同棲本作りたい〜🥞和哉が大学三年生へと進級し、俺が大学を卒業後プロのグレーダーとして活動するようになってから、早一月。
去年のクリスマスに来年俺が大学を卒業したら一緒に住もうか、と和哉を口説いていた俺だったが、その後存外積極的な和哉からのアプローチもあり、この春から同棲を開始した。
一先ずは俺が住むマンションで生活を始め、近いうちに一緒に家を探す手筈になっていたが、予想以上に忙しない日々が続いていて、暫くはお互いとても腰を据えて話せるような状況ではなかった。
年始の忙しなさが落ち着いたら少しは和哉とゆっくり話をする時間も作れるだろうか…と思いながらも、五月半ばまでスケジュール帳にびっしりと書き込まれた予定表を確認し、とてもそうは言っていられないな…と俺は諦観の境地に至り、溜め息をついた。
やっと和哉と休みの日が被り、夕飯も共にできそうだ…という日ができ、俺が安堵しながら和哉へ連絡を入れ返ってきた『俺の方が、先に帰れると思うから!響の好きなもの、たくさん作って待ってる』という和哉からのメッセージに『楽しみにしてる』と返信し、仕事の都合で家に帰れない日や帰宅が遅くなり和哉の寝顔を見るだけになった日も、寝る前にはそのやり取りを見返しながら、その日がくるのを心待ちにしていた。
五月の連休が明け諸々の仕事を片付けて、はやる心を抑えながら足早に帰宅し、部屋に灯る明かりを目にして何だか泣き出しそうな気持ちで胸がいっぱいになった俺は、エントランスを潜る前に一つ深呼吸をする。帰る家に和哉がいて、俺を出迎えてくれる。
その事実が、たまらなく幸せだった。
「おかえり、響!」
玄関の扉を開けるとエプロン姿の和哉がキッチンから飛び出してきた。
「ただいま」
こうやってちゃんと面と向かって挨拶を交わすのも、久しぶりだな…とパタパタと俺の元へと駆けてくる和哉を待ち構える。
「ん、鞄貸して。俺が持つよ」
玄関先にいる俺の方へと歩み寄る和哉が伸ばした右手を掴み、その身体を引き寄せ抱き締める。ごくたまに、どうしようもなく和哉の温もりが恋しくて…先にベッドに入り深く眠っている和哉を起こさないように腕の中に抱きながら眠りにつくことはあったが、ちゃんと向き合って抱き締めあうのはいつぶりだろう、と少し感慨に浸りながらぎゅっと和哉を抱く腕に力を込めた。
「きょ、きょう…」
和哉は頬を染めながら俯きがちに俺の胸へと顔を寄せる。和哉が高校を卒業後大学に進学して付き合い始めてからもう三年は経つのに…いつまでも変わらないその初心な反応が可愛くもあり、いじらしくもあった。
「わるい…最近あまり、こういうこともしてなかったから」
「うん…」
俺の胸に埋めていた顔を上げ、ほんのり赤く染まった目元を潤ませながら和哉は俺の瞳をじっと見つめ返した。目は口ほどに物を言うというが、和哉がキスをせがむ時の、少し欲を孕んだ瞳だった。
ゆっくりと顔を近づけると、和哉はそっと目を閉じる。そのまま唇にしてしまっても良かったが、ふとまだ外から帰ってきたばかりであることが頭を過った。
「え…そこ!?」
予想をしていた場所とは違う俺が口付けた左頬へ片手を添え、和哉は不服そうな声をあげた。
「…帰ってきたばかりだから」
「響ってほんとに真面目だよなっ」
膨れっ面になり、俺の鞄を手に取る和哉に背中を押され洗面台へと誘われながら、まぁ後で思う存分してやるけど…と俺はそっと心の中で独りごちた。
「和哉」
「何?手洗った?早くご飯食べようぜ。冷めちまうから。あ、そうだ…明日休みだからお酒も用意した!響の好きな銘柄の…んっ」
キッチンでワイングラスを手に持ち、酒の準備をする和哉の背中に回り込み後ろから抱き締めると、今度こそちゃんと、和哉の望み通り唇へとキスをする。
「さっきはごめん。久しぶりに休みが被ったんだから今日はゆっくり…いろいろ、したい」
「い、いろいろ…」
みるみる耳まで赤くなる和哉の反応に気をよくした俺はうなじへと軽くキスを落とし、ぎゅっと力強くその身体を抱き寄せた。