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    Mobuta_Mobu

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    Mobuta_Mobu

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    妹リクエストの主ホルです。
    可愛い甥っ子には叔父様だけではなく、俺も一緒に愛してほしいなあ……

    #放サモ
    #ホルス
    horus
    #主ホル

    可愛い甥っ子「ホルスー!」
     サモナーは町中で見知った背中を見つけて駆け寄った。平日の日暮れ時。空は橙色から赤紫色へ移り変わり始めている。声をかけた後で勤務中である可能性に思い至ったが、幸いにも勤務中ではないようで、私服に何やらおしゃれなショッピングバッグを片手に提げたホルスが驚きをもってサモナーを見つめた。
    「叔父様っ? どうしてここに?」
     しかし、流石とも言うべきか、明らかな動揺は咳払い一つで厳かな表情の裏に上手に隠してしまう。
    「今日はお休み?」
     時折、自分だけに見せるその気の抜けた表情が堪能できなかったことを残念に思いながら、サモナーもこれまた平然とした顔でホルスに向き合った。
    「ええ、まあ」
    「へぇ、珍しいね。誰かへのプレゼントを買いに来た、とか?」
     ホルスの手の中のショッピングバッグに視線をチラチラと向けながら訊ねると、ホルスは慌てたように内緒です、とそれを背中の後ろに隠した。
    「そんなことより、こんな時間に一人で外出とは些か警戒心が足りないのではないですか?」
     平日の放課後といえば、確かにそれはゲームの時間帯。仮にもギルドマスターとあろう者が一人で出歩くにしては些か危険ではある。
    「でも、みんな頼りになるから大丈夫だよ」
     自分もそう簡単にやられるつもりもないし、頼りになるギルドメンバーたちを思い出し、問題がないと主張する。それに、と続けてサモナーは右手に提げた半透明の袋を自慢気に掲げてホルスに見せつける。中で白い小さな箱が揺れてかさりと音を立てた。
    「リョウタおすすめのケーキ、今日までだったから」
     学生は学業が本分というが、であるならばその学業で疲れた頭への糖分補給もやはり必要なものであろう。それにリョウタおすすめとあらば、味はお墨付きだ。思わず口調が弾んだサモナーをホルスが呆れたように見やる。
    「まったく、叔父様らしいですが……」
     逆接の接続詞まで聞けば、次に続くのはお説教に他ならない。こんなところでお説教では折角のケーキが駄目になってしまう。
    サモナーは慌ててホルスの言葉を遮った。
    「じゃあさ、セーフハウスまで送っていってよ」
    「……はい?」
    「このケーキ、人数分はないから近くのセーフハウスでこっそり食べようと思ってたんだ。だからそこで暗くなるまで待ってから帰れば、ゲームも終わってるし安全でしょ?」
     箱の中にあるケーキは二つだけ。部屋に持ち帰って食べてもいいが、寮に行けば複数人と顔を合わせる可能性は低くはない。皆の顔を見ればついつい共有してしまいたくなる気持ちもあるし、美味しいケーキを内緒にして食べる罪悪感も少しばかりある。だから寮からも少し距離がある、あまり使われていないセーフハウスで一人で食べるのがベストだともともと判断していた。
    「しかし、暗くなってからの一人歩きも安全ではないでしょう」
     ホルスが警察署のエリートらしい顔付きで目を細めた。確かにゲームが終わったとは言えど、ルールを従順に守るやつばかりではないし、残念ながらゲームとは無関係の犯罪が起こりやすい時間帯ではある。
    「じゃあ、暗くなるまでセーフハウスに一緒にいて、その後で次は寮に送っていってくれたり……?」
     流石に図々しすぎるかと思いながらも、ちらりとホルスの顔色を伺ってお願いしてみる。半ば予想通り、ホルスは一瞬だけ驚いたような、そして少し嬉しそうな、何かを期待するような顔をして、それからコホンと咳払いをした後すぐに真顔に戻る。
    「まったく、叔父様は……仕方がないですね」
     自分に甘い自称甥っ子に感謝しながら、セーフハウスへと連れだって歩く。ホルスのすぐ横で少し浮足立った足元がホルスにバレていないといいなと思いながら。

