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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    走る祖父、見守る孫。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(35)「うおーっ! すごいぞ、すごいぞ!」

    モンストロの声が聞こえ、オレは顔を上げた。

    「…ん、何だあれ?」

    二人の祖父の姿が遠方に見えた。
    先ほどまでグラムがニ頭出現させた『精霊馬』に各々跨っていたはずだが
    今は二人共馬に乗っておらす、何か荷車の様なものをしきりに眺めていた。

    「何かあった? …って、どうしたのコレ、本当に。」

    気になって駆け寄ってみると、グラムたちの側には
    二頭立ての馬車…いわゆる"荷馬車"らしきものが停められていた。
    荷車の先に馬が二頭繋がれた、非常に簡素な作りのものだ。

    「おお、樹ちゃん…二頭同時に馬を出して指導に勤しんでいたところ、新しくスキルを得たようでな。」

    荷馬車をしげしげと眺めながら、グラムは簡潔に状況を話してくれた。

    「『精霊馬車』とは捻りがないが、恐らくは『精霊馬』の発展形じゃろう。」
    「のうのう、これなら乗馬の訓練をせずとも王都に向かえるのではないか?」

    確かに、このスキルがあればモンストロは荷台に乗っていれば済む。
    街の中で見かけた小綺麗な馬車と比較するのは憚られるレベルだが
    これなら荷物を背負わず、体力の消費も抑えながら移動出来そうだ。
    良いタイミングで良いスキルが手に入ったな…と考えていたところ

    「いや…王都へ向かうのに、このスキルは使わぬ。」
    「え、そうなの?」

    当のグラムからは予想外の反応が返ってきた。

    「何故じゃ? わざわざ馬を二頭出して維持するよりも負担は少なかろうに。」
    「なに、単純な話コレは目立ち過ぎるし、使い込んでない分移動距離が落ちる。
    追手を退けたとはいえ、あのボンクラはまだ健在…出来るだけ目だたぬように
    行動しておいた方が良いことには変わりあるまいよ。」

    確かに、(恐らく)死んだふりに成功したからと下手に目立てば
    ハイレム王の耳になにがしかの噂が届く可能性は十二分にある。
    となると、移動はこれまで通りのやり方で通すのが無難だろう。

    「せっかく新しいスキルを覚えたのに、残念だね。」
    「ハイレム王も自分の領地以外で派手な動きは出来ない、
    とはいえローレムが領土を接する隣国であることに変わりはない。
    追手の件で理解したじゃろうが残念ながら安全であるとは言えぬ。
    『精霊馬車』を使うのであれば、更に遠方の国…アマルニーズや
    ベイアシーア辺りであれば人の目を気にせずに使えるじゃろうて。」

    地図で名前だけ見たような国の名前が出てきたが、目下の目標は
    ローレム王都なので、その辺を訪ねるかどうかは現状分からない。
    ハイレムから離れる程様々なリスクが下がるのは当たり前の話なので
    いずれそうした遠い国へと向かうことになる可能性も勿論あるだろう。
    …が、今は将来の展望よりもモンストロの移動手段の方が重要である。

    「思い出したんだけど、確かクマって走ると結構な速度が出せたと思う。」
    「…ふむ?」
    「そうなのか!? タッくんはものしりさんじゃのう!」

    昔クイズ番組か何かで、動物の走る速さを題材にした問題を見た気がする。

    「時速50kmくらいだったかな…? もしかして、自分で走った方が早いとか。」
    「うーむ、ワシも全力で走ったことがないから、その辺はよく分からんぞい…」
    「試してみるか? モンストロよ。」

    オレがそんな無駄知識を披露した結果、急遽短距離走を行うことになった。
    そよ風が吹く草原で、クマの祖父はクラウチングスタートの姿勢をとった。

    「…では、はじめ!」

    グラムの掛け声とともに、モンストロは勢いよく駆けだした。
    …結果、モンストロは確かに速かった。
    日頃のんびりのそのそとしている姿からは想像も出来ない速度の走り。
    祖父とはいえ元は熊の魔物、普通の人間よりもパワーがあるのかもしれない。
    スタンピードの時、猛烈な勢いで殺しにかかって来たベアドルイドの顔をふと思い出した。

    モンストロは暫くその辺を駆け回っていたが、疲れたのかその速度は急速に落ちていった。

    「はひゅっ…はひゅん…はひーっ! タッくーん! お爺ちゃんはもう走れんぞい!」

    モンストロは思い切り汗をかきながら、肩で息をしつつスタート地点まで戻ってきた。

    「一瞬いけるか? とも思ったが…やはり、体力的に無理があるな。」
    「…無理言ってごめんね、お爺ちゃん。」
    「タッくんのお願いならばこの程度屁でもない! 大丈夫じゃぞ!」
    「いや、ハアハア言ってるから…ちょっと休憩しよう、ね?」
    「そもそも、モンストロが一人だけ猛ダッシュというのは荷馬車と
    同じくらい目立つ上に、確実に印象に残ってしまうじゃろうな…。」
    「それもそうだね…じゃあ、やっぱり馬に乗るしかないか。」
    「うむ、休憩を挟んでから特訓を再開するとしよう。」
    「望むところじゃ!」

    要らない口を挟んだせいで特訓が中断されてしまったが、結局元の方針に戻ることになった。
    オレは邪魔にならないよう先ほどの木陰まで戻ると祖父二人の様子のんびり眺めて過ごした。



    「…そうか、王都に向かうか。」

    宿に戻ると、行き先を決めた旨ゼブラ達に伝えた。

    「半月近くも泊って下さった方は初めてなので、正直に言えば少し寂しいです。」
    「安定収入が途切れるな…」
    「お父さん!」

    最早見慣れた親子漫才はともかく、オレとしてもこの世界に来てから
    初めて腰を落ち着けることになった宿屋なので少なからず名残惜しさはあった。

    「うし、そんじゃあ今日の晩飯は気合を入れてヌピャルタフルコースにしてやるよ!」
    「ええ!? いえ、そんな、明日出発するというワケでもありませんし!」
    「遠慮すんなって、アンタ達のお陰でウチも少しは余裕が出来たからな。」
    「お魚かの!? 楽しみじゃの~!!」

    遠慮するオレに構わずゼブラはヤル気満々だし、モンストロはもう食べる気になっている。

    「樹ちゃん、好き嫌いはしてはならんぞ。」
    「…はい。」

    グラムはヌピャルタと聞いて若干顔を引きつらせているオレにそう耳打ちした。
    いや、味が良いのは分かっている…分かってるけれど、やっぱりビジュアルが、なあ。
    そうこうしている間にゼブラが意気揚々と厨房へ向かったので、オレは覚悟を決めることにした。
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