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    yushio_gnsn

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    なんちゃって鳥パロその3
    換羽期なのに交尾おねだりされちゃって卵ができるアルカヴェ

    【R18】不意の営巣(アルカヴェ鳥パロその③)ぽかぽかと窓から差す優しい陽気で目を開ける。
    目覚めると、愛しい番の寝顔がすぐ傍にあった。

    「……おはよう、アルハイゼン」
    「……」

    呼びかけても微かに身じろぎをするだけ。余程仕事で疲れていたのだろうか。それとも休日で甘えているだけか。とにかく、アルハイゼンはまだ夢の世界から離れたくないらしい。

    「(ふふ、また寝癖がついてる……あとで直してあげよう)」

    ぴょこんと変な方向に跳ねている前髪。あどけない寝顔を晒す彼だが、れっきとした猛禽類。今は人間の姿をとっているが、本来の姿は神々しさすら感じるほど立派な隼である。おそらく、普通の人間が元の姿を見たら腰を抜かして逃げ出すだろう。

    人間に騙され、愛玩用として売られそうになったところを救出されてらから、もうすぐ一年がたつ。あの時の自分は誰かの番になることなど考えもしなかったし、かつて助けた若鳥が逞しすぎる成長を遂げて帰って来るなど夢にも思わなかった。

    「もう朝だよ」
    「……ん」

    もう一度呼びかけても、むにゃむにゃと形にならない言葉を零すばかり。力ではまず敵わないのだけれども、こうして歳下らしい可愛い一面を見せてくれる。

    「(人間社会にも名の通った英雄様がこんなに可愛いなんて、僕以外だれも知らないんだ)」

    番にしか見せない姿を確認してほくそ笑む。おっかなびっくりだった同衾もすっかり日常に落とし込まれ、寝顔を眺めるのが楽しみとなっていた。

    「(疲れてるなら起こすのもかわいそうだ。朝ご飯を作って待ってようかな)」

    食生や風習の違いで苦労することもあったが、今ではもう慣れっこだ。馴染みのなかった肉料理もお手の物。ステーキでも、魚のムニエルでも、彼好みの味付けを再現できる自信がある。
    眠っているアルハイゼンを起こさぬよう静かに寝台から抜け出して、抜き足差し足でドアの方へ向かう。そっとノブに手をかけた時、はらりと足元に何かが落ちた。

    「……?」

    白色と黄金色のグラデーション。自慢の長い尾羽が床の上に落ちている。確認をするために屈んだ時、もう一枚……褐色の羽根がひらひらと散った。今は人の姿を取っているはずなのに、何故羽根が?
    疑問符を浮かべたまさにそのとき、三枚目の羽根がはらりと落ちる。

    「……ぁ、あああ!!!」

    自分の身に何が起きたのか理解した瞬間、叫び声をあげながら寝室を飛び出した。

    ***

    「カーヴェ、扉を開けてくれ」
    「いやだ!!!!!!!!!」

    カーヴェの換羽期が始まった。寝室に響いた絶叫で飛び起きたとき、既に彼の姿は無かった。敵襲かと身構えたものの、床に散らばる数枚の羽毛で何が起きたかを察した。

    「食事だと言っているだろう」
    「いやったらいやだ。ご飯は廊下に置いといてくれ。僕は羽が新しくなるまでここから出ない」
    「栄養をしっかりと摂るべき時期に、食事を疎かにするな」

    カーヴェは今、仕事部屋に立てこもっている。この部屋には脚の治療のために使われていた名残で、ベッドがそのまま置かれていた。寝具があるからという理由で、このまま引きこもろうとしているのだろう。

    「(迂闊だった……ベッドはさっさと撤去しておくべきだったな)」

    寝床がなければいつもの寝室で共寝をするしかなかったはずだ。想定が甘かった。
    フウチョウは美しい翼を持つがゆえ、見た目に対する拘りも凄まじいと聞いている。しかし、羽根が数枚抜け落ちた程度でひきこもるとは予想外だ。換羽期はどの種族もストレスに対して敏感になるものだが、既に影響が出ているのかもしれない。

