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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    アラタルぶらぶら節…そして、王都より調査員来る。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(28)「それじゃ確かに三日分、まいどありい!」

    会計用の皿に乗せられたコインを手早く数えるとゼブラは
    いつも通り宿泊代を持ってカウンターの奥に消えていった。

    「すごい、十日連続のお客様なんて初めて…タツルさん、虎風庵の連泊記録をどんどん更新していきますね!」
    「お世話になります…では、少し出かけてくるので。」
    「あっ、はい! いってらっしゃいませ!」

    宿泊を延長し、三人分の代金を支払うとオレ達は町へ繰り出した。
    朝食は虎風庵で済ませておいたので、のんびり散策したり
    噴水の縁に座って休憩がてら町の景色を眺めたりした。

    「まったく落ち着かなかったから、この町をじっくり見て回ったの…地味に初めてかも。」
    「ワシもアラタルに滞在するのは久方ぶりじゃったから、店や造りの変化に驚いたわい。」
    「お爺ちゃんは町に来ること自体初めてじゃから、さっきからずっと楽しいぞ!」
    「魔物のまま町に来てたら今頃大ごとになってたと思うよ…」

    噴水から漂う冷気を肌で感じながら、散策の感想を話し合った。
    オレが話の途中、なんとなしに後ろを振り向いてみると…噴水の中央、
    水が湧き出る場所に青く透きとおった結晶が設置されているのが見えた。
    そういえば召喚された際、ハイレム国の王都でも似た様なものを見た気がする。

    「ねえ、あの水晶みたいなヤツって…」
    「ああ、アレは魔石じゃよ…中に魔法が封じてあるんじゃ。」

    出た、魔石。
    創作だと召喚の触媒になったり、装備の素材として取引されたりするアレだ。
    こういうファンタジーな物を見ると、改めてここは異世界なんだと実感する。

    「魔石か…勝手なイメージだけど、やっぱりモンスターが落とすの?」
    「それが一般的な入手方法じゃな。
    鉱物の内側にスキルなどで文様を刻み込むことでも生産は可能じゃが
    樹ちゃんも知っての通り、魔法の文様は非常に複雑で繊細…そうした
    方法はあまり現実的ではないのう。」

    元の世界で言うところの、レーザーで水晶の内部に彫刻を施した置物みたいな感じだろうか。
    しかし、モンスターのドロップ待ちとなると結構貴重なアイテムなのでは…?
    そんな貴重そうなものを噴水の装飾にしても大丈夫なのだろうか。

    「魔法を習得する難しさを考えると、魔石って貴重な気がするんだけど。」
    「貴重ではあるが、使わないのも宝の持ち腐れじゃからな。
    それに、この魔石は水を噴出させる魔法が刻み込まれている…水は貴重じゃ、
    この噴水も、ただの憩いの場ではなく生活用水として住民に提供されているようじゃぞ。」

    グラムが指さした方を見ると、水の利用に関する注意書きが看板に貼られていた。
    よく見ると、オレ達の座っていた反対側では親子がバケツで水を汲み上げている。

    「強力な魔石を独占しロクでもない使い方をする輩も多いが、
    アラタルの町の君主はどうやら立派な心根の人格者のようじゃ。」
    「魔石もしっかりと固定されていて、振動で文様が崩れるのを防いであるな。
    雑に扱っていると効果が無くなるのも早いらしいぞい…まあ、ワシは魔石を
    そもそも使ったことがないから本当かどうかは知らんのじゃがな、ガホホ!」

    魔石は案の定高値で取引されており気軽に使い捨てられるような物ではないらしい。
    モンスターが魔石を残す確率も低く、それも値段の高騰に拍車をかけているそうだ。
    というか、モンストロ…『高齢者講習』の効果なんだろうけど、
    生後一日で既にオレよりもこの世界に詳しいのはズルくないか?

