お疲れ私ちゃんがリエーレさんにでろでろにされる夢小説(仮)「はぁ……今日も何も上手くいかなかったな……」
大量の荷物を抱え、街灯に照らされた道を歩く。どんなに頑張っても全てが空回りしてしまって、周りからも白い目で見られる、そんな日々。
「私、どうしてこうなんだろ……」
ため息を一つこぼした、その瞬間。
ドンッ
「うわっ!」
どしん! 何かにぶつかって思い切りよろけてしまった。バランスを崩した体は思い切り地面に打ち付けられ、プリントが山のように入った鞄は手を離れる。
無慈悲にも、鞄の中身は地面に広がった。
「いてて……あっ、ヤバ……っ! 踏まれる前に拾わないと……!」
急いで起き上がるも、周りから向けられる視線に上手く拾えない。あちこちに散らばる紙はいつ飛ばされるとも分からないのだから、さっさと集めなければいけないのに、手が震えてしまって掴めていない。
ああ、私ってば、こんな時までぽんこつなんだ。泣きそうになるのを抑えプリントに手を伸ばすと、ふと誰かの指が私の手に触れた。
「っ⁉」
思わず手を引っ込めかけてしまった。その間にも、白い指先は目の前のプリントを拾う。
「……ふう、これで全部かしら? はい、どうぞ」
差し出されたのは、綺麗にまとめられた紙の束。夢中だったせいで気が付かなかったが、知らぬ間に拾ってくれている人がいたようだ。世の中捨てたものではない。
「あ、すいません……ありがとうござ――」
顔を上げた私は、思わず息をのんだ。なにせ目の前にいたのは、とんでもない美人だったのだから。
いわゆるOLらしい服装の彼女は、一般人とは思えないオーラを発していた。整った顔立ちに。しゃがんでいても分かるモデルのような引き締まった体型。白いシャツの胸元はボタンがいくつか開いていて、女性の私でもドキドキしてしまった。
長いまつげの奥にある桃色の瞳が私を見つめている。ぷっくりした艶やかな唇も、ウェーブのかかったベビーピンクの髪をかき上げるその動作も、全てが色っぽい。
「……? これ、貴女のじゃなくて?」
首を傾げる女性に、私はようやく我を取り戻した。慌てて女性のくれた紙束を受け取る。
「あっ、すいません! ありがとうございます。助かりました……!」
しゃがんだままお辞儀をすると、女性は微笑みを浮かべた。大人びている容姿だけれど、その笑顔はとても可愛らしい。
しかし女性はどこか悩まし気に私を見つめている。
「ごめんなさいね、アタシが貴女にぶつかってしまったから……怪我はない?」
ああ、さっきぶつかったのはこの女性だったんだ。確かにちょっと痛くはあったけれど、謝罪を述べたうえにプリントまで一緒に拾ってくれるなんて、きっといい人なんだろう。
そんな人に心配なんかさせられない。私は勢いよく立ち上がり、女性に笑ってみせた。
「あっはい! 全然大丈夫です! ほら、この通り――っ!」
突如私の右足首に痛みが走った。またよろけてしまう。そう思ったが、私を受け止めたのは冷たい石畳ではなかった。
触れた頬に柔らかく温かな何かを感じる。ちらりと見てみると、色白な胸の谷間が見えた。鼓動が早まり、頬が熱くなるのが分かる。
「……! す、すみません! わた、私……!」
すぐさま離れようとしたが、そんな私を女性の細い腕が包み込んだ。
「そんなに慌てないで。怪我が悪化したらいけないわ」
生暖かい吐息が額にかかる。女性は落ち着いた様子で私を支え直し、足元に視線を落とす。
「さっきの衝撃で捻っちゃったのかもしれないわ。このまま帰らせてしまうのも申し訳ないし……とりあえず、近くのホテルにでも入って休みましょう?」
「……はい、これでもう大丈夫」
赤くはれていた足には、水で濡らしたタオルが巻かれた。心なしか、痛みが少しずつ引いてきているような気がする。
「あ、ありがとうございます。わざわざここまでしてもらっちゃって、なんだか申し訳ないです」
「いいのよ。元はと言えばアタシのせいなんだから」
美しい女性――リエーレさんは、私を見上げて微笑んだ。
捻った辺りを優しく撫で、私の隣にリエーレさんは腰掛ける。揺れる柔らかなベッドに私はまたよろけそうになった。
「わっ」
「あら、大丈夫? 随分と疲れてるのね」
心配そうに私の顔を覗き込むリエーレさん。なんだかずっと気を遣わせてしまって申し訳ない。
「そんな……いつものことなので大丈夫ですよ。こんなの別に慣れっこですし――」
ふわりと、私の全身をリエーレさんが包み込んだ。伸ばされた腕が私の頭を優しく撫でる。
「ダメよ、そんな風に自分の気持ちを誤魔化すなんて……こうして貴女ばかりが苦しむなんて良くないわ」
「でも……」
頬に触れた手が私の顔を上げる。そこには聖母のような微笑みを浮かべて私を見つめるリエーレさんがいた。
「ねえ、よければアタシに話してくれない? こんなに苦しそうな貴女をアタシ、放っておくなんてできないわ」
「リエーレさん……」
「遠慮しないで。ほら」
背をさする手が暖かい。桃色の瞳に見つめられているうちに、だんだん胸の奥に隠していた想いがどろどろと溶けだして――
「大丈夫、全部出していいのよ……」
「あっ……私、わたし……!」
気付けば頬を涙がつたっていた。それと同時に、抱えていたもやつきが全て口から吐き出される。
「私、毎日、頑張ってて……でも何にも上手くいかなくてっ……いろんなこと、やってるのに、誰もっ、褒めてくれないし……私のことなんか、誰も必要としてないんだって……っ!」
止まらない涙も、嗚咽交じりの愚痴も、リエーレさんはただ黙って聞いてくれる。それで時々、私の背中を優しくさすってくれるのだ。