    「君は番である俺を放置するつもりか?」
    「番だからこそだ。こんなみっともない姿は見せられない」
    「羽の生え替わりは俺たちの種族において逆らえない生理現象だろう。君は俺の換羽期が始まったら幻滅するのか?」
    「そんなことありえない!!!」
    「ならわかるだろう? これ以上抵抗するようなら、扉を壊す」

    二人が住んでいるのは人間用の住居である。人智を超えた生き物が本来の力を解放すれば、ドアの破壊など食べ物の包み紙を破るのと同程度の容易さである。施錠が無意味であることはカーヴェも理解しているのか、ああ、うう、と呻き声が聞こえた後、かちゃりと鍵の開く音がした。扉を開ける前に、中からばたばたと音がする。逃げ場などあるはずもないのに、どこかへ隠れたようだ。

    「カーヴェ」
    「いやだ、見ないでくれ」

    部屋には既に多くの羽根が散っており、使われなくなったベッドの横に不自然な毛布の塊がある。かろうじて頭は隠せているが明らかに脚がはみだしていた。思い悩む彼には申し訳ないが、不格好なミノムシのようで非常に滑稽だった。せめてクローゼットか机の下にでも隠れればよかったのに。

    「……カーヴェ」

    もう一度名前を呼ぶが、呻き声しか返ってこない。毛布を引き剥がしてもいいが、繊細になっている彼に対して乱暴な扱いはしたくない。少し考えた末、彼の前に膝をつき、毛布ごと持ち上げる。

    「ほぁあ!?」
    「寝室まで運ぶだけだ。食事は部屋に持っていく」
    「なっ、ならここに居ても」
    「却下だ」

    換羽期は外的刺激に敏感になるだけでなく、新しい羽を生み出すために体力を消耗する。元素力も安定しなくなるので、人の姿を保つのも普段以上に苦労するだろう。栄養状態が悪ければ羽の発育不全を起こすし、生え代わり途中は肌も弱くなる。番の健康状態を気にするのは当然のことで、独りにしておくなどもってのほかだ。

    「僕は番であってヒモじゃない! 換羽期中の身体のケアぐらい自分でやるさ!」
    「……ひも?」
    「えっと……働くこともせず他人の家に住みながら養ってもらってる存在のことを人間はヒモっていうんだ……」
    「ああ……居候のことか」
    「そう、それ……じゃなくて! だからね、僕は何もできない存在じゃないんだってば!」
    「勘違いをしているようなので訂正しよう。君が無力なのではない。俺が世話を焼きたいだけだ。俺の欲求を満たすためだと思って大人しくしてくれ」
    「こ、これだから隼は……」

    隼の本能など関係ない。再会のしかたが最悪だったのだから。人間に騙されて捕らわれ、両足を折られた状態で保護した相手である。世話を焼きたくならないほうがおかしい。

    カーヴェを番として迎え入れてからというもの、彼が外に出たがるたび、閉じ込めておきたい気持ちを堪えて一緒に外出している。常に周囲気を配り、不埒な視線を感じれば全力で威嚇をする。家の外にいると、一時たりとも気が休まらない。世話を焼きたい気持ちの根幹にあるのは、誰にも邪魔されない二人きりの時間を全力で堪能したいという欲求だった。

    「(君がここに居ると知れ渡ってから、何羽の同族を追い返したと思っている)」

    誰からの求婚も受けず、世界で一番美しいと言われていながら突然姿を消した伝説のフウチョウ。雄雌問わず、彼を求めて人間の姿に化けた同族が何度もこの家に近寄って来た。強い力を持つ生き物は生殖に雌雄を問わない。十中八九、彼を奪い取るために近づいてきた不埒極まりない連中だ。力の差を弁えて接してくる人間たちの方がまだ信頼できる。