    「さて、そろそろベッドメイクも済んだのではなかろうか。」
    「もうそんな時間?のんびりしてるとあっという間だなあ…」
    「わあい、今日もタッくんとお昼寝タイムじゃ~!」
    「モンストロ…お主は、今日は一日町の外をぶらついておきなさい。」

    はしゃぐモンストロに向き直ると、グラムは笑顔でそう伝えた。

    「…ホワッ!?な、何故じゃ!?」

    突然そう告げられたモンストロは愕然とした表情でグラムを見返した。

    「スタンピードの調査をしに王都から人が来ると言ったじゃろう。
    お主に関しては秘匿するが、ベアレンジャイについてウソは吐けぬ。
    震源地に熊、突然現れたお主も熊、ダンジョンの外で合流した体とはいえ
    万が一にも怪しまれれば…樹ちゃんとのスローライフは露と消えるじゃろう。
    それにお主、スキルの効果でヒトとしての体裁は整えられてはいるが調査で
    ボロを出さずにやり過ごせるほど口達者でもなかろう。」
    「ぬう…それは、困る…困るのう…うう、分かったぞい…」
    「絶対に見つかってはならんぞ、孫の未来が掛かっておる。」

    祖父(熊)はしょんぼりと肩を落とすと、町の外へと向かって歩き出した。
    モンストロとは一日過ごしただけではあるが、確かに会話の中でトンチンカンな答えを
    返してくることも多かったため、今回はグラムの言う通りどこかに隠れていた方が良さそうだ。
    …というか、それを言うならオレも口は上手くないんだけど…職業柄、対高齢者向けの話術は
    習得出来てるハズだけど舌戦が上手いかどうかはまた別だろうし…なんか、不安になってきた。

    「モンストロ爺ちゃん、早めに終わったら一緒にオヤツ食べよっか。」
    「タッくん…お爺ちゃんは、タッくんのために頑張るからの!」

    オレが励ますと、モンストロは気合を入れなおしたのか背筋を伸ばして去っていった。



    。。。。。




    アラタルの冒険者ギルドはいつになく緊張した空気に包まれていた。
    常連の冒険者も、職員も皆、室内の一点にチラチラと視線を送っていた。
    数人の兵士に周囲を囲まれた状態で、パラパラと本をめくる女性が一人
    ギルドの簡素な椅子に腰掛けて周辺には目もくれず読書に集中していた。

    「お待たせ致しました、クラリスさん。」

    自身の名が呼ばれたため、彼女は顔を上げて本を閉じた。

    「いや、こちらも突然の訪問を申し訳なく思うよ…ベリル。
    仕事の邪魔をするつもりはないから、手短かに済ませてしまおう。」

    スタンピードの調査に来た騎士は、ベリルの顔を見て表情を崩した。

    「そうしたいのは山々ですが、後々何かあっても困ります。
    一応昨日送った報告書は読んでおられるでしょうが、その内容に
    加えて書ききれなかった細かな詳細も合わせて報告させて頂きます。」
    「…君は相変わらず真面目だ、もう少し緩く生きてもいいんじゃないか?」
    「業務外では緩ーく生きてますから、どうぞご安心を。
    今だって、アナタの仏頂面を拝めて安心しているところですよ。」
    「…それは、褒められてるのかな?」
    「褒めてますよ?」

    眉間にシワを寄せる女騎士を見て
    ベリルは少しだけ微笑んだが、椅子に掛けるとすぐに真面目な表情に戻った。

    「それでは、アラタル第三ダンジョンで発生したスタンピードについて改めて報告致します。」

    ベリルはあらかじめ用意しておいた資料を机の上に広げると、周囲を見回した。
    クラリスが後ろに視線をやると、側で控えていた彼女の部下達もテーブルに着いた。



    。。。。。




    「ーはあああッ?!スタンピードッ!?」
    「もう沈静化してるので大丈夫ですよ。」

    調査員が来ることを伝えるべく昨日の諸々について話すと
    ゼブラが大声を上げたのでオレは慌ててフォローを入れることになった。

    「昨日は熊の爺さんとダラダラ遊んでただけかと思いきや、とんでもねえことに
    巻込まれてんじゃねえか…ぬいぐるみダンジョンとはいえ無事で良かったな、マジで!」
    「孫を遺して死ぬわけにはいきませんからなあ…とはいえ、大魔性を倒せたのは幸運な事でした。」

