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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    クマクマな祖父はへんてこスキルの夢を見るか

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(31)スイーツ巡りが午前中で終了したため、午後からは
    モンストロに"祖父(熊)"のスキルを見せてもらうことにした。
    ぬいぐるみダンジョンがグラムの予想通り封鎖されてしまったため、
    今回はアラタル滞在2日目に訪れた森を使わせてもらうことになった。
    キラメキドロンの使役が出来るか確認した森と同じ場所である。

    「タッくーん、お爺ちゃんがどこにいるか分かるかの~?」
    「うわ、凄い…これ、場所の移動とかしてないんだよね?」
    「しーてなーいぞ~い!」

    『黒い森の賢者』を発動したモンストロは認識されにくくなっているようだった。
    透明人間になったわけでもなく、目の前にいるはずなのにしっかり意識しないと
    自然とその巨体を無視してしまう…なんとも不思議な状態になっていた。
    森の中限定とはいえ、これはかなり強力なスキルなのではないだろうか。
    なお、『孫と一緒』で効果を共有すると、オレの姿も見えにくくなった。
    応用が効きそうなので、色々と試してみたいところだ。

    「今のところ、気配までは消せないようじゃな。
    殺気を放つときは気を付けた方が良いじゃろう。」
    「分かった、殺気を放つ時は気を付けるぞい!」

    スキルを共有しているオレ達の様子を観察したグラムが所見を述べた。
    殺気を放つ機会があるかは甚だ疑問だが、三人組だと客観的な観察や色んな気付きが
    得られるので旅のパーティとしては安定感が上がっていい具合なのではないかと思う。

    「この『ひっかきワープ』っていうのは?」
    「転移魔法の一種じゃな、印を二つ以上つけておけば印の間を行き来することが出来るようじゃ。」

    モンストロはそういうと、自身の爪で近くの樹の幹を軽く引っ掻いた。
    引っ掛かれた部分には薄水色の、漢字の三のような模様が出現した。
    次いでモンストロは少し離れた位置の樹まで走って行き、再び爪で幹を掻いて模様をもう一個出現させた。

    「では行くぞ…とぇいっ!」

    モンストロがそう声を上げると、次の瞬間には最初に印を付けた樹の下に立っていた。

    「うへえ、これも凄い…」
    「印を付けるために一度訪問しておかねばならんのが玉に瑕じゃが、
    これは移動が楽になりそうじゃ…無論、緊急避難にも使えるじゃろう。」
    「印を付けた場所は、ステータスから確認出来るようじゃぞ!」
    「至れり尽くせりだなあ…」
    「ドルイドベアも転移魔法を使っていたが、祖父になった際に
    その辺のスキルも"祖父(熊)"仕様に変質したのかもしれんな。」
    「とりあえず、アラタルの町の外壁に印をつけてみない?
    一瞬で移動出来るならものすっごく便利そうだよ、これ。」
    「うむうむ、ならばそうしておこう。」

    ベアドルイドの『ベアマジック』にどの程度のスキルが含まれていたのかは不明だが、
    元々レベルの高い魔物が"祖父"に変質したことで強いスキルが一層強くなった可能性はある。
    というか、元々手練れの騎士から祖父に変質したグラムもよく考えればそのパターンである。
    今のところ"祖父(騎士)"のスキルに変な内容のものはないが、今後よく分からないスキルを
    習得する可能性は大いにあるだろう。

    「次は…ええと、モンストロ爺ちゃん…この『ふわふわベア』って…何?」
    「よく分からんが、"まいなすいおん"的な感じで皆が癒されるらしいぞ!」
    「うーん…"祖父"特有のよく分からない枠か。」

    さすがにテディベアには見えないが、モンストロは一応
    ぬいぐるみダンジョン産まれ(?)なのでこういうスキルを保有しているのかもしれない。
    スキルの効果は『リボンやスカーフを装備している場合、周囲に対して癒しの効果を発揮する。』というもの。
    寝る前にスカーフなんかを着けてもらえば、もしかしたらぐっすり眠れるのかもしれない。知らんけど。