    怖がらせたり、罪悪感を持たれたくないので、同族を始末した正確な数は本人に告げていない。消しきれなかった血の匂いで幾らか察されてはいるだろうが。

    暴れるカーヴェを元居た寝室に戻すと、ベッドに降ろしたとたん、はらはらと羽根が散った。羽の生え換わりには個体差があるが、彼はかなり激しく抜けかわるタイプのようだ。毛布に包まりながら暴れてしまったので、ベッドの周りはあっという間に羽根だらけになった。

    「うぁあ、もうこんなに抜けて……絶対見るなよ」
    「それは君が抵抗したからだ。食事を持ってくる。食べ終わったら羽繕いをしよう」

    毛布に包まったままでも、彼の身体がぴしりと硬直するのがわかった。抵抗されるのは予想していたが、いい加減諦めて欲しい。

    「は……!?!? こっ、こんな状態で羽繕いなんか」
    「古い羽根が残っていると痒みが出るだろう。掻きむしったら敏感になっている地肌がますます傷つく」
    「じゃあ僕一人でお風呂に入る! そしたら翼も綺麗に……」
    「お湯に浸かったら羽を保護する油膜がなくなって逆効果だ。これ以上無駄な抵抗を続けるならば今すぐ毛布を引き剥がす」

    キュルル、と悲しげな声が毛布の塊から聞こえて来た。そんな声を出しても駄目なものは駄目なのだ。換羽期の姿が恥ずかしいと言うけれど、こちらは産毛の残った姿でベランダに突っ込んだのを助けられている。比較にならないほど不甲斐ない姿だ。

    「食事を用意するから大人しく待っていろ」
    「はあ……わかったよ」

    逃走の意思はなくなったようだが、念のため鍵をかけてからキッチンに向かう。フウチョウの主食は果実類だが、換羽期はカロリーが必要だ。場合によっては人間の食べ物や栄養剤を足すのが望ましい。

    「(仕方ない、買い出しに行くか……こうなるとわかっていたら事前に栄養価の高いものを買い込んでいたんだが……)」

    ストックしてあった夕暮れの実の中から、質のよさそうなものを選び、食べやすい大きさに切って盛り付けた。朝食はこれでいいとして、今後の食事に追加するならイチジクかデーツ。栄養の凝縮されたドライフルーツで摂らせるのが最適なのだけれど、カーヴェは水気の少ないものを好まない。

    「(口直し用の新鮮なラズベリー、ザイトゥン桃も必要だな……水も多めに飲ませないと)」

    ちなみに、自分が換羽期の際はひたすら肉を食えば済んでしまうので気にしたことは殆どない。繊細なカーヴェの食性に合わせて食事を調整するのは面倒どころか番としてのやりがいであった。隼は番に尽くすと言われるが、それは正確な表現ではない。

    番が自分の手によって凛々しく、美しく、健やかに保たれることを心の底から楽しんでいるのだ。

    ***

    「翼を出せ」
    「嫌だ!!!!!!!!!」

    羽繕い用のブラシを見るなり、カーヴェは飛びのき、毛布を被って部屋の隅でうずくまった。栄養のある食事を摂らせ、たっぷりと寝かせてからベッドに向かったのに、このありさまである。食事と睡眠を充分にとらせれば心も落ち着くと踏んだのだが、まるで効果がない。

    「さっき最後の尾羽がとれてしまった……もうだめだ、番に行けない……」
    「君はもう俺の番だろう。錯乱しているのか」
    「恥ずかしいことの比喩だよ!!!わかっているくせに!!!それと、羽繕いは自分で」
    「却下だ」
    「あああああ!!!!!!!」

    抵抗するなら毛布を引き剝がすともう何度も伝えてある。言葉通りに毛布を捲ると、ベッドの周りに羽毛が散った。

    「だから、見ないでくれって……う、ぅ……」

    元素力が安定しないせいか、カーヴェの背中からは鳥の翼が生え、髪の一部が羽毛となっている。この期に及んで逃げようとする身体を引き戻し、やや強引に腕の中へと収めた。

    「……人間の社会に馴染んでからは見た目を気にしなくなったと言っていたが」
    「それは……もう同族と会う事なんてないと思ったし、ましてや誰かの番になるなんて……」
    「抜けかけの羽をそのままにしては痒みが出る。整えるから大人しくしてくれ」