    グラムはオレの方を見ながら服の袖をまくり上げて力こぶを作ってみせた。
    熊三匹と戦っている時のグラムは動きが明らかに人間離れしてたからな…
    そんな状態でも苦戦したベアレンジャイもヤバいモンスターだった訳だが。

    「しかし、スタンピードとなるとあそこも当面は封鎖か。
    冒険者の出入りが多い方のダンジョンじゃなくて良かったぜ。
    アイツらが引き上げちまったら、商売もあがったりだからな。」
    「あの…ということなので、ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いします。」
    「あー、迷惑ってほどのことじゃねえから気にすんな。」
    「ありがとうございます。」

    店主への説明も終わったため、オレ達は部屋に戻りしばしの間待機していた。
    ギシ、ギシ…と、床の軋む音が近づいてきたのはそれから程なくしてのことだった。

    「おーい、聞き取りだとよ…ドア開けっぞ。」
    「はい、大丈夫です!」

    ゼブラは気を効かせて調査員を部屋まで案内してくれたらしい。
    ドアが開くと、簡素な鎧に身を包んだ綺麗な女性が姿を見せた。

    「すまないな、案内感謝する。」
    「あいよ、どうぞごゆっくり~。」

    宿の主人を見送ると、騎士はオレ達の方に向き直った。

    「ローレム王国騎士団、第五小隊隊長のクラリスという。
    店主に話が通してあったということは、用件については
    説明を省いても構わないだろうか?」

    「構わんよ、話が早い方がお互い楽でしょうからな
    …ああ、立ち話もナンですのでどうぞお掛け下され。」
    「…では、失礼して。」

    グラムが促すと、クラリスはモンストロのベッドに腰をかけた。

    「ところで、モンストロ殿がおられないようですが…」
    「外でブラブラしてくると言っておりましたな…ああ、アレと合流したのは
    スタンピードが終了した後なので、この場におらずとも問題はないでしょう。」
    「…そういえばギルドからの報告にもそうありましたね、確かに問題はありません。」

    クラリスの声には謎の迫力があった。
    自然と、ピリッとした空気が漂い始める。
    直感的に、油断の出来ないヒトだと感じた。

    「では、スタンピードに遭遇した際の状況についてお願いします。」
    「分かりました。」



    …こうして、聞き取り調査が始まった。



    「昨日は孫と二人で件のダンジョンに挑んでいたのですが…」
    「第二階層で迷宮の主を倒したと同時に、地面が揺れ始めました。」
    「ワシらは崩落などに備えて地面に伏せ…揺れの後に顔を上げると、
    階層間を繋ぐ横道を塞ぐように三体の魔物が出現しておったのです。」
    「地震とスタンピードはセットで発生する場合がほとんど…
    最下層にいたせいで大魔性と出くわしたのも、不運でしたね。」

    スタンピードの際はダンジョンの難易度に対して数ランク上の強さの魔物が出現することがある。
    そうした、通常より凶暴なモンスターをこの世界では"大魔性"と呼んでいるらしい。

    「自力で討伐したとのことですが、出現したのはどんな魔物でしたか?」
    「"かみつき戦隊☆ベアレンジャイ!!"という魔物のグループでした。」
    「…"かみつき戦隊☆ベアレンジャイ!!"ですか?」

    名前を聞いたクラリスは大いに困惑していた。
    最初にステータスを鑑定した時、オレも自分の目を疑ったので安心してください。

    「ベアシールダー、ベアファイター、ベアドルイドから成る魔物の集団で…
    珍妙な名前とは裏腹に、個々の能力が高い非常に厄介なモンスターでしたな。」
    「中でもベアシールダーは、物理攻撃を無効化する特性を持ってました。」
    「物理攻撃の無効化…?」
    「数回斬り掛かりましたが、剣が彼奴の毛に触れた途端勢いが失せましてな。
    『ベアシールド』なるスキルがあったので、その効果だったのやもしれませぬ。」

