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    sanga2paper

    少ないスキルとスタミナで創作に勤しむアカウント

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    ルーズリーフの草稿を取り急ぎ打ち込み。あと5を今までここでアップしてたので、5くらいは最後まで打たんとまずいよなと
    #モザイクの魔術師
    よし打ち込み終わったぞー! 推敲だー!
    (※推敲中なので、内容が変更することがよくあります)

    モザイクの魔術師5後編
    (語りて・かりん)

    体が動かない。
    何が起きたんだろう。

    大きな車に乗っていた女の人は、青森から来たと言っていた。
    「鏑矢のおうちに、土砂崩れに巻き込まれた子が引き取られたって聞いて」
    「え」
    「もしかしたら親戚の子かもしれなくて」
    「えっ」
    「鏑矢に行こうとしたんだけど、道に迷ってしまって」
    「あ、あの、じゃ、案内します…えっと…わた、私、鏑矢なので」
    「あら、本当?! じゃあアナタがその時の? よかったわ会えて」
    私の本当がわかる……? どうしよう。
    師匠……は仕事中だった。海猫父さん、もう帰ってきてるかな。
    携帯で連絡しようとしたら、首のところで何かがバチンてした。

    なんだか、とても揺れている。
    体が動かない。
    人の声が聞こえるけど、何を言っているかわからない。
    声を出そうとしたけど、出ない。体も動かない。
    目を開けてみた。
    まっくらだった。何も見えない。
    ライト。ポケットのライト、つけなきゃ。
    くらいのは、いや
    いきがくるしい。
    くらいのは、いや。
    こわい。
    たすけて。
    たすけて……!

    からだが、かあ、となった。
    まえにも、こんなことがあった。


    ☆☆
    (語りて・ゼンダ)

    かりんの携帯がずっと鳴っている。出た。
    『かりんか?』
    「……ゼンダです、先生。ハッピ近くのゴミステーションに携帯だけ落ちてました」
    話す間も町中見渡していたが、姿が目に入らない。バカな。そんなバカな。

    頭の上の空間が軋んだ。
    『浩さんがそっちへ行った』
    「勝手に突っ走んないでくださいよー!」
    海猫先生の解説から一拍あって、本人が降りてきた。
    「おい! 警察に連絡」
    「ヒメジさんに頼みました。それより石目君」
    水脈は、自分の頭の上を指した。
    「いま僕が瞬間移動してきた魔法の痕跡を見てください」
    「ああ? 今そんなこと」
    「いいから早く!」
    気圧された。適当言って電話を切り、空を見る。
    魔法を使うと空間がゆがむ。その痕跡も石目で見えなくもないが、普段はいちいち見ない。
    「見えましたね。そのまま周りを探してください。あなたの目なら、1時間くらい前でも痕跡が見えるでしょ」
    「……あ」
    ゴミステーション横の道路から、魔法がはじけた痕がある。
    「どこかに瞬間移動した痕はありますか」
    「それもある…なんか太い痕だな。このくらい…」
    「車ですね。どっち行ってます?」
    メジロさんは、俺をひっつかんで飛んだ。

    瞬間移動は、箱果の外まで出て終わっている。
    そのかわり、なにか細い魔法の痕跡がずっと続いていた。これは……?
    「方向を教えてください。おそらくその先です」
    メジロさんが俺を抱えて飛びながら話した。
    「あなたの目が捉えられない、ということは、瞬時にあなたの視界の外に出られる人たちだということ。つまり、魔法使いです」
    「なんで魔法使いがかりんを攫う? それにこの痕跡は?」
    「いるでしょ、お嬢ちゃんの価値を知ってる魔法使い…その昔、アジトに一緒にいた人たちです」
    「⁈」
    「にしても……内地に渡っちゃえば石目君もすぐには探せないのに、わざわざ内陸側を目指してるのは…助かりますけど、なんか嫌ですね。失礼」
    人目がなくなったからか、メジロさんは変身を解いた。飛ぶスピードが上がった。
    「痕跡はどうなってます?」
    それも妙だった。
    「だんだん痕が濃くなってきてるぞ」
    「わざわざ車を使ってるような犯人が、魔法の痕跡を残しながら逃走するとは思えません。おそらくそれが、お嬢ちゃんの力です」
    「かりんの?」
    「身の危険に、魔法力が垂れ流しになってるんですよ。ピパさん言ってたんでしょ、由来のわからない音がするって。おそらく漏れ出る魔法力の音です」
    「な⁈ けどチカは変な音しないって……待て、高速にいた! 黒いワゴンだ」
    「何十km先ですかそれ」
    その瞬間、ワゴンの屋根が爆発した。