    ******

     他愛もない話をしていると、セーフハウスまでの道のりはあっという間だった。セーフハウスを前にして少し心配そうにしたホルスが今まさに考えていることを当てられる自信がサモナーにはある。にんまりと笑ってホルスの手を引きセーフハウスの中に誘導する。
    「我がギルドの頼れる参謀曰く、ここはサモナーが友人や自称ご家族、親戚、その他諸々のパートナーの方を招くための場所にしよう、とのことなので、ホルスはウェルカムなのです」
     そう伝えればホルスは明らかに安堵したような、納得したような表情を浮かべた。
    「なるほど……さまざまなギルドの関係者に敢えて公表することで、後は何もしなくても勝手に牽制しあうために均衡が保たれる、と……」
     サモナーからしてみれば頭がいい人の考えていることなんてちっとも分からないが、確かにホルスが呟いていることと似たようなことをシロウも言っていたような気がする。情報戦においてはサモナーズは三大ギルドに勝ち目はなく、ならばいっそサモナーの信頼を前提として公表することでサモナーに好意を向ける者たちはその信頼を損なわぬように動く、というように仕向けているとかなんとか……。ここの他にも同じような用途のためのセーフハウスがあるが、今やそれらの開示数によってサモナーからの信頼度を測り、競うという奇妙なゲームが成り立っているという風の噂を耳にもする。
    「ということは、僕は出遅れているということですね」
     シロウからの説明を思い出しながら簡単に補足すれば、ホルスはなんとも複雑そうな顔をしていたが、ともあれ自分がこのセーフハウスに足を踏み入れることに遠慮は要らないというのは伝わったようだった。
     部屋はあまり広くはないが、非常時には宿泊ができるよう、寝具や机、使い捨ての食器などは常備してあるため人を呼ぶのには不足はない。室内は少し肌寒く、暖房の電源をつけて、興味深そうにセーフハウスを見渡すホルスを振り返る。
    「適当に寛いでね」
     サモナーが持っていたケーキの箱を小さい冷蔵庫に仕舞うのを見たホルスが拍子抜けしたようにサモナーを見た。
    「ケーキはまだ食べないんですか?」
    「うん、これは勉強終わりのご褒美用だからね」
     サモナーは机に向かって座り、鞄の中から理科の参考書を取り出した後、少し考えてから社会の参考書に取り替える。
    「公民教えてくれない? 法律のとことかいまいち分からなくて」
     サモナーにとって公民はもっとも苦戦している教科だ。もともといたと思われる東京の記憶は薄らぼんやりとはあるが、それでも転光生に関する法律や制度などは知るはずもない。現地の人々にとっては慣れ親しんだものであっても、サモナーにとっては複雑に思えてならず、覚えるのにも一苦労だった。
    「仕方ありませんね」
     サモナーに頼られたことが嬉しいとでもいうように、ゆるりと頬を緩ませたホルスがサモナーの向かいに腰を落ち着け、参考書覗き込む。開かれたページにざっくりと目を通したホルスはなるほどと小さく呟いてから解説を始めた。
    「ではまず、この東京における転光生の立場から──」
     凛とした声で説明されるこの世界のこと。ゲームの根幹に結びつくことは深くは語られず、けれどもテストで出てきそうなところはしっかりと抑えられた説明は実に簡潔で分かりやすい。授業中にはできないようなキホンのキの質問から、少し逸れた質問まで、ホルスは呆れたり、共感したりと懇切丁寧に勉強に付き合ってくれる。ホルスの説明を聞き終わり、次はそれをもとに提出範囲の問題に着手する。一つ一つホルスが教えてくれたことを思い出しながら問題を解いていれば、思ったよりも集中していたようで、寝ているホルスに気が付いたのは問題が全て解き終わった時だった。
     すー、と本当に小さな寝息が溢れ、柔らかな羽毛が僅かに上下する。起こすべきかと迷ったが、少し前にオッターに会ったときに最近忙しくてホルスが睡眠を全然とっていないのだと愚痴っていたことを思い出してやめた。ついでに怒られるかもしれないと思いながらもホルスの寝顔をそっと覗き込む。エリートらしい厳かな表情は鳴りを潜め、そこには少しのあどけなさがあった。彼の叔父様もきっとホルスのこの寝顔を穏やかに愛おしく見つめていたのだろう。
    「おやすみ、可愛い甥っ子」
     起こさないようにかけた小さな声には、自分の中にいるという叔父様らしい優しさが載せられただろうか。届かぬ相手として自分を追いかけるホルスだが、自分だってきっとその届かぬ相手を追いかけている。ホルスが尊敬する叔父様のように、自分もならなければならない。そうすればもしかしたらいつかは叔父様だけではなく自分も見てくれるのではないかという淡く切ない期待を胸に抱く。その一歩としてまずは勉学に励まなければ。サモナーは赤ペンに持ち替えて参考書の丸付けに取りかかった。

