そんなの私も一緒だよそんなの私も同じだよ
「おはよう……」
「あ、おはようございます。バデーニさん」
起きがけ、浮腫んだ顔のままリビングの扉を開けると、キッチンからほのかな甘い匂い。エプロン姿のオクジーくんが、フライパンで何かを焼いていた。
「それは?」
「パンケーキです。あ、ホットケーキ?まぁ、粉があったので。使わないとと思って」
手元を見ると、黒いフライパンの中にこんがりきつね色に焼かれた小さな真円が二つ。彼曰く、何枚か焼いて付け合せを甘いのとしょっぱいのにしましょう、とのことだった。
手際よく次々と焼かれているそれを見ていると、流石に身体が空腹を訴える。
それもそのはず、太陽は既に高く昇り、時計はかろうじて午前中を示している。
はぁ、と目の前の大きな背中にもたれかかった。
「こんな時間まで惰眠を貪るなんて。君も起こせよな」
「あれ、今日なにか予定ありましたっけ」
「いや、ないが……」
貴重な休日。君と過ごす時間が減ってしまった。
そう思っているうちにも、手元のパンケーキ(ホットケーキ?)は焼き上がり、皿に移され、次の生地がフライパンに落とされた。ボウルの中を見るに、これで最後だろう。
「バデーニさんがたくさん食べて、ぐっすり眠っているのを見ると、なんだか嬉しくて。起こすの申し訳なくなっちゃったんですよ」
「なんだそれ、育ち盛りの子供じゃないぞ」
生地の表面からふつふつと浮き出る気泡をぼうっと見る。彼の背中が温かくて気持ちがいいから、反論しながらも腹に腕を回して抱き着いた。
広いと言えないキッチンで、男が二人で。なんとも滑稽だな、と頭の片隅で思った。
「それに……昨日は、無理をさせてしまったかも、と思って」
余計に起こせなくて。
彼の言葉をなんとなしに聞いていたが、生地を裏返すぱパンっ、という音と同時に、その意味を理解してしまった。
「君ィ……自覚あるなら加減を知れ!」
「すっ、スイマセンスイマセン……!」
ぎゅうと腕の力を強めながら、加減なしに好き勝手されるのを求めてしまっている自分のことは、知らないフリをする。
「お、俺、今思ったんですけど」
焼きあがった最後の二枚を皿に移しながら彼は言う。
「平和な今の世界で、三大欲求を満たしているあなたを見るのが、一番幸せかもしれません」
睡眠、食事、そして……
「ばか」
頬をつねるようにキスをした。