余裕がなかったからのう…じゃが、これからは遂にスローライフが始まるんじゃ!」
    「はは…無事に始まればいいけど…ハイレム王国とは関係ない事案で既に何度か死にかけてるし…」
    「大丈夫じゃ樹ちゃん、いざとなれば違う大陸へと向かうという手もある。」
    「違う大陸ね…とにかく離れた場所に行くって方針には変わりなしだもんね。」
    「とりあえず相手を煙に巻いたというだけで、根本的な原因は残ったままじゃからな。」
    「タッくんがお爺ちゃんを百人くらい増やせば王都程度なら滅ぼせるかもしれんぞい!」
    「いやそれ、世界中から危険人物認定されてオレが滅ぼされるやつ。
    というか、下手に実現出来る分リアルだからそういうのは止めて…。」
    「ふおお~! ツッコミを入れる孫もカワイイのう…!」
    「今日のベストオブカワイイじゃのう!」
    「とりあえず、宿を探すか…」

    どこまでもマイペースな祖父二人を尻目に、オレは足早に村の中を探索し始めた。
    ミタビリムはあまり大きな村ではなかったため、その日の宿場はすぐに見つかった。

    備え付けの食堂で簡単に食事を済ませると、足早に部屋へと向かう。
    この村唯一の宿屋には個室がなく、数人の旅人と同じ部屋で休むことになった。
    一応衝立は用意されていたが、まあ、プライベートはあってないようなものだろう。

    「おねんね~、おねんね~、孫とおねんね~」
    「モンストロ爺ちゃん、恥ずかしいから…っと、そうだグラム爺ちゃん、明日以降の予定の確認をしておいていい?」

    変な鼻歌を歌う祖父をたしなめつつ、付き合いの長い方の祖父に声を掛ける。
    グラムは「勿論」と言いながら、バッグの中からローレム王国の地図を取り出した。

    「今いるのがここ…ツグリムの村じゃ。王都までは村や町が点在しているから基本的にはこれらを線つなぎの様に渡っていく。」
    「えーっと、アラタルはこっちか…距離的に、次は ?」
    「うむ、道が整備されていない地域であればちと厳しいが、幸いにもローレム王国はその辺がしっかりしている。」
    「そうはいってもグラムよ、ここの間は距離が空き過ぎてはおらぬか? 早馬でも次の町にたどり着けなさそうじゃが…」

    モンストロが指さした地点を見ると、確かに町と町の間隔がかなり空いている区間があった。

    「遺憾ながら、そこは野宿するほかない。」
    「まあ、そうなるよね。」
    「野宿!? 孫を、野性味あふれる草野原で…!?」
    「野性味あふれるて…一晩明かすくらいなら、なんとかなるんじゃない?」
    「勿論、孫を冷たい地べたに寝かせるつもりはない…そこはワシの新しいスキルの出番というワケじゃ。」

    グラムが言っているのは恐らく精霊馬車のことだ。
    確かに、荷台であれば地面より寝心地は良いだろう。

    「でもアレ、燃費悪そうだけど…体力とか大丈夫?」
    「なあに、出しておくだけなら問題ない…ああ、樹ちゃんがちょっとでも応援してくれたら、更に盤石じゃ。」

    『孫の声援』か…よく考えたら、アレも発動条件に対する効果量が凄まじい。
    とはいえ、異世界にいきなり放り込まれて一人で生き延びろとか言われても
    普通は無理ゲーなので、強力な能力くらいは許してもらいたいところだ。
    実際随分助けられてるし。

    「それにしても、こうして見ると王都とアラタルってかなり距離があるんだなあ。」
    「国境沿いのゴカド程ではないが、アラタルも国境寄りの街じゃからな。」
    「となると…クラリスさん達って、かなり急いで聞き取りに来たんだね。」
    「ああ、それは恐らく普通に転移魔法を使ったんじゃろう。」
    「あ、そっか…国直属の騎士ならその辺の魔法も使えちゃうんだ?」
    「むしろ、スキル保有者でもなければ転移魔法なぞこうした有事の際にしか使うことは出来んがな。」
    「ああ、うん…転移魔法なんて想像を絶するくらい文様が複雑そうだもんね。魔石も貴重だろうし。」
    「タッくん、ワシも使えるぞ!」
    「そういえば、そうだった。」

    モンストロがスキルを披露してくれた際、引っ掻きワープなるスキルがあったことを思い出した。
    壁などを引っ掻いて、複数箇所マーキングした場所の間を転移する結構クセの強そうな能力だ。
    そういえばあの時、アラタルの外壁に印をつけてもらったんだった。

    「樹ちゃん、気になるのであればここで試してみても構わんぞ!」
    「あ、いや…それはまだ大丈夫、もうちょっと後でお願いするよ。」

    虎風庵は居心地が良い宿屋だったので、いつでも戻れるようになるのであれば実に嬉しいことだ。
    しかし、初の遠距離移動は王都から試したかったのでここは好奇心を抑えて我慢することにした。
    何故王都からかと問われると、単純にワープ機能といえば大きな街同士を繋いでいるイメージが
    あったからというだけで特別何か理由があるわけでもないのだが。
    他愛のない会話を少し続けた後、オレ達は明日に備えて早めに就寝することにした。
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