    ☆☆☆
    (語りて・かりん)

    ママは、やさしかった。
    私に「検査」という痛いことをする、男の人や女の人とは違った。
    おいしいご飯やお菓子を作ってくれた。
    私みたいな「検査」をされる動物たちも、ママが好きだった。
    私もママのお手伝いをした。ママも、私が焼いたホットケーキを「おいしい」と言ってくれた。
    うれしかった。

    でも、ほかの男の人や女の人は、ママにやさしくなかった。
    私が痛くて泣くと、ママが叩かれた。私が泣きやんでも叩かれ続けた。
    「おねがいします、もうなかないから、やめてください」
    私がお願いすると、男の人や女の人は笑った。笑って、叩いた。
    叩いて、食事を作れと命令した。
    ママは、叩いた人たちにもおいしい料理を作った。

    あの日。
    ママは私に「くつ」をはかせてくれた。足が痛かった。
    「がまんして。いっしょにおそとにいきましょう」
    「おそと!」
    はじめてだった。うれしかった。
    でも、見つかった。

    「逃げて!」

    からだが、かあっとなった。
    そうだ、わたし、にげなきゃ。でもどこへ?

    ……こういうときに、行ってもいい場所があったような気がする。
    どこだっけ?
    思い出せない。思い出したい。

    ☆☆☆☆
    (語りて・ゼンダ)

    場所がわかればこっちのもんだ。車まで瞬間移動した。
    ワゴン車の天井は吹き飛んでいたが、驚いたことに天井以外はほぼ無傷だった。
    エアバックから這い出た犯人たちは、メジロさんが瞬時に車に埋めて固め、何かを首筋に刺した(メジロさんの頭にも入ってる睡眠薬だと、後で教えてもらった)。
    「かりん⁈」
    車にはいない。結界機能のついたスーツケースが壊れて転がっている。
    そういえば、爆発と同時に飛び上がった光があった。上を見る。
    大きな魔法エネルギーの光の中央に、かりんがいた。

    デカい光の玉は、まごまごしながら落ちてくる。
    動きは遅いが、エネルギー量が半端じゃない。相殺するにも俺の魔法は非力すぎる。地面に落とせば、かりんもその周囲も、当然俺も、無事じゃすまない。
    「かりん‼︎」
    呼びかけても動かない。気を失っている。
    どうする⁈
    そうだ、相殺できないなら使っちまえばいい。
    光を左手の指輪に少し誘導して、その力で丸ごと瞬間移動する。

    昔、修行でアホほど行かされた、多通公園の上空に出た。
    咄嗟にとはいえ、より被害がデカくなるところに出てどうすんだ。慌てて戻る。

    瞬間移動を二度やって、かりんの魔法エネルギーは多少減ったものの、まだ本人を取り出せなかった。
    ええい、こうなりゃやってやる。
    冊幌に出る。
    高速。
    公園。
    高速。
    公園。
    高速。
    他に遠くて思い出せる場所が出てこない。到着地点の高度も上げようとしたが、高さのイメージがうまくできなかった。くそ。我ながら腹が立つが、落ち込んでる場合じゃない。
    瞬間移動の反復横跳びを繰り返し、かりんの魔法エネルギーが削れてきた。
    身に余るエネルギーで起こす連続瞬間移動の疲労で、治りかけの右手がきしむ。動かなくなるかもな、と少し思った。

    何度目かの高速に出て、ふと体が楽になった。
    「よくこんなこと思いつきますねえ」
    甲高い声がした。

    ☆☆☆☆☆
    (語りて・かりん)

