名前のない日「ああ駄目だ駄目だ。俺には向いてない」
オスカーは半ばやけになって紙の上へ放る様に鉛筆を置いた。
よく晴れた穏やかな休日の昼下がり、丘の上に並んで腰掛けのんびりとくつろぐのは、ふたりにとって特別な事ではない。
この日のオスカーは、何となく気まぐれを興して風景画でも描こうかとリュミエールからスケッチブックと鉛筆を借り受けていたのだった。
常日頃、目の前の景色を苦もなく紙の中に収めていく恋人の姿を見ていると、自分にも容易く出来そうに思われたのだったが。
「どうなさったのですか?」
同じ湖の風景に向かい隣でスケッチをしていたリュミエールは、体を傾けオスカーの手許を覗き込んだ。
彼の手元のスケッチブックには当然のごとく精密で完璧なモノクロの風景が完成されつつあった。
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