遠回りよろしく 相手方の妨害電波が消え携帯の電波が復活し、迎えを呼んだまでは良かった。部下に車を回してもらう、そこ三十分ほどの距離だった。
会員の梶がベンチに腰掛け、門倉さんもどうぞと先程の鋭い目つきは何処へやら、緩んだ目線で呼ぶものだから仕方なく隣へと座る。するとどうだ、こちらへ体重を預け、うとうとと舟を漕ぎ出した。
「梶様」
「ちょっとだけ、肩貸してください。門倉さん」
これが狙いだったのだろう、まったく立会人を壁代わりとは。舐められたものだ。
「僕、今日、頑張りましたよね」
間近で見ていた私だから分かる。梶は確かに命を張っていた。だがそれは至って普通のことだ。こと賭郎勝負に於いては。
だが不思議と起こす気分にはなれなかった。どうせ迎えが到着すれば起きることになる。
「いまだけですよ」
呟いて、横目で盗み見た梶は静かに笑った。
部下にメールを打つ。
もうすこし、このまま。