    空だ。青空が見える。風が強い。
    それと赤い鉄柱。なんだろう。
    「お目覚めですか、お姫様」
    「ひゃ」
    起きたらメジロさんがいた。
    髪はぼさぼさ、服もボロボロで、でもケガはしてなかった。ケガしたけど治ったのかもしれない。
    鉄柱によっかかって座り、変な色のラムネを食べている。
    「もうすぐチカりんが迎えに来ますんで、それまでそっちの騎士に寄り添ってあげててください」
    反対側を見たら、師匠が倒れていた。師匠もボロボロだった。右手から血も出てる。
    「ししょう⁉ ししょ…ひゃあ‼」
    「ああ、落ちないでくださいよ。もう僕、助けに行く元気ないですから」
    多通公園が下に見える。
    テレビ塔の、展望台階の上にいた。

    「冊幌・箱果12往復⁈ バッカでー‼」
    「それは石目君に言ってください。大変だったんですよぉ」
    チカさんは笑った。
    冊幌の病院。
    師匠は連続瞬間移動で疲れたうえ、右手のケガが悪化したので、一晩入院することになった。
    メジロさんは私をチカさんに預けると、どこかに電話しながらどこかに行ってしまった。
    チカさんは、師匠が入院する準備をしてくれた。私に服も用意してくれた。
    「とりあえずのTシャツGパンでごめんねー。あ、あと今日泊まるのはココ」
    天雄…鉱石魔術師庁冊幌中央支部だった。
    「う……し、ししょうのところに、いれないの……?」
    「ん~あとで聞いてみるね。でも、ココでシャワーとお着換えはしよ? ゼンダさん起きた時に、カワイイかりんちゃん見せたいじゃない?」

    天雄のロビーにはカガシさんが待っていて、何も言わないで部屋に案内してくれた。石婚式のときと同じ部屋だった。
    ユニットバスにはお湯が入ってた。
    チカさんは、新聞を取り出して「待ってるね」と、窓際の椅子に座った。
    お風呂に入った。
    体が暖かくなってきたら、涙が出てきた。
    ちょっとだけ、思い出した。思い出してしまった。
    声が出そうになったけど、顔を洗ってガマンした。

    ママ。ママ。
    わたし、とてもこわかったよ。
    ししょう。ししょう。
    わたし、とてもこわいよ。

    ☆☆☆☆☆☆
    (語りて・ゼンダ)

    星が見えた。
    ピントがうまく合わない。無茶したせいだろうな。
    視力を下げていく。病室だ。冊幌だな。
    左腕が暖かい。
    「ししょう」
    「ん?」
    かりんだ。ゆるキャラのTシャツを着ているが、本人はガチガチにこわばった顔をしている。
    「……ケガ、ないみたいだな。よかった」
    「うん」
    「怖かったか」
    「うん」
    俺の左腕に載せてた手にグッと力が入り、パッと離れた。
    普段よくやるように、パタパタと腕を振り、かりんは聞いた。
    「し、ししょう……わたしのこと、こわくないの?」
    「なんで。お前が見つかんなかった時の方がはるかに怖かったぜ。見つかって、助かって、本当によかったよ」
    うまく動かないが、かりんの手に触れたら、弱弱しく泣き出した。
    涙を拭いてやることも、できなかった。

    かりんが泣きつかれて眠るのを見計らったように、控えめなノックがした。
    「こんばんはぁ」
    チカだった。いつもより声が小さい分、動きがうるさい。
    「かりんちゃん、落ち着いたみたいね。よかった」
    「なんだったんだ、あいつらは」
    「んーとね、昔かりんちゃん捕まえてた組織の残党? みたいな。結界かけたスーツケースに入れて逃亡するつもりだったみたいだねー」
    逆に言うと、結界にいれておいてもあのパワー、といいうことか。とんでもねぇな。
    どれだけ怖かったろう。今はガッチリ掴まれてる腕の暖かさがありがたい。どうにかなって、本当によかった。
    「にしても、面白いことしたよねー、水脈の中でも評判なったよ! ふつーにハワイあたりまで行っちゃった方がよかったんじゃない?」
    「俺、行ったことねえからイメージわかねえんだよ」
    「きゃはは! まーでも、本当にハワイまで行ってたら、めー君の首が物理的に飛んでたかもだから、きっとこれでよかったんだよ」
    忘れてた。今日やったのは、いわば越境違反×12だ。
    「メジロさんは……」
    「支庁間往来の事後手続きと、始末書と、お叱りのヘビロテ中〜」
    うわあ。
    「……すまん、と、伝えておいてくれ…」
    チカはまたキャハハと笑い、かりんを抱き上げた。
    「病室にお泊りできないから、今夜は天雄に泊まらせてもらうの。私がついてるから、安心してね~」
    「ああ、ありがとう。よろしく頼む」
    「おやすみ~」