    ******

     ホルスが目を覚ましたのは一時間ほど後のことだった。小さくぐずるような声が聞こえ、机に突っ伏していたホルスの体がのそりとゆれる。それから意識が覚醒するまでは早く、気が付けばガバリと体を起こしたホルスが丸い目で向かいに座るサモナーを見つめていた。
    「あ、おはよう。よく寝てたね」
     たっぷり二秒ほどかけて状況を把握したホルスは、恥じらうように頬を赤く染めて視線をそらした。
    「起こしてくださればよかったのに」
    「ごめんね、気持ちよさそうだったから」
     外では滅多に見られないホルスの表情にクスクスと笑いがこぼれる。
    「最近忙しかったんでしょ? オッターが心配してた」
     そう伝えればバツの悪そうに頭をかく。その心中は大切な部下に心配をかけていることへの不甲斐なさと、大好きな叔父様にそれを告げ口した部下への恨みと半々だろうか。
    「心配してるのはオッターだけじゃないよ。適度な休息は必要だってホルスも分かってるよね?」
     少し説教臭くなってしまったのは、叔父様のフリをしたせいだろうか。サモナーの口調につられたようにホルスの顔に少し影が落ちた気がした。しまった、と思い、話題変えようとサモナーは参考書を脇に退けて冷蔵庫からケーキを取り出した。部屋には二人、ケーキは二つ。全てが取り計らわれたかのように丁度いい。
    「ホルスはどっちがいい?」
     箱を開けると中からチョコレートケーキと苺を乗せたショートケーキが現れた。見た目はシンプルだが、あのリョウタが絶賛するケーキだから期待ができる。
    「いえ、しかし……」
    「勉強教えてくれたお礼。おかげで勉強めっちゃ進んだから」
    「ですが、僕はほとんど寝ていただけなので……」
     頑とした態度で、遠慮を見せるホルスを見つめていれば、やがて根負けしたようで、では、と遠慮がちにチョコレートケーキを指さした。ケーキを紙皿に取り分け、使い捨てのプラスチックスプーンを渡す。エリートには少々お粗末なカトラリーで申し訳がないが、ホルスは文句は言わないだろう。そう思ってちらりと顔色を窺えば、案の定不満げな色はなく、それどころかつんと澄ました顔に尊敬する叔父様と食べるケーキへの隠しきれない嬉しさが滲んでいる。
    「いただきます」
     二人で手を合わせて、ケーキを一口頬張る。
    「ん、うまい」
     思わず声が溢れる。ホルスもこれは、と呟いていた。
    「流石、リョウタだね」
    「ふふ、叔父様には随分とお目が高いお友達がいるようですね」
     あまりの美味しさにお互いに無言で食べ進める。気が付けば最後の一口。ふとホルスに目を向ける。パチリ、と視線がぶつかる。何かを期待するような、そんな瞳がサモナーを中に映している。
    「ホルス」
     分かっている。サモナーは名を呼んだ。
    「……はい」
     ホルスが遠慮がちに返事をする。緊張と期待に僅かに震えたホルスの声が空気を震わせる。
    「あーん、ってしてほしい?」
     昔みたいに、という音には出なかった後ろの句は、ホルスから聞いた幼きホルスと叔父様が過ごした思い出の時を想像しただけのもの。つまりはただのつまらぬ嫉妬心だった。そんなサモナーの問い掛けに、ホルスは頬をうっすら染めながら動揺を露わにする。
    「いらない?」
     なかなか答えられない強がりなホルスを煽るように、フォークで残りのケーキを掬う。
    「……貴方は意地悪な人ですね」
     覚悟を決めたホルスがそっと目を閉じて、サモナーに向かって嘴を開けた。頬は赤く、睫毛がふるりと震えている。恥ずかしいのだろう。それでもホルスが叔父様に甘やかされたいと思う気持ちは恥らいに負けることはない。あぁ、いいな、と思う。そんなにも慕われ、愛されているホルスの叔父様がズルいと思う。
     だから少しぐらい、自分にも許されるのではないか──。
     「っ……、」
     ホルスの嘴のその先にケーキよりも先に柔らかなものが一瞬だけ触れる。たった一瞬だけ、それ以上はまだお預け。それはこの先の成長した自分とホルスのものだから。
    「叔父様……?」
    「こっちも美味しいでしょ」
     サモナーはにこりと笑ってフォークを置く。嘴の中に放り込まれた甘いケーキを咀嚼して、飲み込んで、ホルスはそれでもまだ僅かに動揺をしている。
     けれど摘み食いはこれでおしまいだ。二人の間の空気を断ち切るようにサモナーは紙皿とフォークを袋の中にまとめて突っ込んで立ち上がる。
    「さて、今日はここで寝よっか」
     風呂は明日入ればいい。取り敢えず睡眠が先だ。ホルスを引っ張って揃って布団に潜り込む。
    「ちょ、ちょっと……、」
    「いいでしょ、別に」
     ちなみにシロウには代わりに外泊届を出して貰っている。だから問題はないのだとホルスを無理に説得する。結局またホルスがサモナーの頑固さに根負けして諦めて布団に包まれた。
    「おやすみ、ホルス」
    「おやすみなさい、叔父様」
     そう言って目を閉じたホルスをサモナー少しだけ長く見つめてから目を閉じる。
     おやすみ、甥っ子、良い夢を。
     ホルスの叔父様の代わりに胸のうちでそう告げて、サモナーも夢に意識を委ねた。