    困惑したのもつかの間、クラリスは目を見開き驚愕していた。
    まあ、普通にとんでもない能力だろう…ゲームなら終盤辺りに出てきそうだ。
    グラムは各魔物の容貌、特徴などを伝えた後、交戦時の状況も説明を行った。

    「ベアレンジャイは連携をとってくるタイプのモンスターでした。
    シールダーが他二匹を守っている間にドルイドが強化魔法で味方の能力を強化する…
    幸いにも、連携を途中で潰す形で撃破に成功したのでなんとか事なきを得たのですがな。」
    「魔法で攻撃してもファイターに掻き消されて焦ったよね。」
    「…どうやって、そんな連中を撃破したのですか?」
    「本当に偶然なんですが、フラムシードを持っていたのでソレを利用しました。
    爺ちゃんがベアレンジャイは一芸特化タイプの魔物の集まりじゃないかって推測したので…」
    「なるほど、シールダーが強いのは物理攻撃に対してのみではないか…ということですか?」
    「そういうことです、魔法を掻き消すのにわざわざ
    ベアファイターが出張って来たことが気になりましてな。」
    「結果的に、推測通りベアシールダーは物理以外に対する耐性がなかったみたいです。
    フラムシードをぶつけて燃え上がらせると、驚くほどあっさり倒すことが出来ました。」
    「守備の要が消えると、次はファイターが襲い掛かってきたので切り伏せてやりました。
    強化されてなくとも攻撃担当…打撃をまともに喰らえば死んでいたかもしれませんなあ。」
    「ベアドルイドは能力強化だけでなく、転移魔法まで使ってきました。
    スキル自体は『ベアマジック』としか表示されてなかったので実際は
    何種類魔法が使えたのか分からなかったのですが…グラム爺ちゃんが
    出現地点に魔法で水の壁を張って溺れさせ、なんとか撃破出来ました。」
    「その後は外でダンジョン番に報告した通り、ワシらからは以上ですじゃ。」
    「…分かりました。かさねがさね、あなた方が無事に帰還出来て良かった。」

    恐らくそれほど深刻な状況だったとは思っていなかったのだろう。
    話を聞き終えたクラリスは髪をかきあげた後、ゆっくり溜息をついた。

    「ベア系の魔物自体の発生例は多々ありますが、徒党を組んで
    襲い掛かって来た…というのは、初めてのことかもしれません。
    『ベアシールド』というスキルも私は聞き覚えがありませんね。」
    「モンスターは通常連携を取らないですからな、その辺を含めて
    ワシらはハズレのスタンピードを引いたのかもしれませんなあ…。」

    実際はベアドルイドを殺してないし、そのベアドルイドが
    オレの"祖父"になったのだが…そんなこと言えるはずもなく。
    事前の打ち合わせ通り、内容を誤魔化しつつ何とか説明し終えることが出来た。

    「…聞き取りに関してはコレで終わりたいと思います。
    しかし、あなた方に関しては別の話をしておかないといけません。」
    「えっと…何でしょうか。」

    もしや、話の内容に不備があったのだろうか。
    正直、あまり突っ込んで聞かれるとマズいのだが。

    「冒険者ギルドによるとランクがまだ星一つということですが…
    スタンピードを乗り切る力があるのなら最低でも星三つが妥当でしょう。
    優秀な冒険者が分不相応なランクに留まっているのは見過せませんので
    …正直、報告の内容を加味すると、もっと上でも良いくらいなのですが。」
    「ふむ…ランクアップのテストを受けろ、ということですかな?」
    「正直、試験無しで飛び級させても問題ないレベルなのですが
    正攻法が御希望であれば、そうして頂いてもらっても構いません。」

    冒険者ランクか…高ランク帯はデメリットの方が大きそうなので
    そこまで上げるつもりはない(上がれる実力もない)が☆三つランクは
    当初の目標でもあるのでランクアップに専念してもいいかもしれない。

    「検討しておきましょう…お話は、以上ですかな?」
    「はい…あ、いえ…最後に一つだけ。」
    「何ですか?」
    「タツルさんのお爺様は、もしやハイレム王国騎士団のグラム殿ではありませんか?」


    …頭の中が真っ白になった。

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