    色々、考えなければいけないことがあった。
    かりんは、明日きっと大変だ。俺も、少しでも動けるようになっておかないとマズい。
    だが、ロクに頭が働かなかった。

    左手が冷えていくのを感じながら、いつの間にか眠りに落ちた。

    ☆☆☆☆☆☆☆
    (語りて・かりん)

    朝おきたら、天雄の部屋だった。チカさんが横で寝ていた。
    顔を洗って着替えて病院に行こうとしたら、チカさんに「面接時間はまだだから、先に朝ご飯食べてこ?」と止められた。
    食堂で、急いで朝ご飯を食べた。味がしなかった。
    カガシさんはいなかった。ゴウマワリさんは、仕事に向かう途中で「おはよ、元気か!」と声をかけてくれた。
    がんばって「はい」と答えた。

    チカさんと病院に行った。
    お医者さんから「検査」がしたい、と言われた。
    検査。
    あの時の「検査」のことを少し思い出してしまったら、怖い。
    「おはよ、かりん。早いな」
    声に、体が勝手に動いた。
    パジャマ姿の師匠に、思いきり抱きついた。

    「なあしたよ、なんかあったのか?」
    師匠が困ってるような気がしたけど、手を離せなかった。
    「けんさ、こわい……」
    「検査? ……ああ、なにやるんです?」
    お医者さんが言ったMRI、血液検査、鉱石体重比測定を、師匠が説明してくれた。
    「ぐるぐるする筒に入るのと、注射で血ちょっともらうのと、部屋の中の体重計にボッコ持って乗るやつだってよ。どれ怖い?」
    「け……けんさが、こわい……」
    「ん?」
    チカさんがお医者さんにお願いしてくれて、検査はちょっと待ってもらうことになった。


    師匠のいた病室で、思い出したことをがんばって話した。
    ママのこと、ママをいじめた人たちのこと、検査のこと。
    何度も泣きそうになったけど、がんばった。
    「ひどいことされたね、かりんちゃんも、お母さんも……そのいじめた人たちって、昨日かりんちゃんを攫った人たち?」
    チカさんが聞いた。
    「う、ううん……きのうのひとたちは、しらないひとだった」
    「そっかー、わかった。ありがと」
    「かりん」
    師匠が、頭をなでてくれた。
    「そんなつらかったこと、思い出して…よく話してくれたな。話すのも苦しかったろ。がんばってくれて、ありがとな」
    泣くのをガマンできなくなった。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆
    (語りて・ゼンダ)

    「検査」は、想像以上に大変だった。
    まずMRIに難航した。鉱石体重比測定も難航した。かりんが暗くて狭いところに入れないからだ。
    最終的に、チカと二人で検査の間中マイクに向かって、かりんの好きな歌を歌う、という恐ろしい手段で乗り切った。
    終わってから、チカに「お経の方がまだ歌だねー」と言われた。

    結果が出るまで、ずいぶん待たされた。
    俺の退院手続きが全部終わっても、まだ出なかった。
    非常に行きたくないが、天雄で待たせてもらおうか、と話してた時、黒子の頭巾にネクタイ締めたワイシャツ姿の人間が近づいてきた。
    サングラスをずらして見れば、メジロさんである。一昨日ボコボコにされた時のようなヒドイ顔をしている。黒子は「交代です」と、チカとハイタッチした。
    去りかけにチカは「かりんちゃんのこと、イジメないでよ!」と同僚に釘をさしていった。

    「検査はもう少しかかると思いますよ」
    俺が入院してた部屋に戻ることになった。俺とかりんはベッドに、メジロさんは少し離れたところに椅子を置いて、それぞれ座った。
    「そんな少なかったのか?」
    「逆です、多すぎるんですよ。通常の5倍はいってるらしいです。そのうえ、一般的な石婚のような偏りが全くないので、MRIが普通の画像になってるそうです」
    「……ネイティブ、ってことか?」
    「さあ。おかげで僕まで検査受けるハメになっちゃって」
    黒子がワイシャツの袖をまくると、ひじの裏に絆創膏がついていた。
    「なんであんたまで」
    「僕もイレギュラーな石婚者なんで。比較したいんですって。いくら不死身のリュウグウでも、こう日々血を流してちゃかなわない」
    今日のメジロさんは言葉にトゲがあった。顔は隠れててもイラついているのが分かる。
    だが、怒る気にはなれなかった。イラついている理由は、なんとなく察しがついていたからだ。
    「かりんに八つ当たりしないうちに、本題に入ってくれ」
    「え?」
    「かりんを水脈に連れてくってんだろ?」
    「え?」
    「そうですよ」

