MILK今日もうまくジャンプを飛べなかった。自分より遅くスケートを始めた子達ですら飛べているのに。今日こそは、と思ったのに。
このまま自分が続けても意味があるのか。父さんの期待に応えられるのだろうか。
忸怩たる思いを抱えて重い足を引きずり家に戻ると、出迎えてくれたのは歳下の従兄弟の明るい笑顔だった。
「雪にぃ、おかえり!」
俺を見て、にぱーっと花が開いたように咲くその笑顔は、疲れた俺の心を照らしてくれる。
「ただいま。JPNに戻ってきてたんだな」
「うん、さっき着いた!雪にぃに早くお土産を渡したくて!」
「そうだったのか、嬉しい。ありがとう」
小さな手のひらの上に乗っていたのは、スノードーム。キラキラと舞い落ちる銀の雪が、ドームの中の小さなスケートリンクの上に舞い落ちていた。スケートリンクの中には幾人かが滑りながら踊っている。
「雪にぃの名前とおんなじ!」
それにスケートだからぴったりでしょ!僕が選んだんだ、と誇らしげに俺を見上げた楓を俺は思わずお土産ごと抱きしめた。
ずっと負けたくない気持ちはあったけれど。
どうしてもどうしてもうまくいかなくて。
こわくなって逃げ出しそうになっていた俺の気持ちを。
「雪にぃ、どうしたの?スケートのれんしゅうつかれちゃった?」
この従兄弟は微笑んで包みこんでくれるから。泣きそうになる顔を隠すように
「大丈夫。楓の顔が見れたから」
「なにそれ〜」
笑っている楓を俺はぎゅうぎゅう抱きしめた。不安な気持ちを押しつぶして消すかのように。
ああ、今日楓に会えてよかった。
苦しいよ〜と楓が腕の中で笑うから手を離して代わりに頬にキスをすると、くすぐったそうに楓が笑った。
「ご飯冷めちゃうよー早く食べよー!」とそこに顔を覗かせた椛が、あっ雪にぃに私もおかえりする!と走ってくる。どしん、とぶつかってくるその強さに俺は思わず口元が綻んだ。
きっと今日の夜は賑やかに違いない。
一人で泣いていただろう夜に、楓がここにいてくれてよかった。
二人を抱きしめながら俺は言う。
「おかえり」