    消え入りそうな声量で「わかった」が聞こえた。本当は元の姿に戻ってもらうのが一番いいのだけれど、翼を晒すだけでも羞恥で死にそうになっている彼に無理強いはできない。付け根部分からゆっくりとブラシをすべらせると、はらはらと古い羽が抜け落ちていく。その間から、生えかけの筆毛が顔を出していた。

    「もう新しい羽ができているな。君は抜けるのも生えるのもめっぽう早いんだろう。二週間もすれば元通りになる」
    「二週間も、だ! それに、風切羽はよくても尾羽は伸びきるのに時間がかかるんだよ……」
    「その頃には元素力も安定しているだろう? 殆ど人間の姿でいるなら気にならない」
    「駄目だ、僕が気にする」

    見た目に妥協できないのはフウチョウ故なのか、それとも彼自身のプライドなのか。カーヴェの見目を麗しいと思っていることに間違いはないが、本気で惚れ込んだのはその心だ。見た目が多少乱れた程度で心変わりするわけがない。

    初めて出会ったとき、カーヴェは怪我を治してくれただけでなく、食性に合わない肉をわざわざ用意してくれたり、産毛の残った身体を優しく羽繕いしてくれた。あの頃はとても幼かったが、カーヴェが他の鳥にも同じことをするのではないかと思ったら気が気でなかった。彼は人間相手にも身を粉にして尽くし、他人の幸福ばかり優先する。子ども扱いされたときついに我慢ならなくなって、強さを求めて一度彼の元を去ったのだ。

    「君がここへ来たときはもっとボロボロだった。それでも君に求婚した意味はわかるだろう?」
    「あれは怪我をしていたからで……君の庇護欲をくすぐったとか、そういうのじゃ」
    「カーヴェ?」
    「ひ、っ……あ、わ、悪かったよ……」

    流石にそこまで否定されるとこちらも腹が立つ。思わず語気を荒げてしまったが、今の彼は換羽期で精神的に不安定なのだった。普段のカーヴェはこの程度でくよくよしない。自信の無い態度も、試すような言動も、全て生理現象だ。

    「すまない、今の君はストレスに弱いことを失念していた」
    「いや……自分でもわかってるよ。気分が沈むのもイライラするのも換羽期のせいだって……でも、どうしても、苦しい……嫌なことばかり頭に浮かぶんだ」

    抜け換わりの激しさとストレスは比例すると聞く。病気ではないので薬も効かず、彼はただ耐えることしかできない。今まではこの鬱屈した心境に独りで耐えていたのかと思うと胸が苦しくなった。

    「なぁ、アルハイゼン……番としてお願いがあるんだけど、いいかな」
    「……俺に出来ることなら」

    いたたまれない気持ちと、素直に頼られた嬉しさが入り混じる。カーヴェは長らく一人で生きていたせいか、番となってからも積極的に甘えることをしなかった。むしろ、面倒事はひた隠し、一人で解決しようとする傾向にある。だからこそ、ようやく彼の口から出て来た〝お願い〟は甘美で、いっそう庇護欲をそそった。二週間仕事に行かず家に居ろと言われても二つ返事で答える自信がある。

    「僕を抱いて欲しいんだ」

    ブラシが手から滑り落ちる。カーヴェはこちらの胸に顔を埋めたまま、けれど耳は林檎のように赤くなっていた。

    「……自分が何を言っているかわかっているのか」
    「体力の消耗が激しい時期だから駄目って言うんだろう……でも、どうしても、この姿でも求められてる証が欲しくて」

    心臓の音がうるさい。期待と不安、理性と本能がせめぎ合っている。

    「体力の問題だけじゃない。孕みでもしたらどうするんだ」
    「でも……」

    口では制することができても、身体は正直だ。呼吸は乱れ、口の中が渇く。初めて彼の方から誘われて、気が狂いそうなほど昂っている。ただでさえ消耗の激しい時期に交尾など負荷がかかるに決まっている。発情期でなくとも孕む可能性はあるわけで、そうなった場合身体への負担は計り知れない。ここは断るのが正しい選択だ。頭では理解している。

