○月某日
商業施設に買い出しに行ったら、長年探していた悠仁を見付けた。
最初は見間違えかと思ったが、隣を通り過ぎた瞬間に確信したのだ。
この子供は、俺の弟である悠仁だと。
だから俺は何処か不安そうに歩いている悠仁に、すかさず声を掛けて呼び止めた。
「悠仁」
「誰?何で俺の名前、知ってるの?」
誰と言われた瞬間、この悠仁には記憶がないのだと悟った。
前回の時は俺は呪いで、悠仁は人間だった。
あの時の様に出会い方が誤っていた時に比べれば、記憶がないだけの悠仁なら少しずつ俺の事を思い出してくれればいい。
「さっき迷子センターで、お前の両親らしき人物がそう言っていた。だから、迷子センターに一緒に行こう」
「そうなの?ありがとう」
俺を見上げて、屈託のない笑みを浮かべる悠仁に思わず視界が揺らめく。
今の悠仁は、ちゃんと笑えていて安心した。
「迷子にならない様に、お兄ちゃんと手を繋ごう」
「うん?」
俺が手を差し出すと、悠仁は迷わず俺の手を握る。
もうこの手を離さないと心に誓いながら、俺は悠仁の歩幅に合わせて歩き出す。
こうして俺は、悠仁の手を迷子センターに向かうと言う体で連れ去ったのだった。
◆◆◆
壊相と血塗だけに伝えると二人共、早く悠仁を親元に返すように俺を説得してきた。
どうして弟である悠仁を、他の人間に返さなければいけないのだろうか。
悠仁は俺達の弟であって、他の何者でもない。
兄弟は一緒に居なければならないのだから、悠仁は俺の手元に置いておくべきだ。
二人の説得は後にして、スマホを机に置いてから俺は寝室に居る悠仁の元へと向かう。
家に連れて行こうとしたら、悠仁が暴れ出してしまったのだ。
急に連れてきてしまったから、びっくりすのも無理はないだろう。
でも騒がれてしまうと後々、大変な事になるからと口を手で塞ぎながら家に入れた。
暴れる悠仁に申し訳ないと思いつつも、口と手足をタオルで縛った。
そのままベッドに横にさせて、俺は寝室を後にしたのだった。
「喉が乾いているだろうから、悠仁は何が好きだろうか。リクエストを聞いて、買いに行くか」
悠仁を驚かせてしまった事を謝ろうと、扉を開けると悠仁はベッドの上から落ちようとしていた。
危ないと言って悠仁を抱き止めると、悠仁の目が大きく見開かれる。
「危ないだろ、悠仁。これからは、移動する時はお兄ちゃんに言うんだぞ」
ふるふると首を横に降る悠仁を抱き締めて、その柔らかな額に唇を寄せた。
何処にも傷のない真っ白な悠仁の顔を、ゆっくりと手で撫でて感触を確かめる。
「これからは、お兄ちゃんが悠仁を守ってやるからな」