☆☆☆☆(語り手・ゼンダ)
「メジロ…と、いうのか…」
「はい、どうぞよろしくお願いします。ああでも、こちらには以前、メジロという名の方がいらっしゃったと伺いました。ややこしいでしょうから、本名の『浩』でお呼び下さい」
鉱石魔術師箱果支部。海猫先生の呟きに、メジロさんはマジメな声と顔で返事をした。姿勢までピンとしている。
さっきまで、領事館でお茶したいだのロープウェイ乗りたいだのやっぱり五稜郭行きたいだの、散々駄々をこねてた奴とは別人のようだ。
「そうか…ありがとう。では浩さん、用件というのは」
「はい、お宅の石目は違法行為をしているのではないか、という告発がありまして。明確な根拠もないので普通なら放っておくんですが、先日、うちの同僚からも『鏑矢を調べてほしい』とありましてですね…」
ハタさんか。やはりあの時、何かを発見したのか。
「残念ながら、同僚は錯乱していたこともあり、はっきりしたことも言えないらしくて…こちらもフワーっとした話です。けど2件あったとなれば一応調べますか、ってことで」
「ほお」
海猫先生は、なぜか左手を見てから、メジロさんへ目を移した。
「俺は重婚も不法所持もしてねぇぞ。部屋でも何でも調べてくれや」
「それはもうやってます」
「え?」
姿勢を崩した瞬間、目と指輪がカアっと熱くなり、思わずのけぞった。
「ああ急に動かないで」
部屋中に電気が走り、家の中のものが浮き上がった。
魔法だと? しかもこんな広範囲に、とても薄く。とんでもないコントロール力だ。
「先程から、魔法幕を張ってサーチさせて頂いてます。石を探せるギリギリの強さですが…石目君、目は無事ですか」
「熱ぃ…けどまぁなんとか」
目よりもサングラスが熱を帯びてきた。仕方なく外したが、魔法幕がウザったくて、いつもよりピントが合わせにくい。
「石目君、予備のアイマスクはいくつ持ってますか」
「サングラスのことか? 2つ。届けも出してあるぞ。部屋にあるけど持ってこようか」
「持ってこなくていいですよ。一階真ん中の部屋ですね、確認しました。それ以外は?」
「いま使ってる、これだけだ」
「……と、なると」
メジロさんは急に立ち上がって階段へ駆け出し、その動いた衝撃で、浮いてた家具やモノが好き放題に散らばった。
俺より海猫先生の方が速く、かりんとくつくつの周りに結界をかけた。
幕の中を、周りを刺激しないように2階に上がると、メジロさんはヒメジさんの部屋の鍵を開けようとしていた。
「おい、勝手に入んなよ」
「仕事ですから」
魔法幕を維持したまま、ドアにかかってた術も解いて、部屋に入っていく。空中に浮いた引き出しの、一番下にかかった術も解いた。やってることはどうかと思うが、大したスキルではある。
「石目君、ここに何が入っているか、知ってますか」
「人の部屋を覗き見する趣味はねぇよ」
とは言ったが、実は知っている。たまたま目に入ったが黙ってた。そこにある理由の察しがついたからだ。
古ぼけた石耳用のヘッドホン。
「メジロ…雅之の、イヤーマフだ」
海猫先生が2階に上がってきていた。
「モザイクの補助具は、結晶と共に回収されるはずですが?」
「わしもそんなものが残ってたとは聞いてない。おそらく、事件の混乱に紛れてヒメジがこっそり持ってたんだろう」
「…そうですか」
イヤーマフが、空中でバラバラに分解されて、また組み立てられた。石が含まれてる部分だけ、メジロさんの右手に残ってはいたが。
「石が使われてる部品は回収させていただきます。残りは好きにして構いません。面倒だから、残ってたことに気がつかなかった、ってことにしておきますんで、後で罰金払ってください」
水脈がそんなんでいいのかよ。
イヤーマフを引き出しにしまい、元通りに術をかけ、ゆっくりと魔法幕を解いていく。空中をフラフラしていた家具も、ゆっくりと地に足をつけ始めた。
さすがに疲れてきたのだろう。顔は真っ青だった。魔法を全て解いてから、肩で息をしている。
丸ごと没収してしまえば楽だったろうに。
『ふざけてんのはポーズで、その実マジメなタイプだ、あれは』
こいつマジメか不真面目かわかんねぇよ、先輩。