    かりんは真っ青になった。
    「え……車、壊したから…?」
    「そんなんで収容してたら水脈はパンクします」
    メジロさんはぶっきらぼうに返した。
    「あれだけのエネルギーが出せる、違法石婚の疑いがある、通常5倍の石持ち。魔法の使い方を教えるどころか、暴発を抑えることすら難しい。
    けど不死身の無法者の中であれば、出来なくもない。
     チカラは使い方を知ってこそ。あなたもよく知ってるじゃないですか」
    その通りだった。
    そのことを、俺も、おそらくはメジロさんも、とてもよく知っていた。
    だからこそ。

    けど反論した。
    「かりんは、自分の意志で石婚したわけじゃないだろ。犯罪者扱いかよ」
    「わかってます。先程暴発した時も、僕のような罪も犯してない。なのに並みいる無法者と同じところに入れられる。なんですかこれ、刑罰ですか。なんの?」
    メジロさんは立ち上がって、せかせかと部屋を歩き回った。
    「被り物の中身は、その主張の結果か」
    黒子は歩き回るのをやめて、こっちを向いた。
    「これだから石目は嫌いなんですよ」

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
    (語りて・かりん)

    わたしが、水脈に。
    そんなこと、考えてもなかった。
    けど師匠は予想してたみたいだった。

    「まだ確定事項ではありませんが、ほかにいい方法があるとも思えませんね。このまま決まりでしょう。……腹を立てるなら、今のうちですよ。それで何がどう変わるわけでもありませんが、胸がスカッとはします」
    メジロさん(なぜか黒子の被り物をしている)は言ったけど、怒る気にはならなかった。メジロさんがもうたくさん怒っていたからだ。

    メジロさんはスマートフォンが鳴ったので、部屋を出て行った。
    わたしが、水脈に。
    師匠を見た。すごくまじめな顔をしていた。
    「かりん、お前はどうしたい?」
    「え」
    「力の使い方を知るのは大事だ。俺の目だって、使い方がわからなきゃタダのめまい製造機だ。かりんも、こういう力があるってわかった以上、使い方を覚えなきゃいけねえ。規格外の石持ちが集まる水脈は、確かに使い方を覚えるには向いてるだろう。けど……」
    師匠は頭を振った。
    「悪い、回りくどいな」
    「う、ううん…」
    師匠は少し考えてから言った。
    「これは刑罰じゃねぇし、かりんだって思ったことを主張していい。お前はこういう時すぐガマンするだろ、俺は」
    師匠は途中で言葉を止めた。また少し考えて、言った。
    「正式なモンじゃなくても、俺はお前の師匠だ。俺の都合でこうなった師弟だ。
    ……出来ることは、したいからさ」
    「わたしは……」
    …言っても、いいんだろうか。
    「わたし、かぶらやに、いたい。けど……」
    師匠の右手を見た。
    車から逃げた時のこと、覚えてない。けど、師匠やメジロさんがボロボロになるくらいのチカラを、私は出したのだ。
    今回は車を壊した。もしまたチカラが出たら、どうなるんだろう。
    「そのせいで、ししょうや、ひめじねぇさんや、うみねことおさんが…みんなに…なにかあったら、いや」
    こわい。
    こわいよ。