    『ほっこり冬眠』『月輪の呪い』も気になったのだが、前者はスキルの説明文的に動けなくなりそうであり
    後者は説明の物騒な雰囲気からオレ達を実験台にするのは止めて、簡単な説明だけを聞いておくことにした。
    そうこうしている間に日も傾いてきたため、オレ達はのんびり歩きながら町へと戻ることにした。

    「そういえばランクアップの件はどうする? 樹ちゃん。」
    「ああ、冒険者ランク…クラリスさんが言ってたやつね。それなんだけど…」

    聞き取りの際に冒険者ランクの話が出たため、その後グラムに尋ねたところ
    星一つから星二つへの昇格は二週間以内に依頼を五つ達成すれば良いらしい。
    パーティを組んでいる場合、依頼の達成はパーティ全体の功績になるらしく
    オレ達の場合は既にグラムが四つ依頼をこなしていたので追加で依頼を一つ
    済ませれば冒険者ランクが上がるという話だった。
    なお、星三つへの昇格は簡単な試験がありアラタルの町では受験出来ないらしい。
    アラタル周辺は、ぬいぐるみダンジョン以外の迷宮は軒並み星四つランクらしく
    星三つを目指すのであれば王都を目指すのが王道となるそうだ。

    「一個くらいは自力で依頼をこなしておきたいし、次はオレがやってみても良い?」
    「た、樹ちゃん…! さすがワシの孫、なんて真面目で勇気があって良い子なんじゃ!」

    討伐は厳しいだろうが、採取なら時間を掛ければなんとかなるのではなかろうか。
    薬草類はマリアンから貰った辞典に記載されていたので、確認しながら探すとしよう。

    「タッくん、なんて偉い子じゃ…」
    「うむ…将来が楽しみじゃ!」

    何も凄いことはしていないのだが、祖父二人は
    自力で依頼を受けると伝えただけで感動のあまり目を潤ませている。
    あまりにオーバーリアクション過ぎて普通に恥ずかしかったのだが、一方で
    社会に出てからは褒められる機会自体が殆どなかったため悪い気はしなかった。

    虎風庵へ戻るついでにギルドに立ち寄ると、オレはクエストの下見を行った。
    初心者向けのクエストボードには討伐、狩猟、雑務などの依頼の他に採取も掲載されていた。

    "依頼主:冒険者ギルド 内容:エクレール草(10本)の採取 期限:受注から一日"

    読むと、グラムが最初に依頼を受注した時とは異なる採取対象だった。
    エクレール草は辞典で名前を見た気もするが…まあ、初心者向けの依頼なので危険な植物ではないだろう。
    残念ながら他に採取依頼はなかったため、エクレール草の名前を忘れないようにしつつ宿に戻ることにした。

    「…おう、戻ったか! スイーツ巡りはどうだった?」

    オレ達が戻ってくると、ゼブラがニヤリと笑いながら声を掛けてきた。

    「ゼブラさん…天空タルトはアレ、どんなお菓子か知ってましたよね?」
    「胃が丈夫だっつったのはアンタらだぜ? 今日は晩飯抜きにするか?」
    「いえ…祖父が九割方食べてしまったので、普段通りでお願いします。」

    スイーツ巡りの感想を聞くと、ゼブラはグラムたちの方を二度、三度見た。

    「ワシは問題無く。」
    「ワシも!どうぞどうぞ、お願い致しますです!」
    「うっへえ、マジかよ! ガチで鋼の胃袋たあ驚きだぜ!」

    オレとしても正直想定外な食いっぷりだったので、そのリアクションもさもありなんといったところだろう。
    目を見開いたままのゼブラを尻目に、オレ達はいつも通り二階の自室へと戻っていった。
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