    「(本当にそうか?)」

    どくん、と熱が身体に満ちた。カーヴェが、愛する番がようやく口にした精いっぱいの懇願を無下にするのが本当に正しい選択なのだろうか? 身体は守られても、心を余計に傷つけるかもしれない。今の自分には魅力が無いのだと、誤った自覚をされたらどうするのか。

    「君が望むなら……ただし本番はしない」

    迷った末の結論はこれだった。

    「最後までしてくれないのか」
    「したいに決まっているだろう。交尾の誘いを受けて正気でいられると思うな。君が健康体だったら絶対に寝かせなかった」
    「ひぇ……」

    腕の中で縮こまるカーヴェをそっと撫でる。羽毛の混じった髪の毛はこれはこれで触り心地が良い。

    「もう一度、食事を摂ってからにしよう。それでも消耗は避けられない。今後羽が揃うまでは俺の言うことを聞いて、安静にしてもらう」
    「……うん」

    控えめな返事の後、キュルキュルと甘えた声で鳴く。行為中にこの声で強請られたら加減できる自信がない。今日ばかりは声を控えめにしてくれることを祈って、羽繕いを続けた。

    ***

    食事を摂らせ、ぬるま湯で湯浴みをさせた頃にはすっかり日が落ちていた。本来鳥類は日暮れと共に眠るものだが、力の強い個体には当てはまらない。それでも人間に比べると、暗闇での視力は若干劣ってしまうが。

    「今日はすべて俺がやる。君はなるべく動かないでくれ」
    「……わかった。けど、あの、明かりは消した方が」
    「身体を晒してもらわなければ、今の君を抱けるという証明にならないだろう」

    寝台に寝かせてやると、彼は毛布を掴んで顔を覆った。邪魔な毛布を丁寧にどけてから、潤む目尻にひとつ口付けを落とす。

    「んん……くすぐったい」

    相変わらず翼は出たままで、髪にも羽毛が混じっていた。この状態でも人間の姿を保っていられるのは、彼の力の強さ故だろう。

    力のある生き物が人間の姿を模す理由は様々あるが、効率的に子孫を残す為に行う者が多い。元の姿のままでは体格差ゆえに都合がつかないことが多くあり、実際、自分も元の姿では力の加減が難しい。本来の姿を愛したい気持ちもあるが、人間の姿のほうが触れ合いやすく、愛情の表現も多岐にわたるためこれはこれで気にいっている。

    「今の君は体温調節がしづらいだろう。寒かったらすぐに言ってくれ」
    「……これから熱くするくせ、にッ!?」

    強がれるのは心に余裕が生まれたからか。柔肌にそっと触れれば、艶やか声が響く。彼が身じろぎをするたび、寝台には羽根が散り、乱れる身体をいっそう引き立てた。彼の体調を考えれば、本当は、こんなことをしてはいけない。わかっているのに、背徳感がスパイスとなって、じりじりと理性を焼いていく。

    「はぁ、ぁ……ぅ……ん……ッ♡」

    唇、耳、首筋、胸、キスをするたびに身体が跳ねる。普段以上に反応が良いのは錯覚ではなく、嬌声が静かな部屋によく響いた。

    「(肌に触れているだけでこれか……?)」

    換羽期ゆえに敏感なのだろうか。嬌声に甘え鳴きが混じった時点で、犯し尽くしたい衝動に駆られていた。

    「ぁるはいぜん……当たって、る……」

    言われるまで気づかなかった。股の間に押し付けたそこは既に臨戦態勢となっており、言い訳ができない。

    「だから言っただろう、羽が乱れた程度で君が損なわれることはないと」
    「じゃあ最後までしてくれても」
    「っぐ……駄目だ……どうしてこういう時に限って積極的なんだ君は」

    カーヴェはこちらの手を取ると、薄い腹の上……ちょうど臍のあたりに乗せる。何をするつもりかと静観していたら、次の瞬間後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。

