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    #モザイクの魔術師 5中編5
    語り手・ゼンダ
    中編はここで一区切りなんですが、なにぶん予定してた導入が使えなくなったもんだから_(:3」z)_チマチマ書き足していきます…
    3/6追記)反応いただいてて申し訳ないです、展開変えました…

    モザイクの魔術師5中編5☆☆☆☆☆

    「…上手だな」
    「ありがとうございます」
    メジロさんは海猫先生にうやうやしく頭を下げた。

    消防署の魔術師用の部屋。
    メジロさんが働けるかを帰り際の海猫先生にもみてもらったが、実技研修だけでなく署への職員登録、顔見せ、諸々の申請などもしてくれて、先生は帰りがすっかり遅くなってしまっていた。
    メジロさんも、多少方向音痴があることはあるが、ナビで上手いこと乗り切っていた。しかも、魔法が上手い。ものすごく上手い。ちくしょう。
    「僕は全然働けますので、なんでしたら次のヒメジさんと交代してもいいですよ」
    「…ヒメジがああでなければ、もう少しの間は組んで仕事してほしいが…まぁ…今日はまだいい。次はわしの当番の時についてくれ。
    ゼンダは時間までいれそうか?」
    「大丈夫です」
    「じゃあ、頼んだぞ。お疲れ」
    「お疲れさまです」
    と言っても、俺は勤務時間が短い。残り時間はそんなにない。
    「あの」
    メジロさんが先生を呼び止めた。
    「徹夜と残業なところ申し訳ないのですがもう一つ、お話したいことが…かりんさんのことで」
    昨晩、俺にした話をする気なのか。
    先生は何も言わずに戻ってきた。
    もう少しだけ、詰所を使わせてもらうことになった。

    「石目君には昨晩伝えました。」
    メジロさんは、甲高い声をうっすら地声に寄せて、音量を調整した。
    「一晩おいて、少しは落ち着きました?」
    正直、全く落ち着いてないので質問は無視した。
    メジロさんは、昨日と同じく事務的に言った。

    「かりんさんの身体には、ソーサライトが溶けています。
    コレは、僕の半端なリュウグウノツカイの血による個人的判定なので、不正確なのは認めます。
    ですが、隣にいる時の飢餓衝動具合からして、おそらく通常の鉱石魔術師の4〜5倍くらいあるかと」


    「そんなわけねぇだろ」
    俺は昨晩、メジロさんの爆弾発言を一笑にふした。最初は。
    「そりゃ、たまにいるよ。元から石が溶けてる人間は。けど、そういうやつは大抵モザイクだし、元からある程度何かやらかしてるだろ」
    メジロさんの大きな赤い瞳は揺らがなかった。
    「何か。例えば?」
    「例えば机飛ばしたとか、ガラス割れたとか、いきなり火つけた、とか。俺も聞いたことあるよ、でもかりんはモザイクでもなきゃそんな事件おこしたことな……」
    笑ってられたのは、そこまでだった。
    突然。
    夏の最中に、冷水を浴びたかのように。
    あの日の雨のように。

    メジロさんは揺らがないまま、言った。
    「お嬢さんが生き埋めになった崖崩れ、原因がわかってないそうですね?」


    驚いたことに、海猫支部長は笑いもしなければ驚きもしなかった。腕を組んでただ「そうか」とだけ言った。
    盛大に混乱してる俺を置いてけぼりにして、二人は淡々と会話を続けている。
    「保護した時、石の検査はされましたか?」
    「した。だが数字が出なかった」
    「子供の小さな身体では機械がバグりやすいそうで、出ないことはよくありますね。
    …出なかったけど、何かが疑わしかった。
    だから鏑矢で引き取った。
    そんなところですか、海猫支部長殿」
    「そうだ。はっきりとした証拠はなかった。だが…同じ頃、水脈がウチにも来た」
    「そのようで。密造石組織のアジトらしき建物が見つかったと、箱果市警から連絡があったとかで。当時の担当者はもうリアル地獄にお引越ししましたので、僕は報告書を読んだだけですが」
    海猫先生は何か呟いた。お悔やみの言葉かもしれない。
    水脈は話を続けた。
    「隣町の山中で、ボヤの通報があって見つかったそうですね。崖崩れと同じ日付でした」
    日にちは初耳だった。
    「現場に石こそなかったものの、実験道具と動物の骨が山ほど出てきたそうですよ。複数の人間が住んでいた跡も。ただ人はいない。争った跡はあり、建物は強い魔法により焼けた…」
    たまらず口を挟んだ。
    「それがなんだってんだよ」
    答えてくれたのは海猫先生だった。
    「絵本があった、と」
    「絵本?」
    「偶然、一部が焼け残っていたらしい。それで犯人グループの中に子供がいたのではないかと水脈はみていた。
    …時を同じくして、身元のわからない子供が隣町で生き埋めになっていた」
    先生と何度か、施設に足を運んだことを思い出す。
    あれは、ただのアフターケアじゃなかったのか。
    「当時の水脈も、おそらく石が溶けてるとは言っていた。しかしモザイクでもない。検査もうまくいかない。本人がなにも思い出せない以上、確証がない。水脈に連れて行くわけにもいかない。
    …それで」
    「鏑矢で引き取ることにした、と」
    「そうだ」

