赤い薔薇の花言葉は知っていますか?「どうぞ。三輪先輩」
そう言われた三輪に差し出されたのは瑞々しい赤い薔薇だ。
「……なんだこれは」
「薔薇です」
「見ればわかる!なんでこれを俺に渡すんだと聞いてる」
当然のように答える烏丸に思わず声を荒らげてしまう。烏丸はそんな様子を気にしていないようで、あっさりと答えた。
「三輪先輩に渡したくて」
それにどう返せばいいのかわからず、三輪は何も言えなかった。なぜ薔薇の花なのか。どうしてそれを俺に渡そうと思ったのか。一体何を考えているのか。
「……何を企んでいる。迅が噛んでいるのか」
「人を悪者みたいに言わないでください。それから迅さんは関係ありません」
そう言うと烏丸は一歩距離を詰める。何か気迫のようなものが感じられて、三輪は一瞬戸惑ってしまう。整った顔を寄せて、彼は言う。
「俺が三輪先輩に渡したくて自分で買いました。受け取ってくれますか?」
「……なんで」
三輪はそれしか言うことができなかった。烏丸の瞳に映る自分が随分弱々しく見えて、三輪は視線を外した。しかし烏丸はそれを許してはくれない。
「見て。三輪先輩」
無視してしまえばいいのに、それをさせない強さを感じさせる言葉に、彼はゆっくりと顔を上げる。
─嗚呼。やっぱり。
見詰める赤い瞳に、烏丸はうっそりと笑う。好きだと思った。三輪の赤い眼に、烏丸はどうしようもなく惹かれていた。いつもは厳しささえ感じる瞳が、恥ずかしいためか戸惑っているためか潤んでいるのが堪らない。
「やっぱり同じですね」
何を言われているのかわからなかったようで、三輪はぱちくりと瞬かせる。A級で隊長を務めている一つ年上の彼が幼く見えて、烏丸は微笑んだ。
「この薔薇、見た時に三輪先輩が浮かんだんです。ほら、三輪先輩の瞳と同じ」
それでも三輪は戸惑ったままだ。それもそうだろう。同性で年下で、しかも同じボーダーに属しているといっても所属が違うためほとんど接点はない。それなら三輪隊の隊員である米屋や同じA級隊員である出水のほう接点があるくらいだ。
「だからなんだ」とでも言いたげな三輪の手を取る。しかしびくりと震えたそれを振り払われることはなかった。
そういうところだと思う。最初は珍しいくらい真っ赤な瞳に見惚れていただけだったのに。
「好きですよ。三輪先輩」
そう言えば、三輪の顔が真っ赤に染まるから思わず笑ってしまった。