    「それじゃあ困りますね」
    メジロさんが入ってきた。声が怖い。
    「たとえ望んで得たチカラじゃなくとも、それは貴女のチカラです。一度石婚してしまうと二度と離婚できない。今日明日くらいはコワイヨーイヤダヨーとメソメソしてても構いませんが、いつかは覚悟をして頂かないと」
    「かくご…?」
    「覚悟です。どれだけ苦しくても、誰かを傷つけても、捨ててしまいたくても……そのチカラとその影響を受けとめる覚悟です。貴女のお師匠さんがしているように」
    師匠を見た。
    「俺だって腹括ったのつい最近だし、言うほど出来ちゃいない。にしてもなしたよ、急にえらい厳しいこと言いだして」
    「あれだけのチカラですから」
    覚悟。
    師匠の手を見た。泣きそうになった。
    メジロさんが言った。
    「石目君が貴女と義兄妹になれないと言った時、貴女はどう考え、何をしましたか。あれと同じですよ。貴女は、あのチカラから大事な皆んなを守るために、何が出来ますか」

    鏑矢を離れるのは、いや。
    みんなに何かあるのは、いや。
    でも、そう思うだけじゃ何も変わらない。知ってる。施設で、あんなに願っても誰も迎えに来ないんだもの。
    そうだ。

    「私、必ず魔法使いになる!」
    メジロさんは動かなかったけど、師匠はビクッとした。
    「試験受けて、合格して、ちゃんと指輪もらう! いっぱい修行する! 指輪で、えっと、その」
    「コントロール?」
    「コントロール! 指輪があれば、できるようになるから! 危ないことしないように、できるから!」
    「貴女にできますか? つらいこと、きっと沢山ありますよ」
    「やる!」
    「よろしい」
    メジロさんは黒い被り物を取った。ケガはしてなかったし笑顔だった。
    そしてそのまましゃがんで、うつむいた。
    「先程、水脈冊幌支部から連絡が来ました。貴女を水脈に入れるのは辞めて、代わりに僕ら水脈を鏑矢に送り込むと。次に何か起きれば、僕らが命懸けで止めることになります」
    「えっ」
    「だから、本気でコントロールに励んでください。流石の僕も、甘ったれに命張るのはゴメンですからね」
    「え〜〜〜‼︎」
    色んなことにビックリしすきて、かぁっとなりかけたので、腕を振ったら、なんか落ち着いた。
    でももう一回「え〜〜〜‼︎」って言わさった。

    ☆10
    (語り手・ゼンダ)

    看護師が、かりんを迎えに来た。
    先程から腕をぶんぶん振って歩き回ってた当人は、呼ばれて急にシャキッとした。
    大したもんだ。

    やはり常人の5倍ほど石があるという。
    ただ、正常に石婚できても偏る石が、あまりにも満遍なく含まれていて「逆に普通の人間と同じ」という、非常に珍しい状態らしい。
    「なので、鉱石魔法が通常より出力が高くなるようです…ネイティブ制御用の石が必要かと思います」
    石具製作のために、色々寸法を計らなければいけない。かりんは別室に呼ばれた。

    待ち時間に、メジロさんに聞いた。
    「水脈にいれたくねぇってアンタの主張が通った…とも思えねぇが、実際どういう理由だ?」
    「もちろん、そんなおキレイな理由で水脈が動くワケがありません」
    メジロさんは皮肉げに笑った。
    「水脈は色んな意味でいっぱいいっぱいなんですよ。だから収容人数を減らしたい、収容にかかる経費も減らしたい、そして地方で何か起きた時に駆けつける時間差も減らしたい…今回はそのテストケースです」
    「ちょうどよく鏑矢が実験台に選ばれたわけか」
    「そんなとこです。でも出来れば」
    水脈は向こうを向いた。
    「他の支部でやってほしかったですね」

    かりんが戻ってきた。疲れた顔をしている。無理もない。
    「お疲れ、いろいろ測られて面倒だったろ。俺もグラサン作る時……」
    「ししょう」
    これはマジの声色だ。腹に力を入れる。
    「なした」
    「わたし…だったのかな」
    「あ?」
    「あの…どしゃくずれ、わたしがやったのかな」
    それは、せめて今だけでも気がつかないで欲しかった。