    ******

     朝、サモナーはすっかり日が高くなった時刻に目を覚ます。まだ眠気の覚めぬぼんやりとした意識の中で昨日のことを思い出す。しかし、ともに寝たはずのホルスの姿は既になく、横を見てもあるのはただ温もりの冷めたシーツだけ。
     もしかしたら、穏やかな朝の一時を一緒に過ごせるかもしれないと、そんなサモナーの抱いていた淡い期待は叶うはずもなく。
    「忙しいんだもんな……」
     仕方がないか、とポツリと溢れた独り言。強引に布団に引きずり込んでしまったけれど、ホルスはよく眠れただろうか。自分は緊張で眠れないかと思いきや、ホルスの柔らかく温かな毛に包まれたせいか、ぐっすりと眠ってしまっていた。
     くよくよしていても勿体ない。何もなかったとは言え、あの忙しいホルスと夜を共に過ごせたのだ。
     それに、。サモナーはホルスの口にケーキを明け渡す前の己の大胆な行動を思い出し、ほんのりと顔を赤くする。お互いに何も言わなかったが、ホルスだってサモナーの行動に気付いていたはずだった。スマートとはほど遠い衝動的なそれは、叔父様には似つかわしくない。稚拙な行動を思い出せば恥ずかしいが、叔父様ではない自分からの気持ちを意識してくれやしないだろうか。そんな高望みを胸に、サモナーは布団から起き上がり、ぐっと体を伸ばした。
    「あれ?」
     不意に視界の端に見慣れぬものが映った。昨日、ホルスに勉強を見てもらった机の上に小さな紙袋が二つ置いてある。記憶を辿れば、確かホルスと町中で鉢合わせたときにホルスが持っていたショッピングバッグと同じロゴが書いてあった。
    「忘れ物かも」
     エリートな彼のおっちょこちょいな一面に頬を緩ませながら片方の紙袋を手に取った。しかし、紙袋に貼ってあった小さなメッセージカードに気がつく。
    「叔父様へ、か」
     どうやら忘れ物なんかではなく、ホルスからのプレゼントのようだった。ホルスの誤魔化し方からして全く予想をしていなかったわけではないけれど、すっかり忘れていた。
     サモナーは机の上に置いてあるもう一つの紙袋に目を向ける。サモナーも友人たちに二つプレゼントを贈ることはあれど、わざわざ別の袋に分けて贈ることは滅多にない。何か物と食べ物系ならば話は別だが。
     そう思いながらもう片方にも手を伸ばす。くるりと表を返してみると、紙袋の上の方に小さな文字が書かれているのを見つけた。そこに書かれたのは「叔父様」ではなく、自分の名前。サモナーは自分の胸が高鳴るのを感じる。じわりと零れた微笑み。ホルスの意図は分からない。けれども、もしかすると高望みだと思っていたものは頑張れば手が届くところにあるかもしれない。サモナーは期待に包まれながら紙袋の中を覗いた。
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