    「ここが寂しい」

    奥歯を噛んでも無駄だった。ぶち、と理性の糸が切れる。

    「そんな誘い文句をどこで覚えて来た?」
    「だって……」

    邪魔な下履きを取り払えば、彼の蕾は既に蜜を滴らせていた。本来交尾は人間の男女に姿を変えて行うものであるが、同性の姿でもできないことはない。出会ったままのカーヴェの姿が好きだったからこそ、この姿のまま抱くことを選んだ。それでも、何度も雄を受け入れたそこは交尾しやすいよう慣らされており、雌と同じように受け入れることができるようになっている。

    「前を触ってやる必要は無さそうだな」

    カーヴェだって相当に優秀な雄であるはずなのに、そこが使われることはもうない。彼を手中に収めた事実を自覚するたび、満ち足りる。初めて見たその日から、彼が世界で一番だった。蜜を零す蕾のふちを指でなぞり、ゆっくりと解していく。彼の中は柔いのに、指を飲み込むようにきゅうきゅうと締め付けてきて、いっそう劣情を煽った。

    「は、はや……く……なか、ほしい……」
    「チッ……」

    最後までしない、とはどの口が言ったか。一途であればあるほど、番からのおねだりにはめっぽう弱くなるのだと理解らされた。カーヴェが今までお願いをしてこなかった分、いざねだられるとまるで耐えられない。何でも言うことをきいて、叶えてやりたくなってしまう。そして自分もまた、愛しい番の痴態を見せつけられて正気ではいられなかった。割と理性的な自覚があったのだが、考えを改めなければならない。

    「良くしてやるから、君は動くな」
    「んっ……う゛……ぅ♡ ぁ……ッ!?」

    柔く解れた中へ剛直を突き立てる。押し拓き奥へ進むほどに締め付けは増して、薄い腹は形を歪めた。根元まで咥え込ませてやれば、びくんと腰が跳ねると同時に前と後ろの両方から透明な体液が滴る。既に雌としての快楽を教え込まれた身体は緩やかに達し、それでも健気に剛直を食い締めていた。

    「……ぁう、待っ……まだ、きみが」
    「わかっている。まだ終わりにはしないから、きちんと息を吸え」
    「ふ、ぅ……ッ……う、ん……」

    深呼吸を促すと、ふぅふぅと可愛らしい息遣いが聞こえる。額の汗を拭ってやると、掌へすりすりと頬擦りをしてきた。その仕草だけで熱は増し、狭い彼の中を更に押し拡げてしまう。

    「ふぁ、ッ!?……また、お……きく♡」
    「君が……煽るからだろう」
    「ん……く、ッ……ぃい、よ、も……うごいて」

    正直、これ以上のお預けは耐えられる気がしなかった。汗ばむ身体に覆い被さり、抱き締めながらゆっくりと腰を動かす。

    「んぁ、あ……あ……♡ それ、だめ……ッ⁉」

    腹の中にある悦い場所を押し潰すようにしながら、奥を穿つ。ぬち、ぬち、と静かな水音が鳴るたび、抱き締めた身体は淫らに悶えた。

    「……ッ……こら、動くなと言っただろう」
    「うごいて、な……ぁ、う゛ッ♡」

    無自覚なのか、それとも理性が飛んでいるのか。カーヴェは快楽に悶えつつも、こちらの動きに合わせてカクカクと腰を揺らしていた。それを押さえ込むようにして奥を掻き回し、主導権を握っているのが誰なのか理解らせる。