    「でしょうね」
    水脈の言葉に叩かれたように、かりんの体が震えた。
    「おい! こんな時にする話じゃねぇだろ!」
    「いま話さずにいつ話すんですか。お嬢ちゃん自分のチカラを自覚し始めて、何よりです」
    話しながら、メジロさんは俺をみて目元を指さした。サングラスを外すと、かりんの魔力が膨らんできているのが見えた。バレないように中和する。
    メジロさんは、かりんの方を向いた。
    「石目君に助けられる前の、最後の記憶は何ですか」
    かりんは腕をパタパタ振った。魔力がしぼんでいく。
    驚いた。今まで無意識にやっていたのか。
    「……ま、ママが……『逃げて』って……」
    「なるほど。で、言われた通りに逃げたんですね。
     ああ責めてるわけじゃないですよ、それなら色々と辻褄が合うってだけです」
    「え」
    「貴女を誘拐した人達のワゴン車は、天井こそ壊れてましたが、乗ってた犯人たちはピンピンしてました。ねぇ石目君」
    「ああ。でもそれがなんだ?」
    「例えリュウグウノツカイにならずとも、急に過剰なチカラを吐き出されたら、普通は周りの人間が無事で済むはずないのです。僕もリュウグウになって暴れました。
     でも貴女は、前の席の誘拐犯すら傷つけずに逃げた」
    ようやくこの話の意味がわかって、今度は俺が震えた。腐っても水脈。なんてトコに気がつくんだ。
    「チカりんの話ではお嬢ちゃん、逃げる前にママさんのことを思い出したんですよね。だから貴女は言われた通りに『逃げる』ことだけにチカラを使った、ということです。きっと、ママさんに言われた時と同じように」
    かりんの目が大きく開かれた。
    発見されたアジトは焼けていたが、無人だったという。少なくとも、トラブルで一目散に逃げるだけの元気はあったのだ。
    「でもそのあとがよくない。制御ができなくて、崖崩れを起こしてしまった。石目君がいて良かったですね、この人のおかげで、貴女は今まで誰も殺さずに済んでいる」
    メジロさんはぞんざいに言ったが、その言葉はズンと響いた。きっと、かりんにも。
    「貴女が鏑矢にいられる決定が出たのは、それも理由の一つです。ずっと鏑矢にいられるよう、しっかり鍛錬してください」
    「「はい!」」
    「なんで石目君まで返事するんですか」

    ☆11
    (語り手・かりん)

    「疲れたろ。箱果まで寝てていいぞ」
    師匠が言った。嬉しかったけど全然眠くない。

    私たちは、箱果行き振り子特急に乗った。メジロさんが指定席の切符をくれたので、ゆっくり乗ることができた。そのメジロさんは、私たちの前の席で寝ている。今日から私の護衛をするって言ってたけど、大丈夫なのかな…。

    チカさんも、あとで箱果に来ることになった。
    「私あともうちょっとで出所でーす! 秋になったら鏑矢に行くからね!」
    「あき…」
    「うん、だからそれまでメー君で我慢してねぇ」
    「う、ううん、大丈夫」
    ヒメジ姉さんのことを考えると全然大丈夫じゃないけど、もう困らせたくなくてそう答えた。
    さっき、チカさんにすごく謝られた。
    「かりんちゃん本当ゴメンね〜、謎の音のこと気が付けなくて本当ゴメン〜」
    「ううん…だって聞こえなかったなら……」
    「違うのぉ聞こえてはいたの〜! でも、私にとってはその音、普通のことだしぃ…何がおかしいかわかんなかったんだよぉ」
    「チカりんはネイティブですからね。身体から発せられる魔法の音は、生まれつき聞いてる音。仕方ないですね」
    メジロさんが慰めたけど、チカさんはもう一度謝った。
    「ごめ〜ん!」
    「だ、大丈夫!」

    師匠が下を向いた。サングラスでわかんないけど、師匠も寝ちゃったのかもしれない。
    この3日間、たくさんのことがあった。ものすごくたくさんあった。嫌なことも、悲しいことも、楽しいことも、困ったことも。
    いろんなことが変わった。
    私の昔がわかったし、私の身体のこともわかった。
    鏑矢に人も増えることになった。
    メジロさんが来たことで、ヒメジ姉さんも海猫父さんも変わった。
    …でも、師匠はずっと師匠だった。

    師匠がビクッとなった。
    「やっべ寝ちまった、悪い」
    「ししょう」
    「あ、なんかあったか?」
    「わたし、師匠がずっと師匠で、よかった」
    師匠は、ちょっと考えてから「そりゃどーも」と笑ってくれた。

    いろんなことが変わった。
    これからも、どうなるかわからない。
    でも、きっと……。

    急に眠くなってきて、そこから先は覚えてない。
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