ふ、と意識が浮上する。
目を閉じた奥で昨日は何の仕事を積み残したまま寝たんだったかと計算するのが習い性に鳴っている江澄は、ぐ、と眉間にしわを寄せる。そしてそのまま、昨日の記憶を手繰り寄せようとして、頭の中に伸ばした手が何も掴まないのに気づき、ぐわと目を開いた。
映るのは、蓮花烏よりよほど暗い木目の建物。どこだ、ここはとぼうとしながら寝返りを打ち掛け、視界の端に写った白に意識が覚醒する。
「？！」
そうだ、俺は、確か、雲深不知処に来ていて、それで、
「お目覚めですか、江宗主？」
あぁぁぁぁぁ…と喉の奥から漏れそうになった声を収めた自分を本当に心の底からよくやったと褒めてやりたい。
腰が重いと思えば何だこれは。巻き付いた白い腕は何だこれは。振り返れば秀麗な顔が穏やかに見下ろしてきていて何だこれは。美男子はさすが、寝転がっていても顔の肉が歪むということはないのか…………………なんてそんなことはどうでもいいのだ。
「何をしておいでか？！」
腕を腹筋で持ち上げ起き上がった江澄の声がまだ日も登りきらず薄暗い寒室に伸び上がってひっくり返りながらぼとりと落ちた。
「………何とは、…寝てしまわれたから、同衾を」
そんな言葉を聞く余裕は江澄には無かった。己の衣が深衣一枚になっているのに気づいて今にも卒倒しそうである。私の衣、と譫言のように呟く。藍曦臣は思わず声を上げて笑った。この調子では簪と髪飾りを引き抜かれておろした髪を私に晒したことに気づいたらいよいよ倒れてしまうのではないか。
「何を笑っておられる？！！！…ぬ、脱がせたのか？！あなたが？！あなたに、わ、私は、なんてことを、」
朝から元気な人である。
「………ふふ、勝手なことをしてすみません。…今着替えを出してきますから、許してくれますか？」
こと、と牀榻を降りる。裸足に春とはいえまだ冷たい板が滲みた。あなたは布団をかけていていいですからと一言残して、