    「ッ……ぁ♡ ……そぇ……ら、め……」
    「……ぐ、ッ!」

    つい動きを強めてしまい、ぐぽっ、と中で激しく音が鳴る。一度抜かなければ、と思ったとたんに彼の足が腰へ絡み、気づけば彼の最奥へと欲を放っていた。

    「……ぁ、馬鹿、カーヴェっ!?」
    「……ッ♡」

    こちらに縋りついたまま浅い呼吸を繰り返す彼は、苦しそうに、けれど満足げに笑っている。

    「っ、ふふ……すきだ」

    甘えた声が耳元で響けば、罪悪感も背徳感もあっという間に消し飛んだ。精を吐き出し続ける強直を奥に擦り付け、カーヴェ、とだだ彼の名前を呼ぶ。

    「……ん、ぅ、おく……あつ、い……♡ おなか、おもたい」
    「はぁ……満足したか……」

    長い吐精が終わり、ようやく理性が戻って来たころにはすべてが想定外の方向に終わっていた。最後までしないと言ったのに、彼に煽られるがまま中を暴き、欲で満たした。番としてあるまじき蛮行でありながら、満足そうに蕩けた顔を見ていると後悔よりも達成感が勝る。とはいえ、無体を強いてしまったのだから迅速に後処理をしなければならない。

    「カーヴェ、脚を離してくれ」
    「……ん」

    快楽の余韻に浸っているのか、カーヴェは蕩けた表情のまま、ぼんやりとこちらを見つめている。

    「後処理ができないだろう。そのままシてしまったんだから、掻き出さない、と……!?」

    引き抜こうと腰を引いたとたん、ぐ、と脚で身体を戻される。とちゅ、と水音が響いて、剛直は再び温かく柔らかな胎内へおさまった。

    「なぁ、アルハイゼン……」

    背徳の予感がする。彼の腕が背中に回り、熱い吐息が耳にかかる。やめてほしい。今何か言われたら、全てその通りにしてしまいそうなのだ。

    「……もういっかい」

    やはりだめだった。現実はままならない。君のせいだ、と心の中で言い訳をして、羽根散る寝台の上で何度も彼の身体を貪った。

    ***

    ぽかぽかと窓から差す優しい陽気で目を開ける。
    目覚めると、愛しい番の寝顔がすぐ傍にあった。

    「……おはよう、カーヴェ」
    「……んぅ?」
    「昨日はよくもやってくれたな」
    「っ、わぁあ!?」

    わしゃわしゃと頭を撫でると、薄い毛布の中でばたばたと暴れていた。騒ぐ余裕ができたのだから、体調は良好と見える。

    「その……こんな身体でわがまま言って悪かったよ」
    「……気分は?」
    「おかげさまですっかり良くなった……」

    これでまた交尾をねだられたら、どうしようかと思っていた。彼の身体はほぼ人間の姿を取り戻しており、髪に羽毛が混じることもなければ、翼もきちんとしまわれている。不安が解消されたぶん、肉体も安定を取り戻したらしい。


    「昨日はろくに後処理ができなかった……シャワーを浴びに行くが、立てるか」
    「えっと……」
    「身体が辛いなら抱えていく」
    「そうじゃなくてね、あの……もうひとつ謝らないといけないことがあって」

    キュルル、と弱気な鳴き声が響く。何か後ろめたいことがあるようだが、昨日のわがままに比べれば、皿を割ろうが本をだめにしようが許せる気がした。内緒で外に出たり、怪我を隠したりしなければお説教の必要は無い。

    「まだ、おなか、おもたい……」
    「…………は?」
    「だって、昨日、君の……すごかったし……量も、濃さ……も」

    もじもじとどもる彼の下腹部をまさぐると、昨日と同じように膨らんだまま。可能性はあったが、よりにもよってこのタイミングで的中してしまうとは思わなかった。

    「あの……卵……」
    「責任は取るから絶対安静にしてくれ」
    「……うん」

    想定外が過ぎるものの、何はともあれ番としての役割を果たすほかない。やらかしておきながら、後悔よりも今後の計画やカーヴェの体調管理のほうに気持ちが傾いていた。

    「汗を流したら厚手の寝間着を用意する。絶対に身体は冷やすな。それから食事は」
    「わかった、ちゃんと言うことをきくから!」

    彼を抱き上げ浴室へ向かう。その足取りは妙に軽く、少なからず浮かれているのだと自覚した。想定外であっただけで、嬉しくないわけがない。ただし、次からはしっかりと家族計画を立てて事に及ぼうと心に誓った。


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