    「水脈としても、そういう子がいる支部で、重婚が疑われてる人が出たら、まぁ調べるしかないですよね。最初はこっそり調べるつもりでしたが」
    「…おい、まさか」
    「あ、そうです、ハタさんそちらの仕事も兼任で」
    …マジか。
    「あの人は…こう言うのもなんですが…純度の高いリュウグウノツカイなので、お嬢さんが石持ちなのはすぐわかったようです。
    けど……あの人は色々わかりすぎました。すぐ離れればよかったでしょうに、長居して飢餓感に呑まれてしまった」
    かりんが、リュウグウノツカイになるなんて言い出したから。
    俺が、教えることから、直視することから、逃げていたから。
    それが、どういう結末をもたらすのかを、よく知っていたから。
    「あなた方のせいではありません。こちらの作戦が悪すぎるんです。」
    メジロさんはフォローを入れてくれたが、それで心を軽くする気にはなれなかった。
    「僕が派遣されたのも、性格悪い水脈に振り回されることでお嬢さんにの心身に負担をかけて、チカラを暴発させるか記憶を取り戻すかにワンチャンかけたためです。何としてでも客観的な証拠を出す必要がありますから。
    ひどい作戦です。振り回さずともお嬢さんは、充分つらい思いに耐えている」
    口調こそ他人事だったが、昨日かりんの様子がおかしくなった時、変身が解けかけるほどの様子で駆け寄った人間だ。いうほど性格悪かないのかもな。
    メジロさんの口元が一瞬、皮肉げに上がった。聞こえたらしい。

    水脈は引き続き、無味乾燥口調でしゃべった。
    「中学生になった今なら、もしかしたら数値が出るかもしれませんので、なんか理由つけて検査できればいいんですが。支部長、なにかいい方法ありませんか?」
    「…できれば、ほおっておいてやってほしいがね」
    海猫先生が鏑矢の総意を伝えてくれたので、俺も懸念を伝えた。
    「それにかりんは生き埋めになったトラウマで、暗いところが大の苦手だ。鉱石測定器なんて入るの無理だぜ」
    「むしろそれで暴発してくれたら万々歳じゃないですか」
    鬼かてめぇ、と怒鳴りそうになったその時、ヒメジさんが部屋に入ってきたので、俺は余計なことを言わずに済んだ。

    「このクソ水脈! パパ…支部長を引き留めてんじゃないわよ! アンタのせいで昨日からどんだけ働いてると思ってんのさ!」
    昨日から働き通しの上ヒメジさんにボコボコに殴られた水脈は殊勝に「申し訳ありません」と謝った。
    「それと、かりんが買い出しに行ってるから、敬介さっさと支度して荷物持ちしな」
    「ん、オーケー」
    サングラスを外してスーパーを見た。かりんはゆっくり見て回るから大丈夫とは思うが、もう会計してたら急がないと。
    「……ん?」
    レジ。
    店内。
    別の店。
    コンビニ。
    「…ヒメジさん、かりん、どこ行くって言ってた?」
    「え? …いや、どこ行くかまで聞いた覚えないけど、ハッピークラウンもとまちで食べたあと別れたから、タケストとかでしょ」
    「いないぞ」
    「え?」
    ハッピのそば。
    ハッピ店内。
    一応、支部も見た。いない。
    待て。落ち着け俺。
    目で街中を、道中を探す。
    「電話してみてください」
    メジロさんだ。海猫先生が応えた。
    「私……車に気をつけてって、それしか……」
    「あなたのせいじゃない。落ち着いて。カタがついたら好きなだけ僕を殴っていいですから、今は気を確かに持って」
    背後のヒメジさんの様子は見えないが、にっくき水脈の言葉に素直に「うん」と返事をしていた。

    署を出て、空の上から街を見た。
    何かが目の端に映った。
    反射的に瞬間移動した。


    ハッピークラウンもとまちのそば。
    ゴミステーションのアミの中。

    かりんの携帯電話が鳴って光っていた。
    うそだろ。そんなバカな。
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